夫婦漫才?



ゲームの生放送をしながら、流れてきたコメントに適当に返事を返す。そういえば俺がのんきに別のゲームをしている間にたるちとNEOにランク抜かれてた事があって、殺意湧いた。まぁ、俺が悪いんだけど。

「っつーか、皆さぁ…知ってた?NEOが学生なの。俺、マジビビったんだけど」

コメントを自動で読んでくれるソフトが次々にコメントを読みだしてくれる。それを聞き流しながら、コントローラーを操作していると、どうやら知らなかった俺がおかしいらしい。

「しかもさぁ…たるちもそうだけど…何であんなに俺の知ってる実況者は顔が良いんだろ。ほんとありえねぇわ…」
「何がありえねぇの?」

「うわっ!」

突然、背後から声が掛かって思わず大きな声を上げてしまって、画面が記号で埋め尽くされた。ゲームを止めて振り返るとそこにはこの部屋の主である―たるちこと至がいた。俺と至は同い年でお互いの職場が取引をしていて、顔を合わせる機会も何度かあって結構、仲良くしている。勿論、至の本性も知っている。

「俺の部屋に人が来てるっていうから、誰かと思ったら名前かよ」
「ふーん…そんな口の利き方して良いのか?……っ、たるちが欲しがってたゲーム手に入れてきたのに」

「お前、今本名呼びそうになっただろ」
「うっせぇ、呼ばなかったんだから良いだろ」

至はスーツを脱いで前髪を結びながら動きやすい服装に着替えている。筋肉も何もついていない腹に思わず笑ってしまった。

「何回見ても、たるちの体ってヒョロいわぁ…」
「名前みたいに筋肉馬鹿になりたくないから」

「別に筋肉馬鹿じゃねぇし!腹割りたかったから、バキバキにしただけだろ」
「そういうのを筋肉馬鹿っつーの。で?どこまで行った?」

「あー…カンストしたけど、取り忘れたアイテムあるから今それ巡ってるとこ」
「は?もうカンスト?」

至が舌打ちしたのが分かってドヤ顔を披露した時、至が俺の頬に手を伸ばしてくる。まさかと思って至の肩に手を置いて筋肉馬鹿を発揮して思い切り力を入れて抵抗する。力では勝てないと分かったのか、片手を俺のシャツの中に突っ込んできた。

「ひっ!…お前!ふざけんなよ!今、生放送してんだろ!」
「あーごめん、気付かなかった」

わざとらしい笑顔を浮かべてまだ何かして来ようとしてくる至。生放送の画面にはコメントが大量に投稿されていて、ソフトがそれをいくつか読んでくれる。その中に俺と至の関係を聞く物もあった。嫌な意味で空気を読んだのかソフトがそのコメントを読み上げる。眉を寄せて、至から視線を逸らすと何故か止めていたゲームを再開して、セーブポイントでセーブを始めた。

「今日はこれで終わり。また明日。あー、そうそう。今から二人でイチャイチャするから。おつー」

生放送を無理矢理終わらせて、俺の方を見た至はゲームをしていてボスに負けて切れている時よりも怖そうな顔をしていて…。確か俺がここの監督さんとのんきに何時間もゲームをせずに話に夢中になっていたら、めちゃくちゃ怒った時くらいの顔をしている。その時は後々冷静になった至に何で怒っていたのか聞いてみたら、嫉妬らしい。

「い、いた…うわっ!」
「はぁ…ほんと…声くらい抑えとけよ」

「はぁ!?お前が俺にこの部屋でゲームして待ってろって言ったんだろうが!そしたらお前が帰って早々、訳分からない事してきたんだろ」
「訳分かんないこと?」

少し低くなった声に、あ…やらかした。と思った。俺には力で敵わないと分かっているのか俺の腹に全体重を乗せるようにしてきて、ソファに投げてあったネクタイを取って慣れた様に手首を縛ってくる至は俺の顎に指を添えて顔を無理矢理上げさせてくる。

「へぇ…恋人とイチャイチャするのが訳分かんない事か」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ」

「言った」
「んっ、ちょっ…いたる…んっ、ん!」

何度か唇が触れて、離れてを繰り返して顎に添えていた至の指に力が入って無理矢理、口が開かされる。お互いの舌を絡ませながら、至の指が割れた俺の腹をなぞる。キスで敏感になった体にそんな小さな刺激が加わって、縛られている手に思わず力が入る。恥ずかしく声を上げないように唇が離れてからは、自分の唇を噛んだ。

「名前、こっち向いて」
「向かない」

「筋肉馬鹿」
「うっせぇ、インチキエリート」

今日、何度目かの舌打ちを聞きながら至が俺の手首をきつく縛っているネクタイを解いた。自分の手首に痕が残っていない事を確認して、至を腹に乗せたまま起き上がる。そのまま俺の腹からずれていった至が俺の膝に座る。

「どんだけだよ、マジ筋肉馬鹿だわ」
「あー…最近、丞さんと仲良くなって一緒にランニングしたりしてるからそれも原因かもなぁ」

「へぇ…」
「至もちょっとは運動しろよ。そのうち、プヨプヨになるぞ」

「………」
「お前、今気持ち悪い事思っただろ」

「ゲームしよ」

何も答えない至に本当にそんな事を思っていたのかと、少しだけ引きながらもテーブルに置いていた携帯に俺も手を伸ばして、ゲームを再開する。至を膝に乗せたままゲームを起動させる。体力も半分近く回復していてデイリーを消化していく。

「あー、クソ。殺す」
「至、口悪すぎんだろ」

「お前には言われたくない」
「うっせぇ。あ、至のランク抜いたー。ついでにNEOもざまぁ!」

「は?ふざけんな。すぐ追いつく」