私もお客さんに紛れて少しだけふざけてみたりと楽しく過ごしていた時ガラッと入り口が開いた。また一人お客さんが増えたので「いっらっしゃいませ」言う前に侑さんが一目散に入り口へ出迎えに行った!

「北さんっ!!お久しぶりっす!この前の試合みてくれましたか?俺のサーブ!」
「おぅ、見た見た!凄かったなぁ」
「あっ、何呑みますか?ビールにします?」
「悪い、今日車出来たからお茶貰うわ」
「わかりました!あ、こっち!こっち座ってください」

今、ペコペコしている一八〇センチ越えの男は、さっきまで私をバカにしてきた男と同じなんだろうか?と不思議でたまらなかった。

北さんというこの中では小柄な男性を席に案内している途中、小さく私に「おい、はよ、お茶!働け、バイト」と言った。この北さんって人は、侑さんの弱み握ってるのかな…教えてほしい…ムカつくもん。


「おまたせしました、烏龍茶です」
「おぉ、おおきに」


ただテーブルの上に置いただけでわざわざ、目を見てお礼を言ってくれた。多分三件目の予約の中でもっといい人と一瞬で確信した。いえ、とニコと微笑んだ時、私は北さんという方の顔をちゃんとみた。そして、思わず…

「も、もしかして、信ちゃんさんですか?」


ザワザワしていた、店内がガッと静まり返った。この人たちの耳良すぎじゃない?怖い…なんて、考えていたら血相を変えて、私の事を殺す勢いで「お前、ストーカー!」と北さんを守るように北さんを自分の背中に隠したのは、侑さんでした。

けど、コレは、侑さんが正しい。

私が、一方的に信ちゃんさんの事を知っていて、そして、またにお見かけてしていたから、さすがに挨拶も無しに言ったはダメだった。訂正しなきゃ…謝らなきゃ…と首を横に振って、口を開こうとした時「自分、ゆりちゃんか?」と侑さんの背中に隠された顔を覗かせて言った。

「え、?!北さん、このストーカーと知り合いですか!!」

だから、ストーカーじゃないってば!否定させて!と思ったけど、それよりも信ちゃんさんが私の事を知っていてくれた事に驚いて「はい、ゆりです」と答えると「そうやったんか、聞いとった通りかわええ子やな」とふわっと笑みを浮かべた。…あれ、ヤバい、今、きゅんってなった。


「いつも、ばあちゃんがお世話になっとるみたいで、ありがとうな?」
「いえいえ、いつも北さんから信ちゃんがなぁ〜、信ちゃんはなぁ〜と楽しそうに話して下さるので、嬉しいです」
「あぁ〜それは恥ずかしいなぁ…」
「そうですか?とってもかっこええなぁって職場で信ちゃんさん大人気ですよ」
「そんなん?」
「絶対いい旦那さんになる、ああいう息子に育ってほしいとか言ってます」
「そりゃ、嬉しいな」


信ちゃんさんと話をした事が職場にバレたから、すごい恨まれそう。あぁ、思ってた通り優しい人だなぁと話を続けていると放心状態の侑さんがようやく動いて「え、ふたり、知り合いなん?」カタコトで聞いてきた

「ウチのおばあちゃんが通っとる病院の受付さんや」
「…へぇ〜〜〜って、お前、本当に社会人なん?!?」


拍手を送りたいほど清々しく失礼。
でも、職場にお見えになる方が見るまでさっきまでのようにガン飛ばすのは出ないので、ここは大人の対応で貫こう。「さっきから何度も言ってるじゃないかぁ〜」と受付にいる時のようにワントーン声を高くして侑さんに職場にいる時のような笑みを浮かべたら「え、きっしょ、誰やねん、お前」と言われた。

「ゆりちゃんは、かええやんなぁ?」
「っ?!え、、あ、いえ!そんなっ!」


信ちゃんさんに突然褒められて、自分でも気持ち悪い反応をしたと思う。

私の職は病院の受付。病院にくる患者さんはご高齢の方が多い。その中でつい添いでたまにお見かけしていた信ちゃんさんは、かっこよくて爽やかで…目の保養。つまり、アイドル的存在。
そんな方に、名前で呼ばれたり、かわええと言ってもらえったら全身が熱くなってきた。あれ、私、アルコール飲んだっけ…心拍数上がってない?アイドルにファンサービスしてもらったファンの気持ちがよくわかる。

