堕ちる君を止められない



「随分、楽になりました。ありがとうございました」
「傷は治したが後はお前がやるしかないからな」

「はい、分かっています。私は一期一振と申します」
「じゃあ一期、まだしばらくは布団で眠っていろよ」


眉を下げた一期はまた目を閉じて、今度は静かに眠り始めた。新鮮な霊気に満ちたからなのか一期のいる部屋は他の部屋より幾分か明るいような感覚になる。


「次行くか…」


部屋を出ると廊下から何かを持って、こちらに向かって歩いてくる薬研藤四郎がいた。疲れ切った表情で視線は床に向けられている。


「お前がやげんか?」
「その部屋で何してた?」

「一期の手入れをしてた。今はもう落ち着いて寝ている」


そう告げると短刀に掛けようとしていた手を下げて、薬研は俺に頭を下げてきた。


「手入れしてくれてありがとう」
「本来の審神者としての仕事をしただけだ。お前は……薬研藤四郎だろ?」

「あぁ、俺っちが薬研藤四郎だ」
「じっとしてろよ」


どこに傷が出来ているのかは分からないがとりあえず白衣に血がついているから、手入れはしておこう。それにしても本来は手入れを行うのに資材ってやつが必要みたいだが、何で俺はそういった物が無くても出来るんだろうか。
薬研の頭を撫でると頭から首、服と血痕が消えていき薬研が次に目を開けた時には血痕が全て消えていた。


「薬研、一番重傷者がいる部屋に案内してくれ」
「止めた方が良いと思うぞ」

「いつかはやらないといけない事だ」
「…………何で大将はこんな所に来たんだ?」


縁側に座った薬研は隣を叩いて俺を見る。そこに座れということか。そこに座って軍にいた時の記憶を思い出すけれど、まぁ好かれてはいない事だけははっきりと分かる。


「俺を殺したかったんだろ。あんな審神者の所にいた刀剣達なんて狂暴なのばかりだろうと思ってたんだろ」
「あぁ……はっきり言って大将が来た事で余計に俺達の神経を逆撫でしてるからな」

「分かってる。それでもここに来たからには仕事はしないといけないだろ。俺だって一度裏切られたのに簡単に信頼しろなんて言ったりしない。俺の指示を聞くも聞かないもお前らの自由だ」
「…………分かった。手入れを受けてくれそうな奴から連れてくる」

「悪いな、薬研。病み上がりで」
「気にすんな」


薬研が廊下を歩いて去って行くのと後ろに誰かが立っている事に気付いたのはほぼ同時で、相手と距離を取り刀に手を掛けて姿を確認する。そこにいたのは確か蜂須賀虎徹という刀だった。


「あの男が消えた気配がしたから、安心していたらまたか」


だが蜂須賀虎徹という刀は確か金色が印象的だった刀。その姿は今は反対の存在になっている。以前は金色だったそれは黒に染まり髪や目の色も黒に染まっている。


「お前、もしかして……」


もう手遅れなのか?と口にしようとした所で、蜂須賀が刀を抜いて俺に襲いかかってきた。


「驚いた」
「っ!」


刀を抜いて蜂須賀の一振りを何とか受け止める。だけど銃で戦ってきた人間と戦ばかりやってきた刀とは経験が違う。俺が刀を受け止めた事が意外だったのか目を少し見開いて、微笑んだ。


「君はどこまで知っているんだ?」
「何がだ!」

「ここの事に決まってるだろ?」


俺の刀を蜂須賀が振り払うように刀を振るい、距離を取る。


「前の審神者がお前達を手入れしなかったり、一部の刀剣を襲ったりしていた事は知っている」
「やっぱり何も知らないんだな」


眉を寄せた蜂須賀が刀を鞘におさめ、背を向けて歩き出す。俺も脇差を鞘に戻し、蜂須賀の背を眺める。


「俺たちはあれが最初じゃないんだよ」
「最初じゃ…ない?」

「あれを含めて三人だ。この場所にやってきた男は……本当の最初から残っていた刀はもういない。三人だ。三人……結局は同じような状況になって、皆壊された」


それでも君は俺達を助けようって言うのか?


「お前が大切な人とそうじゃない奴等の区別がつかなくなって、傷つけても良いのか?」
「そうやって訴えかけようなんて君も他の奴等と変わらないな」

「変わらない。俺は少し他の奴等より霊力が多いだけの人間だ。お前達に無理を強いる事もあるだろう。けどな俺は…」
「黙れ!何を言っても君も一緒だ!」

「蜂須賀!このままだとお前は……本当にっ…」
「俺に構わないでくれ!」


怒鳴った蜂須賀は振り返る事もなく、建物の中に消えていった。俺も少ししてから建物に戻ると、丁度良く薬研が何人かの刀剣男士を連れてきていた。