純情日和



姉ちゃんからのLIMEで十座が体操服を忘れたのではないかとメッセージが入っていた。そういえば、今日は長距離走があるとか話してたような気がする。それも昼休憩前の一番腹が減る時間帯に。俺はクラスが違うから5時間目にそれがある。
授業中に姉ちゃんからのLIMEを確認して携帯をポケットに突っ込んだ。これは俺の体操服を貸してやれって事なんだろうけど…十座は学校であまり話をするのを嫌がるみたいだし…どうしたら良いんだろう。そんな事を考えていたら授業が終わっていた。
次の授業は4時間目で十座に貸しに行くならこの時間の休憩時間しか無いんだけど。

「………どうしよっかな…」
「立花くん、あの…ひょ、兵頭くんが来てるよ」

「え?」

隣の席の女子に話しかけられて顔を上げると、少し怯えながら教室の扉を指さす。指をさされた方向を見てみると確かにそこには少し視線を泳がせている十座がいた。まぁ、十座がよそのクラスに来る事なんてほとんど無いだろうしなぁ…。
鞄に突っ込んだままにしていた体操服を持って、教室の入口まで向かう。

「ほら、これだろ?」
「悪い…埋め合わせはする」

「じゃあ今度、また取り寄せする機会があって…それが和菓子だったら一つちょうだい」
「……分かった」

すぐに返事が返って来て、十座が更衣室に向かって走っていく。見事に女子や男子、先生まで十座が近くを通ると横に避けていく。まぁこれだけ避けられれば自分でも意識するよな…

「立花くん、兵頭くんと仲良いの?」
「あぁ、うん。良いと思う。無口で無愛想だけど喋ったら楽しいよ」

「ほんと?」
「まぁ、女子は近づきにくいかもしれないけど…っつーか、十…兵頭より俺の方が背高いんだから、俺に話しかけられてるんだから大丈夫だろ」

俺がのんきにそんな返事を隣の女子に返せば、何故か周囲にいた男子や女子まで傍に寄ってきた。何だよ…俺、何か変な事言ったか?
少し不安に思いながらも何も言わないクラスメイトに思わず眉を寄せる。

「だって、立花って威圧感全然無いし」
「そうそう。眉間に皺寄せても全然怖くないから」
「えー…ちょっとくらい怖がれよ」

そんな話をしていたら次の授業のチャイムが鳴って、グラウンドを見ると俺の体操服を着た兵頭が準備体操を真面目にしていた。てっきり体操服を忘れたらサボったりするかと思っていたのに…意外と真面目なんだなぁ…
空腹時の社会の授業は眠気を倍増させるらしく、俺は授業の半分を寝て過ごしてしまった。



「ん……」

目を覚ますとちょうど、授業の終わるチャイムが鳴っていて自然と欠伸が出た。今日はちょっと静かな場所で弁当を食べたい気分になって友達の誘いを断って、教室を出る。

「た、立花!」

呼び慣れないような呼び方に振り返るとそこには十座がいて、俺の体操服を持っている。急いで来たのか俺の体操服を思い切り、握りしめていた。

「ははっ、兵頭に苗字で呼ばれるの新鮮だな」
「……これ、助かった。ただ…今日、長距離走だったから汗かいちまった…」

「あぁ、良いよ。別に俺も昼休憩終わったら長距離走だし。あ!そういえば…さっきまで立花十座だったんだなぁ…写真撮っとけば良かった」
「………」

普段からあまり喋らない十座だったけど突然、黙ったから不思議に思っていたら顔が赤くなっている。何て答えたら良かったのか分からなかった感じかな…適当に流したら良かったのに、間に受けちゃった十座に思わず笑ってしまった。迫力抜群の舌打ちが聞こえてきて、教室に帰るのか俺に背を向けた。

「兵頭、一緒に昼飯食べに行こ」
「…あぁ、取ってくる」



屋上に移動して自分で作った弁当を広げて、十座は売店で先に買っておいたのか大量の菓子パンが袋の中に入っている。美味しそうだから後で一つくらいもらおうかな。

「それ…」
「ん?」

「自分で作ってるのか?」
「うん。姉ちゃんに任せてたらまたカレーまみれにされそうだから、姉ちゃんに作ってもらうのは月1くらいかな」

この高校に入学したばかりの頃の悲惨な弁当の中身の事を思い出して、今では笑えてくる。レンジが無いから、弁当箱の中にはカレー味の物ばかりが入っていた。俺も作ってもらっているからと文句は言わずに食べていたけど、ある日授業中にぶっ倒れてからはマジで姉ちゃんに殺されると思った。そんな過去を思い出していたら十座が俺の顔を眺めている。

「うわっ!何?」
「…いや…その…」

「……ん?」
「俺にも弁当作ってくれ」

「良いよ。ついでだし。でも…伏見さんが作った晩飯の残りとか詰めてるだけだけど…それでも良い?」
「良い。美味いから」

「その言葉、伏見さんに言ってあげたら絶対喜ぶぞ。まぁ、十座は素直に美味いって言ってる方か」
「……名前の飯も美味い」

真っ直ぐに見つめられてそんな言葉を言った十座にしばらく答えを返せなくて、適当に頷いて終わらせてしまった。他の人に言われた分には普通に礼を言って終わるのに、何で十座が言ったらこんな変な反応しか出来なくなるんだろうか。

「ご、ごめん…何か変な…えっ…」

突然、唇に触れた感触に目の前にいる十座を見る。無言で立ち上がった十座は俺を置いて、屋上を出て行った。

「………何…え?」