「ゆり、これ、運んでや」

ドキドキ煩い心臓は止まらないし、このまま信ちゃんさんと言ったら爆発しそうだったので、今ばっかりは店長の声が救世主に思えた。

その後も何度かお話が出来て、私が毎回信ちゃんさんって呼ぶから「さん、なくてええよ」ファンサービスを貰い続けた。アイドルにファンサービスをもらったら自慢したくなるのはこうゆう感覚なのか…としみじみ感じていた。


「オレ、電車やからそろそろ帰るわ」

一人が切り出して時計を見るともう針が重なり合う頃で「じゃ、俺も」「またな」と次々席を立ち帰りの支度を始めた。そして、本日一番のファンサービス「ゆりちゃん、乗ってくか?」と信ちゃんに言われてた。素直にめっちゃくちゃ嬉しいのでまた、ボッと顔が熱くなった。

「あ、いえ…ご迷惑おかけする事はできないです」
「いつも、ばあちゃんが世話になってるんや、このぐらい迷惑にならん」

もう、信ちゃん!!そんなファンサービスしすぎ!!と心の中で叫んだ。でも…

「お気遣いありがとうございます。お気持ちだけで十分です!まだ、片付けが残っていますんで…」
「あぁ。そうやな…治、ちゃんとゆりちゃん送ってきぃよ?」
「…え、あ、はい」

丁重にお断りしたら店長にまで声かけてくれるあたり本当にいい人すぎませんか?はぁ、職場で自慢したい!!って気持ちが大きくて、店長の一瞬すっごい嫌そうな顔は見なかったことにしょう。



全員が帰ってから、静かになった店内で黙々と片付けを続けている時「…帰らんで良かったんか?」と言われた。

「帰りたかったですよ?でも、この量一人で片付けるの大変やん」
「…おぅ、まぁな」
「プリンのお礼やからな」
「…えらい、高いプリン食ったな」
「ねぇ?本当に詐欺やわ」

そして、また二人で片付けを続けて全部が終わったのはもう針が重りあって一時間後だった。

「自分、家どこなん?」
「五駅先」
「は?俺、今日呑んだで送れんよ?」
「は?」

いやいや、店長?さっきまで片付けしてたから呑む時間なかったよね?え、もしかして、三件目の人達と一緒に呑んでたの??いや、待って、時を一時間前に戻してほしい。信ちゃんと帰ってたら良かった。速攻自分の携帯でタクシー会社に電話をしたら時間も時間で「いつ頃行けるかわらないんですけど、ええですか?」って言われた。それでもええ!と思ったのに、店長が私の携帯を奪い「ほな、ええわ」と断った。いや、断るなや!携帯を終い店長を睨みつけた。


「何すんねん!」
「何時になるか分からん間、未成年と店に居ると知れ渡ったらどないすんね!」
「知らん!ってか、未成年ちゃうわ!私はどうなる?」
「…はぁ〜、しゃない。始発までウチに居り」

店はあかんくって家はいいの?あ、もしかしてこの店長…「お前なんかに欲情しンから安心せぇ」と私の心の中を読み取った。



▽▲▽


お店から歩いて十分もしない所にある外装を見る限り高そうなマンションへたどり着いた。うわ、この人、本当におにぎりさんだけの収入なの?やっぱり詐欺師なんじゃない?なんて、思いながら自動ドアを抜けて、エレベーターに乗り、店長の部屋の前に着いた。

ガチャ、ガチャ鍵を開けている時にフッと「店長、彼女いないん?」と頭に過った言葉が声になった。「…今はおらんからええ」と言ってほれ、入りとドアを開けてくれた。


「お、お邪魔します」

玄関も広い。隅っこにスニーカーを揃えて、奥くへ進んでいく店長の後ろをついて行く。その間、廊下には三つの扉があった。一人なのに、なんで、こんな広いん?なんて、不思議で通されたリビングを見て、この家を選んだ意味が良くわかった。

