スポンジの感触



お互いに忙しくてあまり連絡できていなかった幼馴染の十座から昨日、連絡が来てしかも明日暇なら来てくれ。なんていう内容だった。その時は俺も暇だったしまぁ良いかなぁなんて思って、劇団員さんの分と監督さんの分とかも含めてお土産を片手にやって来た。


「んー?マジかぁ…えー…」


両手に土産を抱えて家を出る前に今から出るからとLIMEを送って、寮に着いたんだけど…てっきり寮の玄関辺りで待っていてくれると思っていたのに…十座の姿は無い。何とか土産を片手に門を開けた。


「名前くん?」
「ん?おー…椋くん。久しぶりだね。十座から連絡来たから来てみたんだけど…ここ開けてくれる?」


玄関前で困っていた所に声を掛けてくれたのは十座の従兄弟の向坂椋くん。玄関を指さすと慌ててドアを開けてくれた。ようやく寮に入る事が出来て息を吐く。玄関を入った所で十座が待っていてくれたみたいで、俺の大荷物に少し驚いた表情をしてそれを受け取ってくれた。


「着いてから連絡したかったんだけど、両手が塞がってて」
「何買ったんだ?」

「ケーキ」
「えっ!?」


そんな反応をしてからすぐに寮の廊下を歩いていく十座の後を慌てて追いかける。かなりそわそわしているのが見た目だけで分かって、思わず笑ってしまう。椋くんも十座の反応を見て楽しそうに笑っている。椋くんに案内されながら談話室に向かうと十座が俺のお土産を早速開けていて、皿まで用意している。


「十座の好きなのはこっちだよ」


俺が持っている方の箱をテーブルに置いて開けると、クリームがたっぷり入ったショートケーキが入っている。何も言わなくても何となく喜んでくれているのが分かって、用意してくれていた皿に乗せてもう一つクリームが多めに盛られている店員さんオススメの物も皿に乗せる。


「それ店員さんのオススメなんだって」
「美味い」


俺が箱の中に入ったケーキを見ながら言うと、そんな言葉が返って来て十座を見ると既にケーキを食べ始めていて相変わらずだなぁなんて思って笑った。


「もう食べてんの?」
「美味い」

「それなら良かった」


テレビの前に置かれたソファに座って、椋くんと後からやって来た他の劇団員の人達と俺が会話をしている間も十座は自分の分のケーキを黙々と食べていた。


「名前」
「ん?何?」

「食わねぇのか?」
「劇団の人達用のだから。気にしないで食べて」


俺がそう返事を返すと、十座がフォークにケーキを少し乗せて俺の口へ近付けてくる。少し戸惑ったけど、目の前の十座は俺の顔を見るだけで何も言って来ない。


「食べて良いの?」
「あぁ、早く食え」


フォークを口に押し付けるようにされると、少し食べづらいけれど口を開けると舌触りの良い触感の生クリームが広がって思わず顔が綻ぶ。最近はコンビニスイーツくらいしか食べていなかったから、こんなにクリームが乗ったものを食べるのは久しぶりで口の中一杯に甘さが広がっていく。


「ん、美味しい」


唇についた生クリームを舐めようとした時、十座の手が伸びてきて俺の唇に触れた。周りにいた他の劇団員の人達。十座と同室の万里くんとか冬組の東さんとかが俺達を見ている。十座はそのまま俺の唇についた生クリームを掬うと自分で舐めた。


「勿体ねぇ」
「ごめん、ありがとう」

「二人は仲良しなんだね」
「はぁっ!?仲良しで済む次元じゃねぇだろ!」


東さんが穏やかな口調でそう言ってきてくれたのに対して、万里くんは何だか怒ってるような?口調で俺が戸惑っていると残りのケーキを持って十座が立ち上がった。


「十ちゃんどこ行くの?」
「摂津がうるせぇから部屋で食う」

「俺はそんな喋ってねぇっつーの」
「まぁまぁ。万里も僕と椋と一緒にケーキ食べようよ。こんなにたくさんあるんだから」


俺達を見送るように手を振ってくれた東さんに会釈で返して、手を引っ張ってくる十座の後を着いて行く。万里くん本人が言っていたようにそんなに喋ってるようには見えなかったけど、どこか気に入らない所でもあったんだろうか。十座が部屋のドアを開けて、中に入るように促されてすぐに部屋に入る。
テーブルの上に皿を置いて、その場に座ろうとしたら十座が先に用意してくれたクッションの上に座って俺の腰に腕を回して引き寄せてきた。


「えっ…ちょっ!」


抵抗する事も出来ずにそのまま十座が胡坐をかいた足の上に座る。俺の肩の上に十座の顎が乗って少しくすぐったい。俺が少し体を動かすとそれが気に入らないのか十座は無言で首を振るだけで、俺は抵抗するのを止めた。


「今日は甘えたなんだね」
「……久しぶりだろ」


小さな声で呟いた十座が愛しくなって、腰に回った腕に手を添える。目の前にあるテーブルに置かれている皿に手を伸ばしてスポンジとクリームを乗せて十座の口に近づける。何も言わずにされるがままに口を開けてくれた十座の中に入れる。美味しそうに緩む十座の表情を見るのが好きで、中学の時もついつい色んなお菓子を買ってきては十座が食べる姿を見ていた。


「俺、十座の食べる姿好き」
「名前も食え」

「じゃあ…あ!」


十座に入れてもらおうと口を開けると口に触れたのはスポンジやフォークじゃなくて、十座の口だった。


「んっ…!」


俺の口の中に入ってきた十座の舌が俺の舌に触れる。どうしたら良いのか分からなくて、縋るように十座のシャツを掴むとすぐに体が離れた。


「ご、ごめん…あの…嫌なわけじなくて…」
「分かってる」

「でも…十座とのキスちゃんと…その、気持ち良かったから」
「もう良い」

「十座?あの…」


怒らせてしまったかなと一瞬、考えた時に口に柔らかなクリームの感触が触れた。十座が今度はケーキをくれたみたいで口を開けると中に柔らかなクリームとスポンジが入ってくる。


「美味しい」
「今度、俺の好きな菓子取り寄せとく」

「うん、じゃあまた一緒に食べようね」






十座×幼馴染ゆるふわ系男主
皆の前でイチャイチャ
椋とも知り合い