少しだけ貴方の気持ちが知りたい
「あ……」
小さな声が聞こえて顔を上げようと思うのに体が重くてそんな事が出来ない。この声はどこかで聞いたことがあるから、加州か乱、一期辺りか?
「あ、主さん」
震えた声が少し俺に近づいてくる。この声は乱か。とようやく気付いて、ゆっくりと無理矢理に顔を上げた。怖いだろうに心配してくれているのか、一定の距離を保ちながらも俺の顔を見つめている。
「………薬研を」
「うん、分かった」
「ありがとな、乱」
「…………うん」
廊下を走っていく音が聞こえてゆっくりと体を動かす。 しばらくして薬研がやってきて、俺の顔色や脈を見る。
「それで蜂須賀の旦那は手入れ出来たのか?」
「なんとかな」
「そうか、良かったな。大将…今日はもう休め」
「そういう訳にはいかない」
「大将が俺達を手入れしたいと思っているように、直された俺達だって大将が心配で休んで欲しいって思ってるんだ」
分かってくれ、大将。と続けた薬研は小さな体で意図も簡単に俺を抱き上げた。
「おいっ!」
「良いから大将は黙ってろ」
確かに俺は身長といい筋肉のつき方といい小柄な方だが、自分よりも小柄だと思っていた薬研にこんな事をされるとは思ってもいなかった。それからは声を出す気力も惜しくなって、黙ったまま以前の審神者が使っていた部屋に向かう。
「すげえな、大将は」
「…………」
「今までこの部屋には俺は意地でも入りたくないような空間だった」
優しく俺を畳に寝かせて押し入れから布団を持ってきて、畳に敷く。手早く準備をしてくれた薬研が俺を布団に寝かせてくれる。
「加州の旦那には伝えておくから」
「良い、言わなくて。また心配させるからな」
「……分かった」
部屋を出て行った薬研を見てから目を閉じる。自分の霊力に部屋が包まれているからなのか、体のだるさや重さがすぐに無くなった。だが用心の為に少し寝ておこう。
誰かに優しく撫でられているような感触がする。薬研か加州どちらだろうか。加州だったら謝らないといけない。元々、体は丈夫なつもりだったのに普通の風邪や二日酔いなんかとは違って体の奥の方から全身に掛けて、力が抜けたように疲れてしまうから霊力を使いすぎるとそうなってしまうんだろう。
「加州…?」
「違いますよ、あの刀なら呼んで来ましょうか?」
今まで聞いた事のない声が聞こえて、目を開けるとそこには宗三がいた。
「随分とか弱い主の元に来てしまいましたね」
「体は丈夫だと思ってたんだが悪いな。なぁ、もう少し撫でてくれ」
俺がそうねだると宗三は一度、手を止めたがすぐにまた俺の頭を優しく撫でる。
「僕に頭を撫でさせる主なんていなかったですよ」
「それはお前の前の主は惜しい事をしたな」
「それはここでの事ですか?」
「お前の思いたいように思えば良いよ」
「魔王はそんな事しませんよ」
「あぁ、お前の主はそんな呼ばれ方をされていたな」
魔王と言われて僅かに残っている歴史の知識を引っ張り出してくる。確か織田信長の呼び名だろう。宗三の細い指が俺の髪に触れる。会ったときには気付かなかったが、甘い花の香りがする。
「主ー!」
加州の声が聞こえて返事を返すより早く、部屋の障子が開いた。俺と宗三を見た加州は表情が固まった。これはまずい状況になっているような気がする。
「主、また体調悪くなったの?」
「や、これは……ちょっと…」
「しばらく手入れ禁止」
「えっ!?」
「手入れ禁止!って言ったんだよ!」
「…………分かった」
物凄く加州を心配させて怒らせてしまったらしい。今までそこまで誰かに心配されるなんて無かったから、少し嬉しくなってしまった事を本人に言ってしまうとまた怒られてしまうだろう。
「燭台切が手伝ってくれて、夕食準備したから」
「あ、そうだな。食べるか」
そういえばここに来てからまともに食事を摂っていなかった。刀剣達も人間の姿になったのだから、ご飯は食べるだろうし何十年振りかに大人数で食べる事が出来そうだ。
「どこで食べるんだ?」
「この部屋で良いんじゃない?」
「燭台切が人数分運ぶの大変じゃないか?」
「え?」
「えって?」
しばらく沈黙が流れた。もしかして、刀剣は食事をしないんだろうか。でも一応は人間の姿な訳だから食べる事も可能だろう。
「お前らもご飯食べないのか?」
「僕達は食べるという行為をしなくても生きていけますから」
「そうか。ならこれからは食べる事にしよう」
「そうですか。では僕は貴方が食べる食事という物を作ってみたいのですが」
宗三からの言葉に一瞬、返事が遅れたがすぐに頷いて返す。
「じゃあ加州と燭台切の三人でやってもらっても良いか?」
「分かりました」
「俺も良いけど。一応、燭台切にも聞いとく」
「あぁ、よろしくな」
少しずつこの本丸が正常に動き出していこうとしているけれど、まだまだ残った刀剣達の傷はきっと深い。