おにぎり宮の店長に男を紹介したると、言われて、おにぎり宮で臨時バイトをしています。へぇ、そうなんだ!って受け取る人なんて絶対居ない。普通に考えて有り得ない。でも、もっと有り得ないのが…


「今日、四時半スタートやから、メニュー叩き込んだいてなぁ」
「え?今、もう四時すぎてますよ」
「そりゃ、お前が来ん遅いからやろ?」

四時約束の時間で、五分前に着いて遅いって、私が遅刻したみたいに言わないでください。なんて、睨もうとしたら店長は「次は、七時半な」と言った。

「は?」
「だから、テキパキ動けよ?」
「聞いてない」
「そりゃ聞かれてないのに、なんで言う?」

いや、だから、どうして、俺は間違ってないで?みたいな顔してるの?

「詐欺!」
「詐欺やないわ!んで、最後は二十二時半のはまぁ、適当でええわ」
「だから、詐欺!」
「言ったやろ?ぎょうさん男来るって!」

もうダメだ…店長と言う合う体力が勿体ない。あと、数十分の間にメニュー叩き込もう。



1軒目の予約は、子供会。
一番上で中学生ぐらいかな?ただただ可愛いかった。小さい子とお話して、小さい子の笑った顔みて癒された。「おねえさんは、てんちょーのおよめさん?」なんて、聞く女の子が居た。店長が好きなのかな?小さな女にライバル視されちゃって表情筋が緩々。「違うよ!お知り合いなだけ」と答えたら満面の笑みを浮かべてて、本当に小さいの笑顔を程癒されるモノはない。所で、店長は男探せるって言ってたけど、私未成年には手出さないけど?

二件目の予約は、町内会。
私より少し上の方、御年配の方と年齢層がわたり広い集まり。ほとんどがここの常連さんで飲み物を運ぶ度に「治の彼女?」と聞かれた。最初こそ、治ってだれって思ったけど、話を聞いているうちに店長の名前だと知った。

「ねぇねぇ、彼氏いる?」
「居ませんよ〜」
「えー、こんなかわええのに?大学生なら出会い沢山ありそうやのになぁー」

お酒飲んだ人の可愛いは八割が嘘です。居酒屋でバイトしていた時に習ったので、酔っ払いの扱い方は「…あっはは〜」大学生じゃないと否定もしないで笑い流すのが一番だと知っています。それからも「ゆりちゃーん」「ゆりちゃん、こっちにも〜」とあっちこっちに呼ばれてすぎて、男を探す余裕もありませんでしたよ?店長。


二件目のお開きが予定よりも早まり、次の予約まで少し休憩が出来た。「休んでええよ」と店長は言った後、控え室?裏に入り込んでいった。だから、私は、靴を脱がないまま、座敷に上半身だけ仰向けになって寝転んだ。

久しぶりにこんなに動いた。

学生の頃は、毎週やってバイトしてたけど、社会人になったら座っている時間の方が長くなった。パソコンにぼーっと向き合っているとフとした瞬間に元彼の事を思い出しちゃうから、本当にいい気分転換になれたなぁ。
店長に感謝しなきゃなあって一瞬思った。けど、それは違う。私、騙されたんだった!感謝はしない!!…でも、来て良かったかも。


「随分、リラックスしとんな」といつの間にか、裏から戻ってきていた店長が、お皿を寝転んでいる私の顔の上に出した。お皿を顔の上に出すの危なくない?落としたら私、血だらけだよ?「なんですか、それ」と聞けば「起きたらわかる」と言われた。

ゆっくり上半身を起こして、店長の持つお皿の上を見ると、とってもいい香りのおにぎりが二つ並んでいた。そう言えば、今日まだ、なにも食べてなかったから「食べたい!」と食い付いてしまった。

「次、くる奴ら沢山食うから食材残さないかんからこんなもんで、すまん」
「…店長、すまんって言葉知ってるんですね!!」
「やらんぞ!」
「あぁー、うそです!嘘です!頂きたいです」
「…まぁ、ええ」


コッと優しくテーブルの上にお皿を置いてくれた店長はおしぼりとお茶を出してくれた。手を洗って、おしぼりで手を拭いて手を合わせて小さく、いたただきますと言ってからおにぎりを口へ運んだ。

「っ!?美味しい!」
「そりゃ、俺が作ったんやら旨いに決まっとるやろ?」
「溶けちゃった!美味しい!」
「…溶けはしんわ」
「美味しいっ!ありがとうございます!」
「ゆっくり食べぇ」

そう言って店長は厨房へ戻って行った。こんな時間に炭水化物摂るなんて有り得ないと思っていたけど、今日だけ…今日は頑張って働いたご褒美。よく噛んで、ゆっくり味わって頂いた。

空っぽのお皿を洗うため厨房へ入り、店長へ「ご馳走様でした」と伝えてから洗い場に置いてあるスポンジを手を持った。すると、店長が「自分、よう働くなぁ?」と私を見て言った。

