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【Exchange switch〜烏野 影山の場合〜】

「あ?」
 部活が終わって、部室でのミーティングも終わって、さぁ後は帰るだけとなった時、隣に座っていた影山くんが変な声を上げた。
 その手元を見れば、十五センチ四方程度の箱を持っている。
「どうしたの? その箱なに?」
「いや、そこに置いてあって。なんすかね?」
 金属で出来ているらしきその箱の上面には赤いボタンが二つ並んでいる。そしてその間には“二人で同時に押してネ!”とマジックで書かれていた。
「なんだろう? 二人で同時に押してって、このボタンの事だよね?」
「ビックリ箱とかっすか?」
「どうだろう。二人で同時に押さないと開かないビックリ箱っていうのも変わってるよね」
「押してみますか?」
「じゃあ、せーので押そうか?」
「っす」
 帰る支度をして立ち上がっていた他の部員も、まだ畳に座り込み小さな箱を囲んでいる私と影山くんに気づいて集まって来る。
「いくよ? せーの!」
 指にカチリとボタンを押した感触が伝わった瞬間、体に電撃が走る。
「きゃ!」
「うわ!」
 思わず畳にうずくまる。悪戯にしては結構な電撃だ。じわりと涙が滲む。
「おい! お前ら大丈夫か!?」
 心配そうな澤村の声が聞こえる。
「だ、大丈夫……。悪戯にしては強すぎる電撃だったけど……」
 電撃で喉までやられてしまった。自分の声が低い。ゆっくりと体を起こす。
「影山くんも、大丈夫だった?」
――あれ?
 目の前にいたはずの影山くんの姿がない。
「え! 影山くんどこ行ったの?」
「何言ってんだよ影山! お前頭おかしくなったか?」
「日向くん何言って……」
 自分の声が低い。影山くんの姿がない。けど、目の前でうずくまる女生徒に、見覚えがある。今、日向くんは私に向かって“影山”と言った。
 目の前の、“私”と目が合う。
「う……そ……入れ替わってる!?」

 電撃を受けてから十五分程。部室は静まり返っていた。
 私と影山くんが並んで座ったその前には、みんなが難しい表情で座っている。
「……じゃあ、本当にお前ら、中身が入れ替わっちゃったのか?」
 重苦しい空気の中、口火を切ったのは菅原だ。その声は微かに震えている。
「みたい、だね?」
「……はい」
 隣に座る“私の姿をした影山くん”が小さく答える。
「原因は、この箱?」
「多分ね」
 菅原の手には先程の金属で出来た箱。
「ん? スガ、それ裏側にもなんか書いてない?」
 東峰の言葉に、みんながその箱を覗き込む。
「なんだ? えく……えくちゃんげ、スイッチ?」
「田中、せめて“チェンジ”くらい読めよ。エクスチェンジスイッチ」
 縁下くんの言葉に私も箱を覗き込むと、そこには“Exchange switch”と書かれていた。
「こ、交換、スイッチ……? え、だから影山くんと私が入れ替わっちゃったの!?」
――そんな、馬鹿な。
 あまりのことに何だか泣きたい気持ちになっていると、みんながなんとも言えない表情で私を見ている事に気が付く。
「えっ、え? なに?」
「いや、影山の珍しい表情にびっくりしたというか……」
「ぷ、王様の泣き顔……」
「月島てめー!」
「ちょ、私の体で蟹股はやめてぇ!」
「す、すんません!」
「なんか、中身は先輩だとわかってるんだけど、女子っぽい仕草の影山……」
「こわい……」
「お前ら一回落ち着け!」
 澤村の一喝で部室は落ち着きを取り戻す。
「私たち、戻れるのかなぁ?」
「せ、先輩……俺の顔で涙目は勘弁してください……」
「ご、ごめん」
「だーいじょうぶだって!」
 にかっと笑う菅原を見ると、「ほらここ」と“Exchange switch”と書かれたすぐ下を指さす。
「効果は一時間って書いてあるべ?」
「あ、ほんとだ!」
「じゃあ、あと三、四十分くらいか? でも信用できるか?」
「時間までここで様子見だな」
「でも、戻れる可能性が見つかっただけでも良かったよー。ね、影山くん!」
 私が言うや否や、部室がざわめく。
「影山の満面の笑み!」
「超レア!」
「龍、写真だ! ケータイ! 先輩、もう一回笑ってください!」
「影山、お前もあれくらい裏の無い笑顔が出来ればいいのにな!」
「日向うるせぇ! ボゲェ!」
「あーもう、お前ら静かにしなさいよ。で、二人は特に体に異常はないんだよな?」
 入れ変わった以外で、と付け足した澤村の言葉に考えるが、特にどこか痛いとかは無い。
「特に無いかな。影山くんはどう?」
「痛いとかは無いっすけど、なんかいつもより体が重いと言うか……」
「えっうそ! も、もしかして私が太ってるからとか……!?」
「おいコラ影山失礼だぞ!」
「そうだぞ! 俺たちの女神に暴言とは許せん!」
「ご、ごめんね影山くん……!! 私、ダイエット頑張るから!」
「先輩は今のままで充分お美しいです!」
「まあまあ、落ち着けって」
 影山くんに睨みをきかせる田中くんと西谷くんをスガが宥める。
「いや、重いというか窮屈? 息苦しい? なんか、肩が凝るというか……」
 影山くんの言葉に、全員が動きを止める。
 訪れる沈黙。
 部員の目線が、私の姿をした影山くんの顔から、すっと下がる。
 そこには、ふたつの膨らみ。
「ちょ……ちょっと! みないで! そんなまじまじ見ないで!」
「ご、ごめんつい!」
「すっすみませ……!」
「おい日向鼻血!」
「あぁ! 田中と西谷が倒れたぞ!」
 この後しばらく騒動は収まらなかった。
 この事態を招いた影山くんはというと、何故みんながこんなに狼狽えてるのかわからないらしく、ひとり不思議そうに首を傾げていた。
 そしてボタンを押してから一時間、私と影山くんは無事に元に戻れたのでした。



―――――
拍手ありがとうございます!次は青城編!
2017.03.31
みつ




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