馴れ合うつもりはないけれど
今日は愛染や蛍丸と共に畑当番だ。愛染はもう慣れた物で不馴れな俺にやり方を教えてくれている。ちなみにその間にも大将がカメラを構えていた。あらゆる所に出没している気がするが、これで審神者としての仕事もきちんとしていて健康だというのだから驚きだ。
「そういえば兄ちゃん今日さ、初めて……」
「国俊!」
愛染が何か話そうとしていたのを蛍丸が止めた。蛍丸に何かを言われて愛染は自分の口を自分で押さえた。とりあえず聞こえてなかった振りをしておこう。
「どうかしたか?愛染」
「い、いや…何でもない!」
「名前!ここ見て!デカいの出来てる!」
「おー、凄いな。良く見つけたな」
蛍丸の頭を撫でようとして手が汚れている事に気付いて、止めた。
愛染はさっきから黙ったままで俺を見ている。まぁ良く分からないがまだ俺には教えられない事みたいだからしょうがないし、無理に聞こうとも思っていない。
「愛染、畑終わらせないとお菓子抜きだぞ?」
「えっ!?や、やる!」
慌てて作業を再開した愛染を微笑ましく思いながら、俺も手を動かす。本来の畑当番は愛染と蛍丸だが今日は俺は何の予定も無いから手伝っていた。のだがさっきから愛染がやたらとそわそわしている。さっき言おうとした事と何か関係しているんだろうか。
「名前ー」
やる気のない国行の声が聞こえて、立ち上がる。どこにいるのか視線を動かすと手を力なく振っている国行がいた。
「どうした?国行」
「自分と一緒に名前は出陣や」
「そうか、分かった。準備をしてくる」
国行以外には誰がいるんだろうかと考えながら、畑仕事をするジャージから出陣用の服に着替える。きっちりボタンをとめて部屋から出る。
国行の後ろを着いて歩いていたら、巨大な門の前に何人かが集まっているのが見えてきた。声でも掛けようとかと口を開きかけた所で止まった。そこにいたのは大倶利伽羅、燭台切光忠、鶴丸国永、石切丸だった。その中にいつものんきに笑っている審神者もいる。
「ごめんな、突然出陣だなんて言ってさ。名前は伊達政宗さんの部下の刀なのにあんまり話してる姿を見かけないなと思ったから、こんな顔ぶれにしてみたんだけど……」
「あぁ、大将が決めたなら何でも良い」
「じゃあ、行ってらっしゃい。無事に帰ってこいよ」
大将に丸い金色の玉を三つとお守りを持たされ、俺は門を潜った。抜けた先には草原が広がっている。ただの静かな草原かと思っていたら、所々の草に血痕が残っている。
「名前」
石切丸に名前を呼ばれて顔を上げる。どうやら敵がやって来たみたいだ。刀を抜いて異形の敵へと向けた。指示された陣形をとりながら、近くにいた打刀を切る。がまだまだ鍛練が足りないのか一発で倒す事が出来なかった。
「名前」
「うわっ……」
腕を引かれよろけてしまった所を誰かに支えられる。支えられた腕を見ると刺青が入っていた。
「余所見はあかんなぁ」
国行がそんな声を発して打刀を倒した。俺を支えてくれた大倶利伽羅から離れる。
「悪い、助かった」
「いや……」
「…………」
「その為に自分がおるからな」
「何も言ってない」
「弟やからなぁ、分かりたくなくても分かるもんもある」
舌打ちをして苦笑いしている石切丸の傍に行き、とりあえずこれ以上あの三人から絡まれないようにする。出来れば国行とも。
「俺はあまり力にはなれなさそうだな」
「まぁ、今日は名前の練度を上げるために来ているからね」
「鍛練をもう少ししてから来たら良かったな」
「名前はしっかりやれてるよ」
石切丸が微笑んで俺にそう言ってくれて少し照れくさい。頭まで撫でられて片倉様にこんな事をされたら、どんな感じなんだろうかと想像する。
「その格好、暑苦しくないのか?」
肩を叩かれて話しかけられ振り返るとそこには鶴丸がいた。返事をしようとした所に正面からまた敵がやってきた。
「おかえり」
傷一つなく無事に帰ってきた。大将は軽傷でもすぐに帰ってこいと言うくらいに過保護らしい。一度、石切丸が重傷で帰って来た時には泣いて手もつけられなかったみたいだ。
「名前、どうだった?出陣は」
「まだまだ鍛練不足だと感じたから、後で山伏に手合わせをしてもらう」
「まぁ無理しない程度にな。鶴丸ー!後で報告にきてくれ」
「あぁ、分かった」
鶴丸が答えたのと同時に視線が合うがそれをすぐに逸らして、山伏を探す。
「……山伏ならさっき畑の方に行っていたぞ」
「そうか、ありがとう」
山伏の場所を何故か知っていた大倶利伽羅が教えてくれた。手合わせをするついでに畑当番を手伝ってこよう。自室に早足で帰り服を着替えて、畑に向かう。
「ねぇ、伽羅ちゃん。いつの間に名前くんと仲良くなってたの?」
「馴れ合うつもりはない」
「だってタメ口だったし」
「嫉妬は醜いでぇ」