皆のおじいちゃん



のんびりとした本丸生活の中で久しぶりに鍛刀をしてみたら、数珠丸のイベントは終わったのに10時間が表示された。


「え、10時間…」
「うちにはもう数珠丸はいるよね」


今日の近侍の加州が横から顔を覗かせてそんな事を言ってくる。確かに少し前に数珠丸の鍛刀イベントは終了した。無事に数珠丸も入手できたし、青江も喜んでいた。


「手伝い札使ってみるか」
「はい、主」


加州に渡された手伝い札を妖精のような見た目の彼に渡すとあっという間に、鍛刀が終了して現れたのは桜ではなく真っ白な花びらを舞わせたお年寄りだった。背中には子どもを抱くようにして紐で薙刀がくくりつけられている。


「おお、君が新しい主かの。随分とワシの若い頃に比べて小さき子じゃなぁ。ワシは名前……見た目通りの薙刀じゃ」


穏やかに笑って見せる目の前の名前と名乗ったお年寄りは顎に生えた真っ白な髭を撫でながら、俺と加州を見る。


「まぁ、白髪も生えてしもうておるがそこの赤子よりは良い働きをするじゃろうてな」
「はぁっ!?あ、赤子って!」


「おお、おお…そう怒ってくれるな。じじいの耳に響く。赤子というのは君の見た目の事じゃ、真っ赤な美しい格好をしておるじゃろ」
「っ……」


加州が名前から顔を逸らして、そっぽを向いた時名前はゆっくりと動いて鍛刀部屋を出た。


「久しぶりの空気じゃなぁ、懐かし懐かし。主よ、少し散歩をしてくる。なぁに食事までには帰ってくる」
「分かった。迷わないようにな!」


「分かった分かった」






何年ぶりかはとうの昔に忘れてしまったが、ワシを使おうとしてくれている若者の所にふらりと降りてみた。驚いた表情がとても面白かった。


「い、岩融!あの人!」
「どうした?今剣、何か……」


声が聞こえた方を見るとそこには見覚えのある姿があった。少しの間だけ共にいたことのある刀だ。


「おお、おお…久しいのう。元気じゃったか?」
「名前おじいちゃん!」


「可愛い姿じゃなぁ。良く似合っておる」
「わーい!うれしいです!」


「お前も随分と大きくなったなぁ。昔はワシの手が届いておったのに、今じゃ届かんくなってしもうたな……少し……いや、何でもないわ」


岩融はワシが知らない間に成長してしまったようで大きくなってしまっている。それが嫌では無いが昔は簡単に頭を撫でられていたというのに、少し寂しい気持ちがする。


「おおっ!」
「ガッハッハッ!何も気にする事はない。俺がこうして持ち上げてやれば良いだろう?」


軽々とワシを持ち上げた岩融の頭に優しく手を伸ばす。あの時と変わらない柔らかな髪に思わず微笑む。


「この感触ばかりは変わらんなぁ」
「名前のじっさまは老けたなぁ!」


「お前達が誕生した頃にはもうワシは存在しておったからのう」
「時が経つのは早いからな」


地面に足をつけられて、今剣と岩融と別れふらふらとまた歩き始める。何だか、少しだけ寂しい気分だ。ワシだけ何でこんなにも歳をとった風貌で生まれてしまったのか分からない。ワシはそんなにおんぼろな薙刀じゃない。


「…………老いぼれてしもうたのう」


白髪、白髭、腰は曲がってはいないが身長は縮んでしまった。刀自体は何も変わってはいないというのに。


「……寂しいものじゃなぁ」


髭を撫でて胸にあった紐を解く。手に馴染むこの重さに思わず笑ってしまいそうになるが、あまり実践で使われていないにも関わらず少し欠けてしまっている刃に肩を落とす。


「名前さん?」


控えめな声が掛かって振り返るとそこには同じ刀派の燭台切光忠がおった。


「光か、久しいのう。元気にしとったか?」
「うん…」


「寂しい思いをさせてしもうたか?」
「うん…」


「そりゃあそりゃあ悪かったなぁ。ほらおいで」


薙刀を元のように紐でくくりつけてから、光に向けて両手を広げる。立派になったもんじゃなぁと感じながらも嬉しく思う。
素直にこちらにやってきて、ワシに抱きついてきた光をあやすように背中を撫でる。


「お前の事じゃから、また一人で頑張っとったんじゃろう。光や」
「そんなことないよ」


「ふふっ、このじじいにはお見通しじゃ。気を遣うな。ワシにくらい甘えても良いんじゃ」
「うん…ありがとう」


体を離して穏やかに微笑んだ光はワシの手を引いて、縁側に座る。同じようにワシも隣に座るとワシの膝に光が寝転がった。


「はっはっ、じじいの膝は骨張っとるじゃろうに」
「僕はこれくらいが好きだよ」


「そうかそうか、可愛いのう。ワシの光や」
「うん…」


頬を撫でると猫のようにすり寄ってきて可愛らしい。思わず昔の事を思い出してしまいそうになるが止めておこう。無くなった片目が恋しくなってしまう。


「名前さん、僕のここいつになったらもらってくれる?」
「いつにしようかのう。もうこんなに老いぼれてしもうたから、光が大切に持っておくのも良いんじゃないか?」


眼帯の下に隠れた片目を何年も前にいつかワシにくれると約束した光は、今もそれを守ろうとしている。髪と大きな仮面で隠されたワシの片目はある日、突然欠けた刃と共に消えてしもうた。それを何故かこの光はとても気にしてしまっている。


「でも……」
「光や。お前の体の一部が無くなったらお前の前の主も今の主も困ってしまうぞ。お前はもうお前一人の物じゃないんじゃからなぁ」


「そう…だね。うん…」
「そんな物が無くてもワシは光を愛しておるよ、我が弟よ」


「うん、ありがとう。名前さん……僕も愛してるよ」


お前の愛してるが色を含んだ物になったのはいつからじゃったか。今でもそれは変わらずで、こんな老いぼれじじいに何の魅力があるのかと考えてみたけれど全く答えはいつまでも出ない。


「名前さん、大好きだよ」
「そうかそうか、嬉しっ……ん!」


少し体を動かした光がワシの唇を奪ってとても寂しそうに笑った。


「僕はいつまでも名前さんの返事を待ってるよ」


この目と一緒にね。






長船派
薙刀
見た目も口調もおじいちゃん
片目を仮面と髪で隠している白髪白髭