俺の罪



俺は軍で仕事をする傍らで政府の要人の暗殺も行っていた。父が俺をわざわざ軍に招いたのはこんな事をさせてさっさと殺す為だったのかと思った。人を一人殺す度にたくさんの金をもらった。母もいないし、友人もそこまで親しい者がいない俺にとって金なんて日々の生活が普通に送れる程度にあれば良い物だった。






「大将、どうした?」


手入れの必要な刀剣達の名前が書かれた用紙を見ていると、薬研が声を掛けてきた。


「あぁ、薬研か。いや…結構探してるんだが残りの刀剣が見つからなくてな」
「同田貫の旦那が知ってるんじゃねぇか?」

「あぁ、そうだな。後で聞いてみようかな」


薬研が廊下を歩いていき、しばらく縁側でのんびりとしていたら加州が俺の隣に座ってきた。その手には赤いマニキュアを持っている。


「加州はおしゃれだな」
「そりゃ綺麗にしてたら愛してもらえるから」

「汚いよりは綺麗な方が良いな。俺は加州なら別にどんなでも良いけど」
「は?」

「ん?」


加州がぽかんと口を開けて俺を見てくる。俺はそれに答えるように加州を見ると加州の顔が真っ赤に染まっていく。


「加州、顔が真っ赤…」
「うるさい!こっち見なくて良いから!」


顔を手で隠した加州はまた立ち上がって逃げようとするが、咄嗟に加州の腕を掴む。驚いたのが分かって思わず笑ってしまう。


「逃げるなよ」
「別に逃げた訳じゃないから」

「じゃあもう少しだけ」


すがるように声を掛けると、加州は少し躊躇った様子を見せながらもまた俺の隣に座った。


「俺、ここにいる刀剣の手入れが全て終わったら少しゆっくりしたいんだ」
「良いんじゃない」

「同田貫とかは急かすだろうけどさ…出陣もしばらくしないで、仲間とのんびりして欲しい」
「…………主、あのさ…」


あのさ、そこに俺の居場所はあるの?




加州の言葉が途中で止まって、俺が庭に向けていた視線を加州に向けるが加州は既に立ち上がっていた。悲しげに揺れる目が俺に何かを訴えているような気がするのに、俺にはそれが何も伝わってこない。


「加州」
「体調が良くなったらもうしちゃって良いからね、手入れ」

「おい、加州!」
「俺、乱と約束があるから」

「主さん!」


背を向けて歩こうとする加州を止めようとしたら、誰かが声を掛けてきた。振り返るとそこには浦島がいた。気まずそうに俺を見ながら次の言葉を探している。


「どうした?」
「あのさ……蜂須賀兄ちゃんを直してくれてありがとう」

「俺は自分の仕事をしただけだ。何も気にしなくて良い」
「……うん。あ、あのな…主さんに一つお願いがあるんだ」


手を引かれて浦島が何も言わないまま、廊下を歩いていく。誰か手入れして欲しい奴でもいるんだろうか?しばらく廊下を歩いて俺でも来た事のない奥の奥まで歩いていく。ある一つの部屋の前で浦島は足を止めた。


「長曽祢兄ちゃん!新しい主さんだよ」
「長曽祢…」


長曽祢虎徹。一応は浦島の兄という立ち位置になっている刀
その刀がいるという部屋には鍵はついていない。開けようと思えば開けられる筈なのに、浦島は何故かそれをしない。


「浦島の手じゃ開けられないのか?」
「うん…何度もやってみたんだけど。手が弾かれるんだ」


またあの審神者が何かやらかしたのか。俺がゆっくりとその部屋の扉を開けるとそこには幾つもの折れた刀と、自身の刀を握ったまま眠っている長曽祢虎徹がいた。部屋の明かりを点けて長曽祢に近づく。浦島はすぐに走り出し、長曽祢の体を揺らした。
見たところ、小さな傷はあるが蜂須賀程ではない。俺も浦島の隣に座り長曽祢の体に触れようとした時だった。


「うわっ!」


浦島を自分の胸に引き寄せ、俺から素早く距離を取り獣のように睨んでくる長曽祢は無言で刀を俺に向ける。


「驚かせて悪かった。俺はここに来た新しい審神者だ。今日は浦島に案内されてお前を治しにきた」
「新しい審神者……新しい主…」

「そうだよ、新しい主さんだよ長曽祢兄ちゃん!もうこんな事しなくて良いんだよ」
「そうか。…………そうかっ…良かった」


浦島を抱き締めて体を震わせている長曽祢に辺りに散らばった刀を見る。短刀だけでなく打刀や太刀まである。何の為にこんな事をしていたのか分からないが、もしかすると長曽祢をここに閉じ込めて刀を破壊させていたのだろうか。


「長曽祢兄ちゃん!この主さんは良い人だよ」
「そうか、良かった」


穏やかに笑う長曽祢を見てこちらも穏やかな気持ちになる。長曽祢の手入れを終わらせて、部屋を出た。体の倦怠感も無く服に入れておいた紙を取り出して、長曽祢虎徹という名前に線を引いた。