真冬のワガママ
「寒い、死ぬ」
真冬に突然呼び出されて何かと思ったら、目の前で女とイチャイチャしている及川がいた。何のために俺を呼び出したんだよ、マジで。
「あ、名前ちゃん。ごめん、待った?」
「別に。良いから何の用だよ」
マフラーに顔を埋めるようにしながら及川を睨むと隣にいた女が何故か俺を睨んでくる。
「いや、名前ちゃん暇かなと思って」
「てめぇが呼び出すから仕方なく来たんだろ…デートしてんなら何でわざわざ呼び出してくるんだよ、死ねよ」
「え、デートじゃないよ?勝手にこの子が着いて来たんだよ」
「は?」
「名前ちゃん、デートしよ?俺と」
どこまでもマイペースに話を進めていく及川に眉を寄せると、隣にいた女の腕を払って俺の腕を掴む。
「デート?行くんならさっさと行くぞ…寒い」
「ありがとう!じゃあね」
サラリと及川が女と別れを告げて、俺の腕を引いていく。すれ違う人もまだまだいる中で及川の手が俺の手を握った。思わず手を引いて離そうとしたら、しっかりと及川が手を繋いでポケットに突っ込まれた。
「ちょ、何してんだよ!」
「大丈夫だって。誰も見てないから」
楽しそうに笑う及川にそれ以上文句も言えなくなり、黙って及川に着いて行く。どこに向かうのかも分からないまま、黙々と歩いていく及川の後を追う。
「名前ちゃんさ…俺が他の女の子と仲良くしてても、何も思わないの?」
「お前は前からそんなだから今更、何も思わねぇよ。どうせ俺の所に帰ってくるんだし」
勢い良く振り返ってきた及川の顔がニヤニヤしていて、思わず眉間に皺が寄る。
「名前ちゃん男前だねー!及川さん照れちゃう!」
「アホか」
マフラーで鼻を隠すようにしながら及川の隣を歩く。及川の服のポケットに入っている手はすっかり温まった。
「ファミレスでも行こっか」
「マジでお前何の為に、俺を誘ったんだよ」
もう少しで夜中になりそうな時間帯のせいか風も冷たい。クリスマスは終わったというのに、未だにイルミネーションをやっている店が何軒もある。
「最近、名前ちゃんと話出来て無かったなと思ってさ」
「してんだろ、部活で」
「部活ではほら!岩ちゃんとかいるじゃん!」
「あー、まぁそうだな」
「それに大概、国見ちゃんとかに名前ちゃんのこと盗られちゃうし」
「大事な後輩だろうが」
拗ねた表情で唇を尖らせる及川にそう返して、ファミレスの中に入った。少し人の少ない店内の中に入って腕をポケットから抜こうとしたら、及川が掴んだまま離さない。明らかに席まで案内してくれている女の店員が変な顔をしている。
「…………」
「名前ちゃん顔が不細工になってるよ」
「分かってんならさっさと手離せ」
及川の正面の席に座ってからもポケットから手を出しはしたものの、離してはくれない。これだと余計に目立つし、ただのバカップルみたいで気持ちが悪い。男同士でこんな事をやっているのを見られたら更に気持ち悪く思われそうだ。
「またいつでも繋いでやるから、今は離せって」
「ほんと、岩ちゃん並みに男前だよね」
「あぁ、岩泉は男前だよな。あれは男でも惚れそうだ」
俺が話の流れでそんな事を言うと、及川が黙った。それからオーダーを聞きに店員が現れた時、テーブルの下で靴を脱いでいた及川の足が俺の足を撫でた。
「っ!」
勢い良く及川を見ても、及川は何も知らないような顔で店員に料理を頼んでいる。
「名前ちゃんは?」
「えっ、あー…及川と同じので良い」
「じゃあ同じので」
店員は料理名を繰り返してから俺たちのテーブルから離れていく。
「お前、いい加減にしろよ」
「こわーい!名前ちゃん般若みたいな顔になってるー!」
「もう良い。飯食ったらさっさと帰るからな」
「えー…もうちょっとデートしようよ!」
「明日も朝練あるだろ。さっさと帰って体休めとけよ」
「…………はーい」
その後、運ばれてきた料理を食ってから店を出た。相変わらず及川は俺の手を握って歩いていく。騒がしかった場所からは少し抜け、住宅街に入る。
「及川、ここまでで良い。お前…そっちだろ?」
「うん、じゃあね」
「また明日な」
適当に手を振って別れたと思ったら、及川に強く腕を引かれる。思わず後ろに転けそうになって文句を言ってやろうと思ったら、口を塞がれた。
「んっ…んっう…!」
少し開いた唇から及川の舌が入ってきて、お互いの舌が触れる。段々と体が熱くなってくるのを感じて、このままだと面倒な事になると思っているのに止まらない。
「んっ、ふ…」
恥ずかしい音をさせながら、舌を絡ませて夢中になっていると及川の手が俺の腰を撫でる。
「んんっ、ん…!」
半ば無理矢理、及川と体を離して及川を睨む。
「こんな所で盛るな!馬鹿!」
「名前ちゃんも満更でも無かった癖に…」
「うるせぇ!日曜日覚悟しとけよ!」
「うん、待ってるね」
嬉しそうに笑った及川に恥ずかしくなって、俺は背を向けて走り出した。