「君に世界を救ってもらいたい」

 なんて言われたとき、貴方ならどう返しますか?
 使命感に駆られて「はい」の一言で頷く? それとも「自分には責任が重たすぎる」と断る? きっと後者の選択をとる人が多いのだろう。世界の命運を握るなんて大役を率先して背負う人なんてよっぽどの自信家じゃないとできない。

「君にしか託せないことなんだ」

 しかし、こう言われてしまったらどうする? 世界を救えるのは君しかいない、なんて言われてしまったら。
 まずはそんな馬鹿な。自分はそんなたいそうな人間ではないと消極的になるだろう。だけれど、藁にも縋る思いで懇願する姿を前にしてしまえば断りにくくなる。人は自分がなんとかしなければならないと思わされると、どんな状況だって頑張って引き受けてしまう生き物である。
 ここできっぱりと「NO」と答えられるのは、自分の意思を貫き通せる強さがある人または世界がどうなろうと知ったものかと薄情な人などだと思われる。でもそれは決して悪いことなわけではない。曖昧な返答しかできない人は、そんなことできるわけがないと思いながらもあまりにも必死に縋る手を振り解けない人。優しい人ではなく、同情心を抱きやすい人。偽善者とも言うかもしれない。

「なんで、私ですか?」

 私は「はい」とも「いいえ」とも答えられず、言葉を濁すタイプである。相手にとっても自分にとっても非常によろしくない選択。断るなら早めにしたほうが双方に良いというのに。しかし、唐突に現れた彼に意味の分からないことを懇願されて、何言っているんだ、こいつ。の気持ちでいっぱいだが、切羽詰った表情に理由を聞かずにはいられなかったのだ。つまり無責任である。

「君が選ばれたからだ」
「選ばれたって何に」
「あの方にだよ」

 そう言って彼は手をかざし、淡い光を放つ。光からは温かな風が吹き込んでくる。異常な光景だと分かりながら、その美しさに目を奪われた私は足が地面に縫い付けられたように動けずにいた。喉もからからに乾いて固唾を呑むことさえできない。

「厳しい道のりだと思うけど、どうかお願い」

 動けぬ私に近づき、彼の手は私の頬を撫ぜる。優しい手つきに嫌悪感を抱くことはできず、瞼が重くなってきた。

「愛しい僕たちの世界を救って」

 どこか悲しげな色を含めた柔らかな声を最後に、私の意識は暗闇へと沈んでいった。

 

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