それが全てだから
一期に畑仕事を手伝ってもらった帰りの途中で一期と別れ、本丸内の大木に背を預けて眠る人物を見かけた。寡黙で人と馴れ合うのが嫌い。腕に倶利伽羅竜の入れ墨が彫ってある。幾つか特徴を知る事は出来たがそれは来たばかりの頃の顕現直後の大倶利伽羅の情報であり、長く本丸にいた大倶利伽羅の変化によっては性格が変わっている可能性だってある。
「手入れは不要だ。俺が自分で好きなようにする」
「今は俺も手入れ禁止されてるからそれが解除されたら、意地でも手入れしにくるからな」
「………………」
大倶利伽羅の返事を聞かないまま、とりあえず本丸の屋敷に帰る。面倒だからこのまま風呂でも洗ってしまおうかと思って、浴室に行こうとしたら…俺も随分と衰えてしまったみたいで背後から刀を首に当てられた。
「手入れなんざして、どういうつもりだ?」
「理由は特に無いが仕事の手伝いをして欲しいとは思っている」
「てめぇらがしたこと忘れたとは言わせねぇ」
「…………このまま俺の首を落とすか?」
軍人の時はこんな刀や剣を見る事はほとんど無かったから、凄く新鮮な気持ちだがあの政府の人間も父も刀をくれるぐらいなら俺の相棒を持たせてくれても良いんじゃないかと思うんだ。一度、こんのすけに聞いてみるのも良いかもしれない。わざわざ政府の人間をとっ捕まえてまで、ブラック本丸に就かせたのだからただ本丸運営をして終わり。という訳ではなさそうだ。
「同田貫!」
良く通るその声で後ろの刀剣の名前なのかそう言ったのは、蜂須賀だった。蜂須賀は俺の腕を引っ張り自分の方へと引き寄せる。
「まさか一番屈しないと思っていたお前が簡単にそっち側に行っちまうとはな!」
「俺は……」
蜂須賀の視線が揺れているのが分かって、俺は蜂須賀の胸を押すようにして離れて正面にいる同田貫を見る。
「こいつは俺が弟を人質にとって、脅して無理矢理手入れさせただけだ。今はちょっと無理をしすぎたから初期刀に手入れするのは禁止されてる」
「…………」
相変わらず刀は構えたまま、傷だらけの体で俺を睨み付けている。確か部屋にあった資料の中に同田貫についての情報もあったような気がする。
「…………俺の力が無ければ大好きな戦にも行かれないぞ?その刀が錆まみれになっても良いのか?俺を一人切り殺しただけでお前は満足するような刀じゃないだろ?」
「……上等だ。おらよ」
刀を鞘におさめた同田貫は自分の刀を俺に無理矢理、握らせた。
「俺は戦に出れるなら何だって良い。さっさと戦に出してくれよ」
「あぁ、分かった」
「戦に行きたくてうずうずしてる奴等がまだいるからよ。そいつらもそのうち連れてくる」
「分かった。なら一番最初の出陣はお前達で作った隊かな」
戦の事を出した途端に変わった言葉と態度に少しおかしく思いながらも同田貫の背を見送った。
「助かったよ、蜂須賀」
「俺は何もしていない」
「そうか。浦島は元気か?」
「君を疑ってしまった事を後悔していて顔を合わせづらいみたいだ」
「そんな事、気にしなくて良いのに」
「俺からも声は掛けているがその内、そっちに顔を出すだろうから見た時には声を掛けてやって欲しい」
蜂須賀の優しい兄の一面を見て、以前の審神者の時には大変な思いをしただろうなと考える。
「あぁ、分かった。お前も…たまには俺の部屋に顔を出しにきてくれ」
「嫌だ」
きっぱりと断られたがそれを聞こえない振りをして、廊下を進んで浴室に向かうとブラシの音がする。誰かが気を遣って掃除してくれているみたいだ。浴室に顔を出すとそこには乱がいた。
「乱」
「あ、主さん」
「ありがとな。やろうと思っていた所だったんだ」
「ううん、僕も暇だったから」
「手伝おうか?」
「大丈夫だよ。主さんは他の事やってて。それに休んでおかないと加州に何か言われるんじゃないの?」
呆れたような表情で笑う乱に何と返して良いのか分からずに、頭を掻く。
「主さんは主さんしか出来ない仕事があるんだからさ!それを頑張って!」
「そうだな、ありがとう」
「うん、じゃあね」
乱と別れて暇になってしまった俺は特に宛もなく、のんびりと廊下を歩いていた。そこに縁側に座る加州がいた。
「加州」
「あ、主」
相変わらず赤の良く似合う姿で俺に笑顔で手を振っている。それを振り返してから隣に座った。
「お前には迷惑ばかりかけるな」
「ほんとにね」
肩を竦めてため息混じりに返してきた加州とこの本丸に来てから、こうしてゆっくり話をする機会はあまり無かったように思う。加州は忙しそうに色んな場所を掃除してくれていたし、俺は俺で手入れに回っていたりと動いていた。
「いつも助かってるよ」
「……そっか、なら良かった。俺は主がそう言ってくれるだけで良いよ」
「加州とはのんびり話す時間も無かったからなぁ」
「しょうがないよ。主も忙しかったんだしさ」
「でも俺の刀はお前だけだから」
「もう分かったから!」
真っ赤な顔をして無理矢理、俺との会話を打ち切った加州は立ち上がり廊下を駆けていった。