罪人殺しの刀



「早く俺を捨てた方が良い」


顕現されてから放たれたその言葉に俺と近侍の加州は、何も言えなかった。全身を包帯で隠したその見た目、唯一見えている髪の毛と目は共に黒だった。その腰には加州達と同様に刀が差してある。
最近、実装された名前という刀は打刀であり最後まで何人もの罪人を殺してきた刀だったらしい。


「よ、よろしくな。名前」
「…………俺を破壊しろと言った筈だが?」


鋭い視線が俺を睨み付けてくる。山姥切のような感じの刀なんだろうなと思っていたが、全く別物だった。顕現する際に誰もが出す花びらのような物も見えず、開口一番でそれ。


「ちょっと…主は貴重な資材を使ってあんたを顕現したんだよ?」
「誰も頼んでいない。俺は眠っていたかった」


「主、こんな奴…」
「刀解はしない!」


名前の前できっちりと言い放った俺は加州を連れて審神者の部屋に戻った。加州と共に審神者ちゃんねるにアクセスすると、たくさんの名前に関する罵詈雑言で溢れかえっていた。


55 無名の審神者
せっかく貴重な資材使って富士まで使って顕現してやったのに、あんなこと言いやがった。速攻、グラだけ回収して重傷破壊してやった。

69 無名の審神者
>>55
俺も55と同じ

72 無名の審神者
何を思ってこんな刀剣男士作ったのか理解出来ない

81 無名の審神者
とりあえず放っておいたら飯も食わない。当番もやらない。出陣もしない。
本当に刀解以外は受け入れてくれないみたいだ

101 無名の審神者
うちのは近侍が世話焼き堀川だったから、面倒見てるよ。
段々と慣れてくるみたい
ちな顕現から2ヶ月
出陣も当番も近侍もするよ。夜になったら部屋まで来て刀解してくれって毎日、言ってくるけど

354 無名の審神者
うちも>>101と一緒だわ
世話焼いてるのはいつもは世話ばかりしてもらってる三日月だけど


「俺は世話なんてやらないから」


加州にお願いしようと思っていたら、そんな事を言われた。それじゃ仕方ないかと思い、一度鍛刀部屋に戻ろうとしたら名前の声が聞こえてきた。


「何だ、貴様は。それよりさっさと俺を破壊するように言ってくれないか?」
「せっかく顕現したのに勿体ねぇなぁ」


「俺は眠っていたかった」
「時期に慣れるかもしれねぇだろ?」


「お前にはもう頼まない」


どうやら日本号が部屋から出てきた名前と話をしているらしい。表情を一切変えずに名前は日本号に背を向け自分の腰に差してあった刀を鞘ごと抜く。


「おいおい、どうするつもりだ?」
「誰も俺を破壊しないなら、自分で破壊する」


「は?おい、それは……」



日本号が名前の腕を掴み、すぐに腕を離した。


「俺に触ったら疫病神が移るぞ」
「お前、ただの付喪神じゃねぇな?」


「分かったならさっさと俺を破壊しろ」
「それは俺には出来ねぇな」


「………………」


刀を持ったままどこかに去っていく名前を咄嗟に追いかけようとしたら日本号に止められた。


「刀解はしないと言ったんだろ?」
「当たり前だろ」


「なら、大丈夫だ。後はこの正三位様に任せとけ」


何か策でもあるのかそう言いきった日本号にとりあえず任せておく事にした。






自分の刀を持って何か叩いて壊せるような物は無いかと辺りを探す。広い建物ですぐ迷ってしまいそうだが、どうせすぐに破壊してしまうのだから迷うかどうかなんて関係ない。


「…………」


桜が咲いている。俺を最後まで使い続けてきた色々な人間は皆、桜を見ては顔を綻ばせていた。武将に持たれた時も質屋に売られた時も最後には絶対に俺はまた罪人をそして主を切る為の刀として、元いた場所に戻ってしまうのだけれど。


「俺も…お前のように…」


お前のように…潔く散る事が出来たら良いのに。皆に必要とされている内に消えてしまえたら良いのに。
俺が戻ってきたらいつの日か恐れられ、罪人の血を浴びせる事が良しとされていた。そうすれば刀の怒りは静まると。


「俺は…」


俺はそんな物じゃなくただ使って欲しかっただけだったのに。普通の刀のように戦で主の為に戦いたかった。だけど俺を持った人間は皆、死んでしまう。持った者は最期、必ずその刀によって切り殺されると言われた。


「そんな刀を…」


燃やされて死にかけていた…ようやく死ねると鋼の一部だけ残された状態で、もうすぐ事切れる時だったというのにこんな時代にまで連れてこられて訳の分からない敵を倒せという。


「何て人間は傲慢なんだ」


包帯に覆われた体を見る。巻かれた包帯を片腕だけ取ってみた。するとそこには腕の半分を占める火傷があった。そして日の光に当たると酷く、痛んだ。


「っ……」


痛いという感覚は面倒だ。桜の木に隠れるようにしてゆっくりと元の様に包帯を巻き直す。だが初めての痛みと熱、体に指が上手く動かない。


「貸してみろ」


頭上から声がして顔を上げるとさっきからしつこいくらいに声を掛けてきている男がいた。


「……すまない」


こんな醜い物をいつまでも晒しておく訳にはいかない。大人しく目の前の奴に包帯を渡した。だが目の前の男は包帯を持ったまま、立ち尽くしている。


「おい」
「全身火傷してんのか?」


「……さぁな。今、ここに来てから初めて包帯を取ったからな。でも俺は罪人とともに燃やされた刀だから、全身火傷だらけだろう」
「そうか」


眉を寄せている男はそのまま無言で俺の腕に包帯を巻き始める。こいつが何を確認したかったのか良く分からない。