「働けって言われたから働いてますけど?」
「まぁ、そうやけど…「サム!帰ったでぇ!!」…!」

店長の言葉が言い終わる前に、勢いよく入り口が開く音よりもお客さんの声が大きくて店内に響いた。

「お前、もっと静かに入ってくれんのか?」
「腹減ったぁ〜他のやつまだ来とらんの?」
「話聞けや。まだ、二十分前に来る奴が居るか普通」
「居るで?俺?」


カウンター席に座ったその人は店長と同じ顔をしていた。私は昨日、この店を知ったばっかりで、店長の事よく知らないから「双子なんですか!?、」って驚くのが普通の反応だと思う…けど、それ以上に店長、数時間前に私へ「二十前に来るの普通やろ?」って言いましたよね?!ねぇ!まぁ二人で会話している中にそんなツッコミ入れる気にはなれず、おしぼりを店長と同じ顔の人へ運ぶと驚かれた。

「サム!お前、大学生の女、雇ったんか?女は雇とわん言っとくせに!!おっぱいデカイ女に振られたからって次は、未成年に手出す気か?」


この人の失礼は、一周って凄いと思う。わたしの事指差しながら失礼な発言しかしてない…。「それ、お前が綺麗言っとた奴の友達やぞ」と店長は言った。それって女の子には言わないよね?もう、この時点で三件目の団体に出会いなんてないと確信した。


「本当に、あの子と友達なん?」

私の友人がどれだけここに入り浸っているかあまり知らないけど、双子の片割れにまで存在を認知される程通っていたのか…と驚いた。


「…ぇ、あ、はい。高校から一緒です」
「なんや、あの子に全部吸いとれたんやな!」

この人、本当失礼!私の事見定めながら言ってケラケラ笑ってて、一発ぐらい引っ張叩いてもいいぐらいじゃないか?と笑っている顔見ていた。この顔どこで見た事ある気がする…けど…あっ!


「お兄さん、バレーボール選手のみやあつむさんって方に似てますね!」


別にブサイクな人じゃ無かったしイケメンプロ選手ってテレビで言われてたから褒め言葉のつもりだったのに「…おい、サム、この女、アホか?」と凄い冷たい目で睨まれた。

「あの、顔が綺麗ですねって意味だったので…みやあつむ嫌いなんですか?」
「嫌いなわけあるか!アホ!俺が宮侑や!イケメンプロ選手や!!」
「…あ〜ぁ、ヘェ〜、そうなんですね」
「おい!冗談やないわ!本物や!ちゃんとみろ!」.


入り口を開けた時以上に大きな声で叫ぶから逃げ腰になった。「あぁ〜はいはい、見ました。生でいいですか?」と酔っ払いを扱う時よりも少々、ほんの少しだけ雑に注文を聞いた。

「あ゛?イケメンに対してお前、その態度じゃモテへんぞ!もっと媚び売ってこいよ!まぁ俺は、お前に売られても買ったらんけどな!んな事より生!ちゃんと働けよ!」


色々言いたい事を抑え混んで「…お待ちくださーい」とニコっと微笑んで逃げるようにドリンカーの中で入り込んだき。
その後から続々と集まってくる方々も宮侑さんと同じように背が高くて体格の良い人や横文字の名前の人が集まってきた。一件目、二件目とは人数は少なくても食べれる量、呑む量は比べものにならなかった。


「コークハイです」
「…どうも」

どこの席に座っている人も、ぎゃーぎゃー騒ぎまくっているのに座敷の隅っこの方に座っている細目の彼は物静かだった。コークハイを渡して洗い物をする為に厨房に戻ろうとた時「ねぇ」と呼び止められた。

「なんですか?」

ジロジロと私見てから手招きをしたので、少しだけ近寄ると彼は私の耳元で「治、うまかった?」と囁いた。
私の中でこの人は無口でクールで、この集まりの中では常識人だと思っていた。そうゆう関係じゃないって人が増えるたびに会話をしていたから絶対分かって聞いてきた。だってこの人の口元がニヤリと微笑んでいるのが横目で見てわかった。


「誰にも内緒デスヨ?」自分の口元に人差し指を持ってきて、彼の耳元で「めっちゃくちゃ、うまかったです」と微笑んだ。

すると、この男は先程よりもニヤニヤしながら「ふ〜ん」と勝ち誇った顔を見せた。そして、侑ーっと片割れを呼び出した。


「治、黒だよ。この子今うまかったって言ったから」
「は?まじで?」
「しーっ大きな声出さないでください!言っちゃダメなんですか!」
「サムのどうやった?!」
「えー、めっちゃ甘くて溶けちゃいました、えへへ」

わざとらしく照れた笑いを見せたら侑さんがすぐに店長に言いつけに行った。

「お前、やっぱりあの女に手出したんやないか!このひとでなし!」
「は?何回も言わせんな」
「お前が否定しとってもあの子が認めたで!」
「は?」
「甘くて溶けちゃいましたって言っとたぞ!あほ!」
「は?」


店長も驚いてこちら見て侑さんは「なぁ、言ったよな?!」と確認してきた。

「言いましたよ?」
「ほれみろ!サムうまかったって言っとんで!な?」
「はい、店長の作るプリンは本当に美味かったです」




ザワザワしていた店内が私の言葉によって静まり返った。侑さんなんて、目が零れ落ちるんじゃないかってぐらい見開いたまま固まっちゃって、絶えず笑い出した。

「お前!騙したんか!」
「っはは〜、だって、私うまかった?って聞かれただけですよ?」
「…最悪」
「ふふふ、人のことジロジロ見る方が最悪です〜」

酔っ払いに紛れて冗談言い合って失恋した事なんてすっかり頭から抜け落ちていた。
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