あなたを待っていました
手入れ禁止を加州に言われてから俺は無理のない程度にこの本丸内の施設の整備をしていた。まだ刀剣達は全て揃っていないから、鍛刀部屋も使う可能性がある。
「よしっと……」
雑巾で箪笥や置かれていた道具を拭いて、元の位置に置く。小さな妖精のような刀鍛冶が何度も頭を下げてくれた。小指で頭を撫でてみるとしばらく動かずに、急に泣き出してしまった。
「えっ……」
小さな刀鍛冶の目から涙が流れ本人も必死に止めようとしているようで、目を擦っている。
「あんまり擦ったら腫れるぞ」
この小さな奴も神なのだとしたら、腫れるのかどうかは良く分からないが。とりあえず泣き止んだ刀鍛冶に後を任せて廊下を歩く。
蜂須賀の手入れが終わって、薬研に今いる刀剣を書き出してもらったら刀帳は綺麗に埋まっているがその半分以上を今回の審神者のせいで、失ってしまっている。
「後少し」
薬研からもらった刀剣の名前が書いてある紙を取り出す。手入れの終わった刀剣は線を引いているが、まだあまり手入れしていないように感じていたのに残っている刀剣は少なかった。
「あ、畑」
他に何かやる事は無いかと探していた時にこの本丸にある広大な畑の事を思い出した。あそこならかなりの時間を潰せる筈だ。すぐに俺は部屋に帰り、ジャージに着替えてから畑に向かう。俺の霊気のおかげなのか使い物にならなさそうだった土も今は雑草まみれだが、あの頃に比べたらなんとかなりそうだ。道具も全く使われていない新品が倉庫に入っていたし、畑作りの事は良く分からないがとりあえず雑草を抜いて何かを植えれば良いんだろう。
無心で雑草を抜きながらゴミを拾ったりしていたら、あっという間に時間が経っていた。そろそろ帰って夕飯にしようと思って立ち上がると今まで座っていたからなのか、少しふらついた。その時に足に何か固い物が当たった。
土は栄養を含んで少し柔らかいくらいなのに突然、固い何かに足が当たる事なんて石か何かか?と思いながら足が当たった土を掘るとそこには札がたくさん貼られた木箱があった。その札を剥ぎながら何とか木箱を開けると、そこには真っ白な狐が丸くなって眠っていた?
「……こんのすけ?」
政府に遣えている筈の管狐が何でこんな所で閉じ込められているんだと考えるが、以前の審神者が自分で札でも作って埋めてしまったんだろうか。こんのすけは政府に遣えている狐だ。この本丸での事を知られたら、上に報告されるのは分かりきっている。
「おい、こんのすけ」
軽く揺らして名前を呼ぶがこんのすけが目覚める様子はない。どうしたら良いんだろうか。こんのすけには刀剣達のように俺の霊力を注いで意味があるのかと思いながらも、自身の霊力を目の前の小さな存在に向けた。
「あるじさま……」
目を開けたこんのすけは何度もまばたきを繰り返して、俺を見つめる。
「主さまですか?」
「新しい審神者だ。今は傷ついた刀剣達の手入れを行っている。ちなみに俺は元軍人だ。すぐに信じろとは言わないが信じる要素にはなるだろ?」
「うぅっ…ここに来てから突然、捕らえられ封じ込まれてしまい私の力ではどうにも出来ませんでした…」
体を震わせて今までの経緯を語るこんのすけの話を聞きながら、頭を撫でる。
「こんなに札貼られてちゃさすがに難しいよな」
「力及ばずで申し訳ありません」
「そんなことは構わない。それより今まで通り本来のこんのすけとしての仕事を再開してもらっても良いか?」
「はい、何かご用がありましたら何なりとお申し付けください」
頭を下げてすぐに音もなく消えて行ったこんのすけを見送り、畑仕事を再開した。
「お手伝い致しますよ」
「え?」
声を掛けられ振り返るとそこには何日か前に手入れされた一期の姿があった。動きやすそうな服を着ている。穏やかに微笑んだ一期は俺の隣に座り、同じように雑草を抜き始める。
「悪いな」
「いえ、主にばかりこんな事をさせる訳にはいきませんから」
「体調はもう良いのか?」
「はい、もう良くなりました。いつでも出陣出来ます」
「出陣な。まぁ、そうだな。そろそろそっちもやって行かないといけないな。まぁ当分先にはなりそうだからしばらくのんびりしていてくれ」
「のんびり……ですか?」
難しそうに眉を寄せる一期は遂には手を止めて何か考え出してしまった。俺はそんなに難しい事を言ったつもりはないんだけどな。
「茶を飲んだり、お前の弟達と遊んだりたまに俺の手伝いをこうしてやってくれるだけで良い」
「分かりました。ですが、主…あまり無理をなさってはいけませんよ?」
「分かってるよ」
何だか加州に続いて、保護者みたいな存在が一人増えたような気がする。薬研もそうなりそうだが。
「今までされた事忘れてのんきにしやがって」
「………………」