俺の傍から離れないで
「なぁ、薬研。確かに連れて来てくれとは言ったがきちんと話をしてから連れて来てくれたのか?」
「それは大将が自分でやるもんだろ」
三人の刀剣を連れてきた薬研はそれだけを言ってまた廊下を歩いて行ってしまった。一人、その後を追ってどこかに向かおうとしている刀剣の腕を掴んだ。
「信頼するかどうかはお前が決めて良いから、手入れだけはさせてくれ」
「………………」
鋭い視線を向けられ思わず手を離しそうになるが、それでも離さずに彼ー宗三左文字を見つめる。
「……お願いしようかな。このままだと格好悪いしね」
俺の背後からそんな声が掛かって、振り返ると眼帯をつけた青年ー燭台切光忠が微笑んで俺を見て言う。それでもさっきから掴んでいる腕を離さないでいると、宗三は溜め息を吐いて俺の手を優しく離した。
「分かりました」
「……そうか、ありがとう。お前もありがとうな」
「僕は燭台切光忠だよ」
「俺は今日からここの審神者になった男だ。よろしく頼む」
燭台切の黒髪を撫でるときょとんとした視線と目が合う。何かを感じたのか燭台切は目を閉じる。俺が手を離すとゆっくりと開いた。
「主の力はとても心地良いね」
「そうか?まぁ、傷も無くなったみたいだし良かった。お前も座ってくれるか?」
黙って俺の目の前に座った宗三は何でもないような顔をしているが、腹には包帯が巻かれている。それにさっき薬研の後を追って歩き出そうとした時、右足を引きずるようにしていた。
「少し触るぞ」
「ええ、どうぞ」
一番傷が深そうな腹部に痛みがない程度に触れて、目を閉じる。集中して彼の傷が治るように…ただそれだけを願う。ゆっくりと目を開けると同時に彼の背後から加州が歩いてくるのが見えた。隣には乱がいる。
加州にきちんと報告をしないと。そんな思いで口を開こうとした時に視界が歪み、加州の表情が一変したのを見てから意識が飛んだ。
「えっ…」
宗三左文字は咄嗟に手を伸ばした。宗三が予想していたよりも遥かに軽かった目の前の新しい審神者と名乗った彼
柔らかな霊気で包まれた自分の体に少し戸惑いを感じながらも、目の前の彼の温もりに少し荒んでいた気持ちが癒えていくような気がする。ただ気がするだけだけれど。
「主!」
宗三の隣にやってきた加州は心配そうに名前を見て、目の前にいた宗三を睨む。
「もう手入れしてもらったんなら、部屋に帰りなよ」
「そうさせてもらいますよ」
宗三は特に気にした様子もなく返事を返し、廊下を歩いて行った。加州は優しく名前を抱き上げ廊下を歩いていく。
「大丈夫?」
「大丈夫」
乱が加州の隣を歩き、心配そうに様子を窺うがまだ会って間もない二人の状態を顔を見ただけでは理解出来ない。
そんな時、ふと廊下を歩きながら庭に視線を向けた。
「うわぁ…」
乱が思わず出した声に加州の足が止まり、視線に吊られるようにして庭に視線を向ける。
「うわ……」
色々と忙しく部屋の中で作業をしていたせいか、外にまで視線を向けていられなかった。
荒れ果てた野菜も育たなくなったような土だった庭から一変して、枯れ果てた木には桜の華が咲き池には澄んだ水があり、空は少しずつ雲がはれてきていた。
「主さんのおかげだね」
「無理ばっかして…ほんと…」
綺麗になった部屋をすぐにでも見てもらいたくて、急いで探していたのにまた体調が悪くなって倒れているなんて思いもしなかった。
整頓された審神者の部屋に名前を優しく寝かせて、加州は一息吐いた。
「さっさと目開けて」
この部屋見て、綺麗になったねって褒めてよ。