完敗までのステップ



丞、紬、俺と三人でいつも一緒にいた。俺は演技はしていなかったけど、二人が演技をしている姿を見るのは好きだったから公演があったらその度に見に行った。そして家事がそんなに出来ない丞と一緒に暮らして、自分の分の家事と一緒に色々と丞のサポートをしていたらいつの間にか、そんな関係になっていた。

丞と紬がMANKAIカンパニーに入ってからしばらくは俺は丞と暮らしていたマンションで一人でのんびりと暮らしていたんだけど、突然紬から連絡が入ってこのカンパニーの手伝いとして働く事になった。


「………」


そういえばあの時、紬に「名前は本当に何でもない顔して大変な仕事をするよね」と苦笑いしながら言われた事を思い出す。
今日は劇団員の寮の掃除を支配人からお願いされて整理中だった倉庫をする事にした。


「うっわ…」


荷物が乱雑に積まれていて、電気をつけても薄暗い。とりあえず掃除をする為にも上の方から整理していこうと思った俺は、脚立を上って掃除道具を使って箱の上に溜まったほこりを落とす。しばらく夢中になって掃除をして上段の棚は綺麗になった。次は床に適当に積んである箱を整理しようと脚立を降りようとした時に、窓から中庭の様子が見えた。


「あ…」


丞と紬が植物に水をあげている。第一回目の冬組公演のポスターを見た時にも思ったけど、二人の姿は絵になる。何となくそのまま二人を見つめていると、倉庫のドアがノックされた。


「はい!」
「ちょっと休みませんか?」

「そうだな」
「ちょっと時間があったからケーキ作ってみたんですよ」

「ほんと器用だよな、臣って」


わざわざ倉庫まで俺を呼びに来てくれた臣からはとても良い香りがして、お菓子を作っていたんだとすぐに分かった。マスクと手袋を外して、手を洗ってからリビングに向かうと今日が休みのメンバーが揃っていた。玄関の方から学生メンバーの声も聞こえてくる。いつものように丞の隣に座ろうとしたけど、さっきの二人の様子が蘇って来て疲れた様子の綴の隣に座った。


「名前さん…」
「脚本?」

「っす…大学のレポート提出とも被っちゃって…」
「うっわ…そりゃ大変だな」

「なんで暇な時で良いんでまたお願いしても良いっすか?」
「あぁ、良いよ。今日の夜で良い?」

「はい、助かります」


机に突っ伏している綴の頭を撫でてからキッチンに向かうと、フルーツが綺麗に盛られたケーキがあった。団員分の事も考えてかかなり大きめのサイズだ。切り分けられたケーキを皿に乗せていくとケーキに盛り付けられていたブルーベリーが皿に落ちた。


「あ…」
「つまみ食いは駄目ですよ」


すぐに臣が声を掛けて来たけど、我慢できずにそれを口に入れた。視線を感じて振り返ると笑顔を見せている臣と目が合う。俺もそれにつられるようにして笑うと呆れたように溜息を吐かれた。


「ほんっとうちの弟にそっくりですね」
「えー…俺、臣より年上だぞ?」

「親しみやすさがあるって事ですよ」
「何か良い様に言いくるめられたような気がする」

「気のせいですって」


皿を臣と一緒にテーブルに運んで綴と臣に挟まれるようにして、ケーキを食べる。途中で紬が何か言いたそうにしていたけど結局何も言わずに自分の部屋に帰って行った。丞も勿論、それを追うようにして部屋に帰って行く。やっぱり丞に嫉妬してもらおうなんて考えが甘かったかなと考えて、早々に諦めた。




「あー…そこ気持ちいいです」
「体痛みまくってるなぁ、ほんと。特に肩とか首周り酷いな」

「パソコンで脚本作ったりレポート作ったりしてるんで…それで…」
「しょうがないけど無理はするなよ?」


おやつの時に約束をしていた綴へのマッサージをしていたら部屋のドアがノックされた。俺にマッサージをされながら綴が返事をすると中に入ってきたのは台本を幾つも持った丞だった。俺と綴の姿を見て一瞬、眉間に皺が寄ったような気がしたけどただの見間違いだろう。


「皆木、頼まれてた台本持ってきたぞ」
「あ、ありがとうございます!すいません…」

「ここに置いておくからな」
「はい、ありがとうございます」


すぐに部屋を出て行った丞はやっぱりいつも通りで何も変わらない。ちょっとつまらないなと感じながらも、綴へマッサージを続ける。1時間マッサージをしてから綴の部屋を出て、俺達幼馴染三人で使っている部屋に向かう。部屋のドアを開けるといつもなら机で何か作業をしているか、カフェで買ってきたお菓子を摘まんでいる紬が部屋にいない。


「あれ…紬は?」
「摂津の部屋にいる」

「あー…あの二人、仲良いもん…な…」


丞に肩を掴まれたかと思ったら、そのまま床に押し倒された。俺が何か言うよりも早く丞の唇が押し付けられるように触れて、舌が俺の唇を舐めた。求められるままに唇を開くとすぐに中に入って来てお互いの舌が触れ合う。


「んっ、んっう…」


ようやく唇が離れると、丞が熱を持った目で俺を見つめている。こんな状態の丞を相手にしたら、ろくな事にならないけれどもしかしてヤキモチでも妬いてくれたのかと少し期待する。俺が何も言わずに丞を見つめていると、眉間の皺が深くなった。


「丞、俺が綴や臣と仲良くしてたからヤキモチ妬いたか?」
「そんな事する暇があるなら仕事をしろ」

「紬と楽しそうに水やりしてた奴に言われたくない」
「見てたのか」

「俺はいつも紬にヤキモチ妬いてる」
「あいつにヤキモチなんて妬くだけ無駄だろ」

「丞に俺の気持ちなんかわかる訳ないだろ。ヤキモチなんて妬いたこと無い癖に」


押し倒されている状況から抜け出そうと、丞の肩を押すとその腕を掴んだ丞が思い切り自分の方へと俺の手を引いた。


「うわっ!」
「妬いてないなんて誰が言った?」


至近距離で真っ直ぐに俺を見つめてそんな言葉を言ってきた丞に俺は微笑んで、背中に腕を回した。


「じゃあ俺の勝ち」
「意味が分からない」

「丞が俺の思惑通りにヤキモチ妬いたから俺の勝ち」
「なら名前はいつも俺に負けてるだろ」

「紬にヤキモチ妬くのは無駄なんだろ。じゃあ俺は他にヤキモチ妬くような人間なんていないし」
「…くだらない事言ってないで抱かせろ」


俺の首筋にキスをしてくる丞の髪の毛を掴んで、無理矢理距離を取る。より深く刻まれた眉間の皺を伸ばすようにおでこに触って笑うと、丞は俺を抱き締めた。


「完敗だ」
「知ってる」




丞×幼馴染小悪魔系男主の嫉妬もの