僕らの半年間*
丞から紬がまた演劇を始めた事を知った。最近は丞経由で紬の事を聞く事が増えて、紬とは全く連絡を取っていない。丞に連絡を取ったついでに紬にLIMEでも送れば良いと思われるかもしれないけど、それは既に実行していて見事に既読スルーされた。半年も前に会ったきりで…そして今は冬組の公演の真っ最中でかなり練習で忙しいみたいだ。
「………何でそこで俺を呼び出すんだ」
「紬にLIME送っても無視されるからしょうがないんだよ」
「お前と紬の事に俺を巻き込むな」
「それは本当に申し訳ないと思ってる。だけど…俺は他の劇団員の子の連絡先なんて知らないし…」
何故か最近は紬と会うよりも丞と会う事の方が増えていて、丞はこう言いつつも付き合ってくれているから、有難い。丞に紬の事や劇団の事を聞きながらのんびり話をしていると喫茶店のドアが開いた。
「万里くんと来たいと思ってたんだ。絶対、気に入ると思って」
「へぇ…確かに。すげぇ雰囲気良いっすね」
正面に座っている丞が思い切り溜息を吐いたのが分かって、自然と視線がドアの方へと向く。そこにいたのは紬と若い男の子でバッチリと目が合った。紬の手にはしっかりと携帯が握られているし、その携帯が新しくなったような感じも無い。だから別に携帯が壊れていたから連絡できなかったとかじゃ無い。じゃあ俺に連絡出来ない理由は何だ?俺が半年前に何かしてしまったんだろうか?
「丞と名前」
「お前、今日は劇団の手伝いに行くとか言ってなかったか?」
「それが終わって時間が余ってたから…万里くん喫茶店とか好きだから付き合ってもらおうかなと思って…一緒に来たんだけど…」
様子を窺うように俺の顔を見る紬に顔を見られないように正面を向く。隣にいた万里くんと呼ばれた男の子は何も悪くないのに、こんな事に巻き込んでしまった。これ以上、あの男の子を巻き込むのは悪いと思った俺は席を立った。
「丞、今日は付き合ってくれてありがとな。こっちの会計はしとくから丞も紬と何か飲んでから帰ったらどうだ?」
「俺は良い。寄りたい所がある」
「そっか。なら行くか」
紬は何も言わずに俺と丞を見送って、二人で店員に指定された席に着いていた。何も変わらない様子で万里くんと話をしている。
「何か…悩んでるのが馬鹿らしくなってきた」
「名前」
「何?」
「あいつはたまに良く分からない所でうじうじ悩んでるし、はっきり意見を言わない所がある。だからあいつから連絡来るのを待ってれば良い」
「これでも待った方なんだけどな。半年だぞ?」
「……俺から紬に話を聞いてみる」
「え!?」
それだけを言って丞は俺とは別れた。俺は今日は何も予定が無かったから、近くの映画館に行った。貼ってあるポスターを眺めていたら紬が好きそうな映画があってつい携帯を取り出す。半年前の既読スルーのままのLIMEの状態を見てすぐに携帯をポケットに戻す。
あいつが…紬が何を考えているのか分からない。別に四六時中、俺の事を考えて俺と連絡を取り続けてくれ!なんて言った事は無いし、紬が誰か他の人と会っている事に嫉妬したりする事も無い。
結局、俺はその日は映画館に行っただけで映画を見る事も無く出た。携帯には相変わらず紬から連絡は無かった。
それからまたしばらく丞とも会わずに生活していた時、仕事を終えて最寄り駅に着いて改札を出ると紬と女性が楽しそうに笑いながら買い物袋を持って歩いていた。その時、胸につかえていた物が溢れ出して何も考えられなくなった。
「なぁ、丞。紬と一緒に歩いているあの女って誰?」
「どうした?紬なら監督と買い物に行くって言ってたぞ」
「あぁ、そうなんだ…劇団の監督さんか」
「名前?お前…今、どこにいる?」
「最寄り駅出たとこ。なぁ、丞…俺さ、こんな状態だけど紬のこと好きなんだ」
「あぁ、分かってる」
「後でさ、俺の事…怒って良いよ」
「は?」
丞の声を聞いてから、携帯をポケットにおさめて劇団の寮に入っていく二人を見送る。すぐに紬の携帯に電話を掛けて呼び出した。場所は駅前。近くにあった適当なホテルに連絡を入れてから、紬が来るのを待つ。
「名前…久しぶりだね」
「………」
俺の反応を窺うように見上げてくる視線が以前からあまり好きではなかった。俺は紬の事が好きだけれど、きっと俺の好きと紬の好きは対等な物じゃない。俺のこの感情は愛しているという物に近いけれど、紬のそれはきっとまだ学生みたいな好きのままだ。子どもみたいなキスをして、手を繋いでデートをして…そんな普通のデートを紬は俺に夢見ている。
「名前?何処行くの?」
紬の腕を引いて、予約したばかりのホテルのチェックインを済ませて部屋に向かう。俺達がホテルに入った時から紬は急に黙った。何をされるのかようやく分かったんだろうか。
「んっ、ん…!」
部屋に入ってすぐに紬にはした事が無いようなキスをして、無理矢理口を開けさせて舌を絡ませる。紬の着ているシャツの中に手を入れて腰に触れると足の力が抜けたのか俺の服を掴んで、そのまま床に座りこんだ。紬の腕を掴んで無理矢理起こしてベッドに押し倒す。
「名前…ちょっと待って!」
「待たない」
「っ、ぁ!…やめて…」
弱々しい手で俺の肩を押してくる紬の手を片手で抑えつけて、見下ろす。首筋に初めて残した痕はほんの少しだけ満たされていなかった心を埋めた。俺の下にいる紬は涙目で俺を見つめている。泣きたかったのは俺の方だ。片手を紬の腕を抑える為に使っていた俺は紬のシャツを脱がせて、それで腕をまとめた。
「名前…お願いだから…止めて」
震えた紬の声に手を止める。安堵の息を吐いたように見えた姿にまた少しずつ怒りがこみ上げてくる。
「……不安だったんだ…俺達みたいな関係なんてきっと長くは続かないって思ったから…いつ別れたいとか言われるんだろうって考えちゃって…それで…」
「……それで紬から連絡しなかったら、別れ話にもならないだろうって?」
俺が紬が考えそうなことを言ってみると、紬が頷いて溜息を吐く。紬はいつからこんな事を考え始めていたんだろうと思ったけれど俺が考えた所で良い答えは出ないからすぐに考えるのを止めて、俺の下にいる紬を見つめる。
「紬は俺とどうなりたいんだ?」
「俺は…」
「紬が考えている事をもっと俺に教えてくれ」
出来るだけ優しい声音で紬に話しかけると、俺が紬の服でまとめた腕を俺の首に回してきて体を引き寄せられる。そして初めて紬からキスをされた。
「どんな俺でも受け入れてくれる?」
「当たり前だろ」
「ごめん…名前。今まで不安にさせて」
「もう良いから」
紬の腕を拘束している服を外して、紬の隣に寝転がる。少し驚いた表情の紬が俺を見る。
「シないの?」
「紬がキスしてくれたから満足。ホテル来たけど、のんびりしよ」
「うん…名前」
「何?」
「好きだよ」
「俺も紬の事、好きだ」
甘い雰囲気に包まれながら、久しぶりに紬の体温を感じて同じベットで眠った。
紬相手攻め主