穏やかな時



※粟田口の次男的ポジション


今日は薬研や乱などの短刀達が集まって、内番をしている。兄である一期とどちらかというと、兄的立ち位置にあるらしい俺も内番の手伝いに向かっている。正直に言うと、非常に面倒くさい。俺は畑仕事はあまり好きじゃない。まぁ、他の内番仕事をやるかと言われると、微妙何だが…


「悪いな、名前兄」
「あぁ、気にするな。まぁ…一期がいるし俺は適当にやるよ」

「相変わらずだな。まぁ、今日は俺達全員で畑仕事だから任せとけ」


薬研が自信満々に言っている。非常に頼もしい。
ふと視線を弟から屋敷の方へと向けると燭台切が忙しそうに、台所と食堂を行ったり来たりしている。


まだ一部この本丸には来ていないが粟田口は人数が多いから、ここは他に任せて俺は燭台切の手伝いに行こう。内番服についた汚れを軽く落として屋敷へと入る。忙しそうに動く燭台切に声を掛けた。


「何か手伝える事はあるか?」
「助かるよ。皆にお菓子を用意したからそれを配ってほしいんだ」

「分かった」
「じゃあ、よろしくね。多めに作ったから粟田口の皆で食べて」

「ありがとう」


お盆に乗ったお菓子は燭台切が手作りしたプリンという甘いデザートらしい。たくさん燭台切に甘い物を作ってもらっているが、俺はまだ一口も食べた事が無い。


まぁ、日頃サボってばかりいる俺が内番終わりで疲れている弟達が嬉しそうに食べているデザートをのんきに食べる事なんて出来ない。だから内番を良く頑張っていた弟に俺の分のデザートをプレゼントするようにしている。


三条や他の刀派の刀剣達にプリンを配り終えてから縁側に座っていると、内番を終えた弟達がやって来た。俺を見つけて続々と縁側に並ぶようにして座った。それぞれにプリンを配りながら俺の分のプリンを既に一つ、プリンが盛り付けられている皿に綺麗に盛った。


「え?僕にくれるの?」
「あぁ、良く頑張ってたからな」

「ありがとう、名前兄!」


プリンを受け取ってくれた乱が嬉しそうにスプーンでプリンを掬って、何故か俺の口にそれを近付けてくる。どうしたら良いのか分からずに黙っていると乱が不満そうに唇を尖らせる。


「口開けてよ!名前兄はいつもこうやって燭台切さんの作るお菓子食べてないじゃん」
「あー、そうか?」

「そうだよ!だからはい」
「……ん、美味い」


一口食べると甘い香りが口の中に広がる。そんな俺の姿を見て、乱は満足したのか皿に入ったプリンを食べ始めた。とりあえず弟達がプリンを食べているのを確認してから、その場を離れた。そんな俺の姿を一期が見ていた事には全く気付かなかった。


部屋に戻った俺は机に置いてある本を手に取ろうとして、五虎退の虎が突然足にまとわりついてきた。


「どうした?」


他の四匹と離れてしまったみたいで、一匹で俺に甘えてきている。虎の頭を撫でながら顎の下を撫でて体を持ち上げる。
五虎退はまだプリンを食べているんだろうか。甘えるように小さな声で鳴く虎に胸が締め付けられるけれど、それは五虎退にしてあげたらきっともっと可愛がってくれるぞ。と思いながら、五虎退を探す。


「あ、名前兄…」
「五虎退、ほら。俺の所に来てたぞ」

「ごめんなさい…虎くんが…」
「大丈夫。良い子にしてたから」


申し訳なさそうに眉を下げた五虎退の頭を撫でて微笑むと、安心したように五虎退も微笑んでくれた。たまには弟達とのんびり過ごしてみるかと考えていた時、燭台切が俺を呼んだ。


「ごめんね、お菓子の準備も手伝ってくれたのに…夕食まで」
「あー、別に良いよ」


まぁ、弟達の事は一期に任せたら大丈夫か。そう考えながらも少し寂しくなる。
燭台切の手伝いを終わらせ、夕食も済ませて弟達は早々に眠ってしまった。俺は一期と同室で先に部屋に戻ってきた。一期はまだ主の元にいて仕事をしているのか、それとも酒でも飲んでいるのかまだ帰ってきていない。
二人分の布団を敷いて、寝ようとした時襖が開いた。


「今日は早いんだね」
「あぁ、うん…何か頼まれる前にさっさと寝ようかなって」


少し頬が赤くなっているような気がする一期が部屋に入って来て、今日は酒を飲んでいたことが分かる。何となく一期を目で追っていると机の上を整理している。


「一期、 寝ないのか?」
「寝るよ。名前、今良いかい?」

「あぁ、何?」
「ほら、いつも名前は頑張ってくれているから」

「別に俺は何も…」
「主にお願いしてこれを買って来たんだ」


一期が出してきたのは俺が気に入っている酒で、中々酒屋にも売っていない酒だ。それを受け取ると一期がそれで満足したのか布団に入ろうとしている。


「一期、ありがとう」
「いつも頑張っているからね」

「なぁ、もう寝るのか?」
「そうだね。明日も早いから」

「なら今度、時間のある時に一緒に飲まないか?」
「なら明日一緒に飲もう」


布団に入った一期を見てから俺もそれに倣うように布団に入る。肩まで布団を被り目を閉じようとしたら隣にで眠っている一期が動いた事に気付いた。視線をそちらへ向けると、一期が俺の方を向いていて、手を伸ばしてくる。


「え…」
「いつも良く頑張っているからね」


俺の頭を優しく撫でた一期に恥ずかしくなる。弟達の頭を撫でる事は良くあるが、撫でられることはほとんど無いから自分が今、弟達には見せられないような顔をしている事は分かる。


「や、止めてくれ。撫でられるのは慣れてないんだ」
「ふふっ、そうみたいだね。もう寝ようか、おやすみ」

「………おやすみ」








粟田口の次男的無気力刀剣男士