君のために出来ること



政府の運営する会社で働いていた俺は現在、少しずつ減ってきている審神者の仕事を就活中の学生達に紹介していた。そんな俺が突然政府のお偉いさんに呼び出された。


「君はいつも素晴らしい成績を残しているみたいだね」


何を考えているのか分からないような顔つきで、俺の傍まで寄ってきた政府の人間は隣に立っている気弱そうな少年を見た。少年は真っ白な虎のぬいぐるみを抱いていて、今にも泣き出しそうな顔で俺を見た。


「……あ、あまり…霊力とかは感じないけど…だ、大丈夫だと思います…」
「ありがとう、五虎退」


五虎退と呼ばれた少年の頭を優しく撫でた男はどこかに電話を掛け始めた。未だに状況を掴めていなさそうな俺の上司は何も言わずに手を合わせた。どういうことだよ、クソ上司。


「ではそういう事ですので」
「は?」


「いってらっしゃいませ」


真っ黒の手袋を片手にはめた男が指を鳴らすと、視界が歪んだ。それと同時に床に穴が空いたように下へと俺の体が落ちて行った。


「あの…主さま…何も説明しなくて良かったんですか?」
「やっていけば分かるさ」


穏やかに男は笑う。ようやく状況を理解出来た上司は青ざめた顔で全身の力が抜けたように床に崩れた。






「いってぇ……」


尻と腰を強く打ち付けて起き上がると、頭に何かが当たった。地面に落ちたそれを手に取ると、研修で一度だけ受けた審神者体験で見た鍛刀時のように光と花びらを纏って少年が現れた。


「えっ……」


さっきの気弱そうな少年が立っている。ただその姿はさっきみたものとは違っていて、虎のぬいぐるみが大きな白い虎になり服装も違っている。


「主さま、初めまして。強くなった五虎退です」
「えっ……え、うわっ!」


虎が近づいてきて距離を取ろうとしたけれど、腰が抜けて動けない。辺りを見回してみても本丸と呼ばれる刀剣達の本拠地と言える建物があるのみで他の施設は見当たらない。


「うんんんっ!」


口を舌で舐められてその後も顔を中心に舐められる。


「虎くん、そろそろ止めないと駄目だよ」
「た…助かった…」


睡液で濡れた顔を適当に拭きながらとりあえず俺はこの本丸の審神者になってしまったんだと、何となく理解した。それに審神者の力となる霊力とやらが少ないということも。
現に本来なら初期刀として打刀が現れる筈が現れたのは短刀。何故か極状態の五虎退だけれど。


「今日からよろしくな、五虎退」






あれからしばらく経ち、俺は少ない霊力で何とか本丸運営をしていた。そんなある日政府から限定鍛刀の報せが届いた。しかも二振りも。一振りは天下五剣の刀らしい。戦力にはなってくれそうだが一日で何度も鍛刀をして、確実に出るわけでは無いのに鍛刀を行うのには少し抵抗があった。


「……どうするかな…」
「戦える人は…多い方が良いと思います…僕は…」


「んー、まぁそうだよな。うん…でも一日三回くらいが限界かなぁ」
「……あ、あの…………主、さま…」


少し顔が赤くなった五虎退が突然視線を泳がせながら何か言おうとしている。五虎退とずっと一緒にやってきたからか会話の仕方や少し待つ事も覚えた。


「あ、あの……主さまさえ良ければ…」


目を閉じて俺がプレゼントした虎のぬいぐるみを抱き締めた五虎退は、小さな声で衝撃の提案をしてきた。


「えっ?」
「す、すいません!……やっ、やっぱり嫌ですよね。僕なんて…ご、ごめんなさいぃっ!」


泣き出しそうな表情で立ち上がった五虎退が部屋を出そうになるのを腕を掴んで何とか止める。


どうやら五虎退によると初期刀限定で審神者がもしも資材が足りずに手入れなどの日常業務が出来なかった時に備えて、霊力の提供が出来るように作られているらしい。打刀だとそれが肌を通じて提供出来るみたいで、手を触れるだとかそんな事で良い。ただ短刀の場合はそうではないらしい。


「い、嫌じゃないから!俺はお前じゃないと嫌だ」


俺は何を言ってるんだろうか。
お互いに真っ赤になってそんな言葉を言って、五虎退は虎を連れてまた夜にと告げて部屋を出て行った。


「ま、また……夜に…」


何だかいつもはビクビクしている事が多い五虎退が男らしく見えた。けれど俺は男同士でヤった事なんて無いから、五虎退が負担にならないようにきちんと調べておこうと思う。