何年越しかの恋*
三好くんと優しく呼んでくれる声が好きで、いつも一緒になって勉強をしていた。でも高校はあの子とは違う高校に行ったから段々と連絡を取らなくなってしまった。そのまま大学生になって、現在…俺はその好きだった友達と擦れ違った。
「あ、あの…俺の事覚えてない?」
大学での帰り道に突然、腕を引っ張られて振り返ると明らかに俺とは合わなさそうなチャラチャラした見た目の男とその隣には俺と彼を戸惑ったような表情で見ている男がいる。こんな見た目をした奴なら嫌でも覚えているだろうし、大学でもこんな見た目の友達がいるがこんなに馴れ馴れしくはない。
「すみませんけど…どこかでお会いしましたか?」
「ちょっと三好さん、相手の人困ってるじゃないっすか」
「つづるんはちょっと黙ってて!ねぇ、俺…三好一成っていうんだけど」
「三好?………あ、三好くん?」
「そう!やっぱり苗字くんだなぁと思ったんだよね!」
「久しぶり。中学卒業して以来だな」
中学の頃に仲が良かった三好くんは俺よりも頭が良くて、周囲には内緒にしていたけど絵の勉強がしたい事を俺には打ち明けてくれた。やっぱり芸術家肌のやつはこんな派手な格好をしたり、奇抜な事をやったりするんだろうか。生憎、俺にはそんな友達は一切いないが。
「今、何やってんの?」
「大学で医学の勉強してる」
「えー!すごっ!じゃあもしかして今、めっちゃ忙しい感じ?」
「そうだな。うん、まぁ…」
「そっか。じゃあチラシだけ渡しとくね。それ俺がデザインしたんだよ」
「え?」
渡された紙にはMANKAIカンパニー春組第三回公演と書かれていて、三好くんの隣にいる男が不思議な衣装で映っている。
「凄いな。絵の勉強頑張ってるんだな」
「覚えててくれたんだ?今、俺さそこの劇団で劇団員兼デザイナー?みたいなことやってんだよね」
「あ、もうすぐ公演なんだな」
「うん!だからもし良かったら見に来てね」
「分かった。見に行く」
その後、三好くんとLIMEを交換してその日は別れた。
「三好さん」
「んー?何?」
「あの人の事、好きなんですか?」
「えっ!?」
苗字くんと別れてから普通に劇団の寮に向かって歩いていたら、つづるんがいきなりそんな言葉を掛けてきて思わず足を止めた。俺、そんなに分かりやすかった?
思わず自分の顔に触れてみるけれどそれで何かが分かる訳もなくて…
つづるんは楽しそうに笑って、俺に話しかける。
「だっていつもより話し方が緊張してましたよ」
「えー…そんなこと無いよ!」
誤魔化すように無理矢理、そんな口調で言うとつづるんにはお見通しみたいでまぁ、別に俺は偏見とか無いんで頑張ってください。なんて言葉を掛けてくれた。
「つづるん!俺の相談乗ってくれる?」
「そんな恋愛経験無いっすけどそれでも良ければ」
「ありがとー!」
まさかあんな見た目になっているなんて思わなかったけど、少し話しただけだけど中身は全然変わっていなかった。家に帰る道の途中で鞄を開けて、スケジュール帳を開く。予定が詰まって黒くなっている今月のページを見て、溜息を吐く。来月には少しは楽になるし、来月のチケット取ってみるか。携帯を操作して、劇団のホームページを開いて、来月の春組公演のチケットを予約した。
「行けたら良いけどな…」
来月のスケジュール帳に予定を書き込んで、鞄に入れた。
その日から三好くんとは何度かLIMEでやり取りをするようになり、時々ご飯を食べたりする事もあった。それが研修で忙しい毎日のちょっとした息抜きになっていた。
そしていつの間にか呼び方も三好くんから一成に変わっていた。
今日は一成と食事に出かける予定だったが明らかに顔色がいつもとは違うし、少しフラついていたのもあり俺の家に連れて来た。食べやすい消化に良さそうな物を準備して、体温計と飲み物をサイドテーブルに置く。
「体調悪いなら無理するな」
「だって…会いたかったから」
掠れた声で俺を見て言う一成に妙な感覚を覚えて、咄嗟に一成が眠る俺のベッドから少しだけ距離を置く。俺は病人相手に…というより、一成相手に何を考えているんだ。目を閉じた一成を見てから立ち上がる。少しの間だけ寝室から出ていよう…そう思って、一成に背を向けると一成が俺の手を握った。
「どこ行くの?」
「トイレに行くだけだ」
「早く帰って来てね」
いつもは聞かない甘えたような声にマスクをしていて良かったと思いながら、部屋を出た。ドアを閉めてから思わずその場に座り込む。柄にもなく顔が赤いのが自分でも分かって頭の中で何度も、相手は男で大事な友人である事を繰り返す。もし俺がこの感情のままに動いてしまったら、友人を一人失う事になってしまう。
「名前―…」
「っ!…な、何だよ?もうちょっと待っててくれ」
「んー…」
別の部屋に置いていた途中の課題と論文を持って、一成の部屋に戻る。部屋に入ると一成と目が合って、微笑まれた。そんな何気ない仕草ですら一度、気付いてしまうと抑える事だけで精一杯になる。ベッドに背中を預けるようにして座った俺は自分の目の前にテーブルを置いて、作業をする。
「名前」
「んー?」
適当に返事を返しながら論文に目を通す。しばらく夢中になってその論文を読んでいると、服を軽く引っ張られた。何か用事でもあるのかと振り返った時、マスク越しに何か触れた感触があった。
「え…」
「俺の事、そういう風に見れない?……とかね」
その言葉を言った次には誤魔化すように笑って、布団を被った一成は俺に背を向けて何も言わない。あんな行動をしてきた一成に感じるのは一つだけで…自分と同じ感情を持っているんだろうかと淡い期待感で胸が一杯になる。
「一成」
「ご、ごめん!今の無しだから!俺、風邪でどうかし…」
布団から顔を上げた一成が俺の顔を見て、話すのを止めた。医者の卵が体調不良の友達相手に何やってんだと自分でも分かっているけれど止まりそうには無かった。マスクを取って直接一成の唇に触れる。風邪のせいで熱くなっている手が俺の手を握ってきて、一成の控えめに開いた唇に舌を入れた。
「んっ…ん、ん…」
くぐもった声が俺の耳を刺激するように聞こえてくる。唇を離すと一成は俺の肩に頭を乗せて何か唸っている。
「夢じゃないよね?」
「…大学が忙しいからあんまり会えないかもしれないけど、体調が良くなったらどこかでデートでもするか?」
「うん、する!俺、行きたいとこ決めとくから!」
「分かった。ならとりあえず今はちゃんと寝て休めよ」
一成の体を俺から離してゆっくりとベッドに寝かせて、布団を掛ける。俺はマスクをしてから座り直してまた論文に目を通す。
「好き」
小さな声が聞こえてきて、振り返るが布団の中に潜っているのか一成の姿は無い。ただの偏見だけど、男女の交際とかそういう類の物は一成の方が慣れていると思っていたのに、意外と可愛い反応を見せてくれる一成に思わず手を出してしまいそうになる。けれど絶対に風邪を悪化させてしまうと呪文のように頭の中で繰り返して、何とか抑え込む…そんな俺の事なんて全く知らずに一成は俺の部屋のベッドでしばらくすると眠ってしまっていた。