破壊された思い
ブラック本丸注意
破壊要素有、転生有
「一期を手入れしようと思っていたんだけど資材が足りないんだ。少し遠征に出掛けてきてくれるか?」
初めはその一言からだった。
出陣から帰ってきたばかりの粟田口の短刀達にそんな言葉を言うと、すぐに笑って遠征に出掛けて行った。一期一振…彼ら、粟田口派唯一の太刀である。そしてこの本丸には既に一期一振は存在していない。
つい先日のこと、まだ錬度の上がりきっていない刀剣達で厚樫山へと出向き全員が折られた。審神者である名前はその事について深く考えず、こんな物なのだろうと楽観的に思っていた。
そして資材が足りなかったのは事実であり、今動けるのはあの粟田口の短刀達しか存在していなかった。審神者の部屋の鍵の掛けてある物置には、政府の監査に備えて幾つかの刀を用意していた。
「……どんな顔をするかな」
名前は成人した頃から奇妙な趣味を持っていた。幼い子供達の泣き顔を見る事が好きだった。
例えば母親に向かって全力で走っている子供が転んで泣いてしまった時には酷く興奮した。笑顔から一変したあの表情が欲を満たした。
いつも遊んであげていた一期が重傷になった姿を見せた時も
傷だらけになって帰ってきた時の名前を安心させるように無理に笑った表情も
ただ名前を興奮させるだけの材料にしかならなかった。
「主、お待たせしました!」
小さな体で資材を持って帰ってきた短刀達に表情を作って一言。
「少し遅かったみたいだ。俺の力が無いばかりにすまない…」
一期一振の刀の破片を短刀達に見せると途端に短刀達が泣いた。兄二人を一月前に壊された小夜だけは泣かず、黙ったまま名前の表情を見つめていた。
「……またこの夢か」
最近、俺は良く同じ夢を見る。小さな子供達が泣いたり戦ったりしている夢だ。俺はそれを楽しんで見ていて状況が良く理解出来なかった。
ベッドから出てシャワーを浴びて、今日の予定を確認する。今日は新入社員の面接が予定されている。
「行ってらっしゃい」
背後から声が聞こえて振り返ると結婚したばかりの俺の奥さんが眠そうにしながらも、俺を見送ってくれる。
「行ってきます」
時計をつけてマンションを出ると、迎えの車が止まっていた。
「面接の予定人数はどれくらいだ?」
「4人ですね」
「分かった」
外の景色を眺めながら会社への道を車が進んでいたら、そのまま車が会社の前を通りすぎた。
「おい、会社を通りすぎたぞ?」
「こっちの方向であってますよ」
「あってるって…お前、何言ってるんだ?」
「夢を見ませんか?」
一期が突然そんな言葉を言ってきて、すぐにあの小さな子供達の夢を思い出した。助手席に座っていた一期が振り返り穏やかに微笑んでいる。
その時、夢の内容が今まで音は無かったのに突然頭の中をその夢が流れた。
「……いちにいって…まさか…」
「ええ、私のことですよ。お久しぶりです。主」
そこで意識が途切れて次に目を覚ました時には四肢の自由が効かなかった。口には何かを噛まされ、後頭部で結ばれている。視界も奪われていた。
「んんっ!」
「目を覚ましましたか?」
目を隠していた布を外され、急に視界が明るくなった。一度目を閉じてからゆっくり開けるとそこには俺の会社で働いている部下や秘書、関連会社の連中までいる。
「貴方が私達や兄弟達を何人も殺してしまった。でも貴方は何も苦しんでいない。おかしいとは思いませんか?」
一期がいつも持っているケースから取り出したのは日本刀だった。何の躊躇いもなくそれを抜いた一期はそれを俺に向ける。腕は頭上のベッドの柵に紐で拘束され、足は開かされて天井から垂れている紐で固定されている。
「んぅっ!んんっ!」
「暴れないでください。変な所を切ってしまいますよ?」
最近、取引する事になった会社の社長…確か名前は江雪さんだ。彼が俺に近づいてきてワイシャツをハサミで切ってきた。 抵抗しようと思っても軽く体を動かす程度しか俺には出来ない。
「ん、ぐっ!」
「私の事を覚えていますか?」
江雪さんが俺の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせる。痛みに顔を歪ませると頬に痛みが走った。乾いた音も聞こえて、頬を叩かれた事が分かった。
「っ!……」
「これだけの事で表情を変えるとは短刀達はもっと痛い思いをしてきましたよ」
穏やかに告げてくる江雪さんに俺は恐怖心を煽られていく。何で俺がこんな目に合わないといけないんだ。今の俺がした事では無いのに。
「記憶が無いとはいえ主がしたことにかわりないからね」
眼帯をつけた男、燭台切は確か営業部に所属している男だ。成績がトップだったのを覚えている。
「あぁ、そういえば主の奥さん。今…妊娠してたよね。子ども……どの短刀の子が産まれると思う?」