弱々しい君じゃ



「だからごめん」
「もう良いって」


まだ何か気になる所があるのか旭は俺の顔を見つめてくる。デカい男が西谷並みに小さい男に向かって、頭を下げている姿はかなり面白い光景だろう。


「電車遅延してたんだから、しょうがないだろ」
「でも…名前のこと一時間も待たせるなんて…」


何度も頭を下げる旭の手をとる。俺のその行動に周りを見て慌てている旭を無視して、俺は手を引っ張ってとりあえず近くの喫茶店に入る。


「あー、あったか…ほら旭も座れって」
「うん…」


俺の顔をずっと見つめる旭に思わず溜め息を吐く。そんな事にも敏感に反応した旭
俺はどうしたら良いんだろう。


「旭、俺はもう良いって…許すって言ってんだろ。あんまりしつこかったら、今度はそっちで怒るぞ」
「ごめん…」


「ほら、何か温まるもの頼めって」
「うん、ありがとう。名前」


メニューを見て飲み物を頼んだ俺達は外の景色を眺める。皆、マフラーに顔を埋めたり、手をポケットに突っ込んだりしている。


「なぁ、旭。もうちょっとで試合だな」
「うん…」


「試合は勝つ気満々なんだけどさ…受験勉強してる?」
「うん、ぼちぼち」


俺と旭はお互いに受験する大学を言ってない。無理にお互いのレベルに合わせるのも嫌だし、そりゃ同じ大学に行けたら良いだろうけど…結局は一生一緒にいるなんて事は出来ないから。


「名前…あのさ、大学なんだけど…もし近所の大学だったら一緒に暮らさない?」
「え…良いのか?」


「うん。ずっと考えてたから」
「そっか、ありがとな。うん、楽しみにしとく」


喫茶店で体を温めてから俺達は目的の物を買うために店へと向かう。サポーターを買って、ついでにシューズも見たりしているとあっという間に時間が過ぎていく。


「じゃあね、名前」
「今日はありがとう、また明日な。旭」


手を振って別れて喫茶店で話した言葉を思い出す。


「楽しみにしとくとか…言ってんじゃねぇよ」


小さな声でそんな言葉を言って、流れそうになる涙をなんとか堪える。俺は地元の学校には行かない。東京の大学に進学する事を決めている。


「ただいま」


家に帰って、自分の部屋のベッドに寝転がった。我慢していたのが止まらなくなって涙が流れる。声を必死に抑えようとしても止まらない。


「あ、さひっ…」


ずっと一緒にいたいと言えたら楽なのに。そんな言葉を言える訳がない。
涙を拭った時、俺の携帯が鳴った。画面を確認するとそこには木兎と表示されている。泣いていた事がバレないように咳払いをして、見えていないのにもう一度涙を拭う。


「もしもし」
「よーっ!名前!」


相変わらずいつでも元気一杯という感じの木兎の声
その分、落ちたら大変なんだろうけど。


「そっちそろそろ代表決定する試合なんだろ?」
「あぁ、うん。今日は整備が入ってて休みだけど自主練とかもやってる」


「俺等も頑張るから烏野も頑張れよ!ジャパンに負けるなよ!」
「ちょ、ジャパンって言うなよ!白鳥沢な」


「そうだった!」


のんきに笑う木兎に思わず俺も笑ってしまう。涙も引っ込んで話に夢中になる。


「なぁなぁなぁなぁ!名前はどこの大学受けるんだ?俺はなスポーツ推薦なんだぜー!さすが俺!」


ちなみに学校名はなぁ!と続けてきた木兎が言った学校名が俺が受けようとしている大学と同じ名前だった。


「俺、その学校受ける予定」
「マジか!一緒にバレーやろうな!」


「うん、受かったらな」
「名前なら受かるに決まってんだろ!じゃあな」


言いたい事を言い終わったのかすぐに電話が切られる。台風みたいにあっという間に去っていた木兎に苦笑いする。


「ほんとうっせ…」


小さな声で笑って母さんに呼ばれて、部屋を出た。