軽々しい約束



うちの家は貧乏で俺は高校を卒業してすぐに就職して働いていた。副業OKの職場だったから仕事に支障が出ない程度に副業をした。それでも妹や弟を学校に出さないといけないから頑張っていた時、ふと思った。
シングルファーザーで頑張っていた筈の親父はいつの間にか仕事を辞めていた。酒やパチンコをする事が増えていた。


「何やってんだろ俺…」


妹と弟は俺の味方で高校に入ってからはバイトをして大学の学費を稼いでいる。親父を空気のように扱っている日々の中で俺の名前宛に封筒が届いた。その中には一枚の紙切れが入っていて、日時と近所の喫茶店の名前が書いてあった。






「あなたに審神者になっていただきたいのです」


それからは話がサクサクと進み、妹や弟は早く親父から離れた方が良いと勧めてくれた。親父は俺が審神者でもらう給料がまた自分の所に回ってくると思ったみたいで、快く送ってくれた。


「主、そんな所に寝ては駄目だよ。寝るならきちんと布団で寝ないと」
「少しだけだから」


初期刀の歌仙が俺に声を掛けてきて、落ちそうになっていた瞼を浮上させる。目を擦って歌仙を見るとその手には、美味しそうな和菓子が乗った皿とお茶の入った湯飲みが入ったお盆を持っている。


「どうしたんだ?それ」
「あぁ、お小夜が用意してくれたんだよ」


「それは良かったな。二人で仲良く食べろよ」
「これは歌仙と主の分。僕のはこれだから」


廊下を歩いてきた小夜がそんな言葉を言って目の前に差し出されている菓子を見る。


「美味しそうだな、本当に俺が食べて良いのか?」
「その為にお小夜が用意してくれたんだから食べなよ」


「ありがとうな、小夜」


小夜の頭を撫でると目を閉じて気持ち良さそうにしてくれる。
この穏やかな空間が好きでいつまでも大切にしていきたかった。いきたかったのに…






「え?」
「ですから貴方のご家族の方の体の具合がよろしくないようです」


政府の人間から伝えられたその言葉
淡々と伝えられたその言葉に一瞬、時が止まったかのように何も考えられなかった。


「家族って誰ですか?」
「お父様です。お見舞いに行かれますか?ですが現世とこちらを何度も行き来するという事はあまり推奨出来ません」


「………………行きません」
「分かりました」


隣に立っていた二人は俺に何も聞いてこなかった。無言で自室に戻り仕事を再開する。俺は最低な人間だ。
少しだけざまあみろと思ってしまっていた。


「主、僕だ」
「……入って」


戸を開けて入ってきた歌仙は俺を見つめて、深く息を吐く。


「主がどうしてあんな選択をしたのかなんて聞かないけれど…一つだけ答えてほしい事があるんだ」
「何だ?」


「主はそれで後悔しないんだね?」
「……あぁ、しないよ」


真剣な面持ちだった歌仙の表情が和らぎ、俺の部屋へ入ってくる。いつものように出迎えようと思っていたら、何とは言えないがいつもとは様子が違うような気がする。


「か、歌仙?」
「約束してくれるかい?」


「え、あ……さっきの事か?分かってるよ。約束する」
「あなたは僕達と約束するってことがどんな事か分かってないんだね」


突然、背後から声が掛けられて肩が跳ねる。そこには小夜が立っていて、真っ直ぐに俺を見つめている。それよりもさっきの小夜の言葉を聞く限りだと、俺が軽々しく何も考えずに言った言葉はとても大事な言葉だったのだろうか。


「さ、さっきのは……」
「もう取り消しは聞かないよ、主」


歌仙が俺を背後から抱き締めてきて着ていた着物の合わせ目から手が入れられる。


「歌仙、止めろ!」
「好きだろう?主が何度か一人で処理しているのを聞いた事があるよ。そんなことしなくても僕に頼めばしてあげるのに」


「し、してない!そんな……」


いつもなら雅雅と言ってる歌仙がまさかそんな事を言い出すなんて思ってもいなくて、何とか体を押し退けて部屋を出て廊下を走った。


こんのすけを呼んでこの二振りをどうにかしてもらおうか?
でもあの二振りは俺の大事な刀だ。
そんな事を考えていたら後ろから小夜が追いかけてきたのがわかった。どこか部屋に入って隠れてしまおうと思って、その辺にあった入ったこともない部屋の戸を開けた。


「え……」


そこには破壊された短刀や打刀が散らばっていた。
出陣に行っても一振りも刀を持って帰らなかったのはここで破壊していたからなのか。


「歌仙、見つかったみたいです」
「主に隠していた訳ではないからね」


穏やかに笑う歌仙が近づいてきて、俺はその部屋に入って少しでも二人から距離を取ろうとした。でも畳に散らばった刀の刃や欠片が足に刺さる。


「いっ……!」
「主、動いちゃ駄目だよ」


「ひっ!か、かせん……なにっ…」
「怖がらなくても大丈夫だよ。僕とお小夜の物になるだけ」


たったそれだけの事だよ。僕達だけの主