剛 誕生日
場違いだ。
鈍い私でも分かった。
テレビや雑誌で見たことのある有名人に囲まれて、到底理解のできない話に相槌をうつ。
半ば強制的に連れてこられた恋人の誕生日パーティーは、私にはあまりにも不似合いな場所だった。
彼が用意してくれたワンピースのおかげで服装だけは浮かずにすんだけど、なんせ顔のレベルが違い過ぎる。芸能人特有のキラキラしたオーラが私には全く無い。
参加者のほとんどが初対面の人間ばかり。
当の主役はというと、少し離れた席で綺麗なモデルさんと楽しそうに話してる。
(帰りたい…)
知ってる人間なんて剛ちゃんだけなのにひとりにしないでよ。
もっとその女の人と離れてよ。
誕生日は私と過ごすって言ったのに…うそつき。
心をじわじわと黒い何かが占めていく。
「そろそろ切り上げっかー!」
今回の幹事でもあった金子さんが大きな声で皆に呼びかけた。
ぞろぞろと他のメンバーも席を立ち、それぞれ仲のいい者同士で固まって喋りながら出口へ向かっていく。
私は当然誰とも話すこともできずひとり歩いていた。
「まな」
ふと後ろから肩を掴まれる。
振り向くと恋しくてしょうがなかった彼だった。
「剛ちゃん」
「先帰ってな?」
「え…?ご、剛ちゃんは?」
「俺はちょっと二次会に顔出してから帰るから」
私、まだ言わなきゃいけないこと言ってない。
「うそつき…」
「ん?」
「誕生日…一緒にいるって言ったのに」
「私のことなんて放って他の女の人とベタベタしてるし…」
ちがう。
「剛ちゃんって結局私のことなんてどうでもいいんだよね!」
こんなことが言いたかったんじゃない。
「芸能界って周り皆美人さんばっかりだし!」
誕生日おめでとうって言いたかったの。
「ほ、ほんとは他にもたくさん彼女いるんじゃないの?」
ふたりでお祝いしたかった、それだけなの。
「まな」
「あんまり子どもみたいなこと言うな」
冷たい声が頭の上から降ってきた。
顔を上げた瞬間に目と目があう。
まっすぐ射抜くような鋭い眼差し。
怒らせた。
私はとんでもない後悔に襲われた。
本当に伝えたかったことは何一つ言葉にできなかった。
日々積もる不安だけを彼に押しつけて、結果、困らせて、怒らせた。
「剛ちゃ…」
「今日は帰って寝な」
それだけ言って剛ちゃんは、金子さん達が乗るタクシーに乗り込んだ。
すぐに車は発進して、間もなく見えなくなった。
私は零れ落ちる涙も拭えず、少しも動けずにタクシーが消えた方向を見つめていた。
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