「っキッチン、広?!」
「当たり前や、俺は料理人やぞ?」
「え、店長って、本当店長なん?」
「何言っとん?」
「いや、店長という顔は表向きで、裏では詐欺師なん思ってたん!」
「いつまで引きずってん」

そんな会話したらなんか、今日一日の疲れがどっと来た。始発までまだ数時間あるからちょっとだけ仮眠させてもらうっかな…。

「店長、始発まで、ソファ借りてええ?」
「別にええけど、寝るからベッドで寝たらええやろ?」
「そんな事したら多分熟睡してまう」

勝手せぇと店長が廊下戻り、一つの扉を開ける音がした。ゴソゴソ何かを探している音が止まると足音がこちらは戻ってきた。すると「これしか無かったわ」とソファに座ろうとしていた私の前に差し出したのはどう見ても女性用の下着。

「え?」
「仮眠でも何でもええから、シャワーしてからにしろ」
「あ、ありが…」

お店で働いた後、髪の毛に付いた匂いとか汗で気持ち悪いから素直に嬉しくてお礼を言いかけた時、手元にある、店長が渡してくれた女性用の下着をもう一度見て口が止まった。
何このアルファベット…薬科の部類かな?SNSでこれから始まるのあったね…いや、本当に何?と睨みつけた。

「お前が使っても無意味やろなぁ?まぁ下だけ使ってたらええやろ?」
「…そうさせて頂きます」
「んなら、こっち」

お風呂場に案内されて洗濯機まで貸してくれて、本当に嫌味がなかったらめっちゃくちゃいい人なんだけど、嫌味が私の気にしている処ばっかり付いてくるからプラマイゼロ。

下着は、ショーツだけお借りして、店長がもう使っていないスウェットを貸してくれた。けど、スボン履いても下がるからこれも意味ないんだけど…まぁ、上のスウェットが大きくて、少し丈の短いスカートだと思えばいけるな。うん。数時間だから、大丈夫。

「店長、お風呂ありがとうございました」

リビングにいると思ってた店長の姿が無くて、廊下に出ると一つの部屋のドアが解放されていたので、こっそりと覗いた。すると、そこには高級ホテルの高級な部屋に置かれてあるような大きなベッド…たぶん、キングサイズ。

「…っすご」
「せやろ?」

突然背後から声が聞こえてビクッと肩が上がった。振り返ると店長が未開封のペットボトルをくれた。

「なんや、お前その格好?それで、誘ってつもりか?」
「誘ってへん!これ、デカすぎて着れなかったからお返しします」
「…お前、色々足りなさすぎやろ?」
「せ、成長期だから!」
「二十歳超えた女が何言っとん?」
「こうゆう時は成人女性としてみるのなんなん?」
「事実やろ?」

ぐうの音も出ない…お風呂ありがとうございました!って吐き捨てるように、店長の寝室からリビングのソファへ戻ろうとした時「そんな格好で、ソファで寝たら風邪引くで」と言われて足を止めた。

「別に仮眠だけやから、風邪引かもん」
「仮眠でも、こっち使えばいいやろ?」

こっちと、指した先にはフカフカのキングベット。店長はどこで寝る?と聞く前に「俺、明日休みでまだやりたい事あんねん、始発の時間に起こしたるわ」と言った。

え、店長優しくない?え、キングベットなんてなかなか寝れる機会ないし…いやでも、店長はこうやって言って寝入った私を襲う気かもしれない…!彼氏に振られたからってそう安安と男と寝たりするような女じゃない!


「店長、そんな事言ってほんっ「お前なんかに勃たへんから気にするんな」……あ、ソウデスか」


なんか、コレ…絶対大丈夫な気がしてきた。店長、私のこと女として見てない。そりゃ、あんだけ大きな下着が家にあるってことは大きい人しか興味ないってことだろうね!なんか、怒りと共に安心してたら、すぐに眠くなってきた。もう、遠慮するのもアホらしい。

「じゃあ、お借りします、おやすみなさい」
「おう、ちゃんと寝ろよ」


ふわふわのベットに入った途端充電が切れた携帯のようにスッと眠りについた。彼氏に振られてから夜はなかなか寝付けない日が続いてたからかな?お店で働いたからかな?わからない…わからないけど、良く寝れそう…。
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