許されることはない
驚きに満ちた目が
眉間に皺を寄せた表情が
柔らかく微笑んでいた顔が一瞬にして強張り、愛しい者の前で撃たれて倒れる
叫び出す恋人や家族
騒ぐ警護の男達
その記憶はすぐに俺が誰かに撃たれて殺されるというありもしない妄想で終了する。
「っ……はぁ……」
慌てて飛び起きて背中にかいた汗にため息を吐く。何度も見慣れている筈の夢なのにいつも大量の汗と共に目が覚める。
「主?」
障子の向こうから加州の声が聞こえて、肩が跳ねた。布団から出て障子を開けると目に入ってきたいつもの加州の姿に安心して、加州を引き寄せて抱き締めた。
「ちょ、主?」
「ちょっとだけこのまま」
「うん…」
加州の手が俺の背中を撫でている。声は震えていなかったと思うんだけれど。心配してくれたんだろう。この本丸の中の刀で一番安心できる存在は加州だ。俺の力を一番受けているし、何より俺の初期刀だ。
「加州」
「何?」
「ごめんな、ビックリしただろ?」
「大丈夫だから。主こそ…もう大丈夫そう?」
体を離すと加州が心配そうな表情をしていて、俺を安心させる為なのか頭を撫でてくれている。走った後のように速くなっていた心臓も少しずつ落ち着いてきた。
「もう大丈夫だ。ありがとうな」
「うん、主……あの…悪い夢でも見た?」
「うん、少しな。軍にいた時の夢」
「俺には話せないこと?」
「……まだ話せない。ごめん」
「そっか、分かった」
寂しそうにする加州にどんな言葉を選べば良いのか分からなくて、返すようにして加州の頭を撫でる。
「俺がこの本丸の中で一番信頼しているのはお前だよ。加州」
「えっ……」
「一番好きなのも一番大切にしたいのも加州だけだ」
「う、うん……分かった」
「だからもう少しだけ待っててくれ」
「気長に待ってる」
ようやく笑顔を見せてくれた加州に安堵して俺も小さく息を吐く。加州と話をしている間に動悸や冷や汗も止まっていて、俺はもう一度部屋に戻った。
「朝までよろしくな、加州」
「うん、ゆっくり休んでてね」
布団に戻り目を閉じて、もう一度眠りについた。もうあの悪夢は見なかった。
「審神者様、今よろしいでしょうか?こんのすけでございます」
「あぁ、良いよ。入っておいで」
何もない空間から姿を現したこんのすけが見覚えのあるケースに入った相棒があった。
「今の審神者様が解放してくれなければ私はずっとあの小さな箱にいたままでした。命を救われたも同然ですので、お礼にこれを拝借して参りました」
「良く分かったな、俺がこれ欲しいなって思ってたの」
「私は審神者様のこんのすけですから」
「ありがとう、こんのすけ」
こんのすけの頭を撫でて中身を確認する。長年使ってきた俺の銃だ。こんのすけはこれをどうやって持ってきたのか気になるがただの狐ではないんだから可能なんだろう。
「…………」
ケースを開けて見慣れた銃を取り出す。こんのすけは丁寧にもう一つのケースも持ってきてくれたみたいだ。そっちには手入れする物や銃を置くための三脚なんかも入ってる。
「……夜にやるか」
もし手入れをしていた時に誰か来たら面倒だ。押し入れの中にそれをおさめて、廊下に出る。そろそろ皆を出陣に出さないといけないな。
「主」
「長曽祢か。どうした?」
俺を呼んだのは最近、手入れをして兄弟で仲良くしている姿を良く見る。長曽祢だった。蜂須賀とも何だかんだで仲良くしているみたいだ。
「……俺は主に命令されたとはいえたくさんの短刀達や打刀を折ってきた」
「そうみたいだな」
「だから……俺を壊してほしい」
「浦島や蜂須賀が悲しむ事になるぞ?」
悲痛に歪んだ表情が見ていられなくて視線を逸らす。俺の隣に座った長曽祢は俺の腕を掴んだ。
「頼む、俺をっ……俺を……破壊してほしい」
「お前がここで何をさせられていたのかは大体、想像がついたけど…俺はそれでもお前にはここにいて欲しいと思うんだ」
眉を寄せた長曽祢が俺の腕から手を離す。今度は刀剣かまたはこんのすけにでも頼むつもりなんだろうか。
「酷な事を言ってるのは分かってる。だけど俺はお前に生きて、新しい生活を歩んで欲しいと思ってる。勝手なやつでごめんな、長曽祢」
「……本当に勝手だ…………また来る」
「何度でも来てくれて良い」
その度に同じ言葉を返すだけだ。