食後のジュースを買いに体育館から一番離れた自動販売機にしか売ってない飲み物を選び、取り出し口に手を突っ込んだ時、真新しい制服を着た女子生徒が「治先輩、この後時間ありますか?」と甘ったる声で聞いてきた。
俺が決めたわけじゃない。なんか知らん間にこうやって声をかけてくる女が増えた。これは、そうゆう挨拶や。

「お前、一年やろ?よう知っとんなぁ」
「私、この言葉を治先輩に言いたくて此処に入学したんです、だから、今からダメですか?」
「…変わった動機やな。彼氏は居らんよな?」
「居ません」
「ほな、図書準備室な」
「えー、まだ、私入学ばっかりやから一緒に行きたいです」
「そこの階段四階まで上がったら、あるから待っときぃ」

女は一緒がよかったのにぃなんて、ブツブツ言いながら階段を上がって行った。
特に断る理由も思いつかなかった。それだけ。その場でストローを差し込んでポケットの入っている携帯を取り出して、時間を見た。まだ、昼休み終わるには時間あるな。飲み干した紙パックをぐしゃっと潰して、ゴミ箱に投げ捨てた。


いつから始まったかよう覚えてへん。
高校入った時はもうこうやって女が、寄ってきて、吐き出して終わり。そんだけの関係。一緒に歩いたり、一緒に飯食ったり、勉強したりなんて、絶対しん。お互いが吐き出せたらそれでええ。
ツムみたいに、彼氏持ち、人妻とかに俺は絶対手は出さん。アイツは人でなしやら誰でもヤる。けど、俺はちゃんと確認してからヤる。


普段から人気の少ない図書室。
そして、その隣にある準備室なんて使う奴なんてほぼ居ない。職員の物置のようなもん。少し前、進路相談室に置いてあるソファを新調したからとお古が図書準備に運び込まれていた。俺にとっても好都合。テーブルでやるより、ソファのがまだええ。
さっき声をかけてきた後輩は先程よりも、胸元がはだけて短すぎるスカートのままソファに膝を抱えこんで座って俺を待っとった。あぁ、こいつ、色んな奴とヤッとんな…誘い慣れとる。

「もう、遅いですぅ〜、寂しくて一人でしちゃうところでしたぁ」
「ほんなら、もっとゆっくりきたら良かったなぁ」
「えぇー、見るの好きなんですかぁ?」
「どうでええ」

ソファに押し倒して、最終的にこうなるやから、と塗りたくってあるグロスを舐めとって舌を絡ませた。俺のから逃げんで、必死になって絡ませてくる。快感を知った顔…もっと、くれと言わんばかりに舌を絡ませてきた時、カタッと物音が聞こえた。でも、後輩の女は一切気づかないで必死に、俺を求めとる。
絡めたまま、視線を音の先を向けるとある女子生徒と目があった。両手にはデカイ段ボールを持ったその女子生徒は呆れ切った顔をして段ボールをその場に置いて、音を立てないように準備室から離れて行った。

名前も知らない、学年も知らない、女やからええか…なんて、俺は思わん。何も知らん奴の方がよっぽど警戒する。どこでいつ、先生に言われるかビクビクするから…入ってきたのが、またあの女子生徒で良かったと、甘ったるい声を漏らす一年に欲を吐き出した。


「治先輩、また相手してください!めっちゃ気持ちよかったです〜」
「気が向いたらな」
「楽しみに待ってますね」

はだけた服を直しながら、次を取り付けようとする後輩の女。俺からしたらもう二度やらん。スッキリしたけど、別にそれ以上はない。


教室に戻ると角名が俺の席座っとって「お疲れ」と言った。何をしとったのか言わんでも、だいたいバレる。今日の部活はロードワークからだって、と伝達だけして自分の席に戻って行った。


「サム、お前後輩の可愛いとやったんやろ?どうやった?」
「どうもないわ」
「なんや、ハズレか」
「慣れとる感はあったでツムとは相性ええんやない?」
「俺ん所に来たらめっちゃくちゃにしたろ」
「治は初々しい子が好きなの?」

ロードワーク中、ツムと角名とこんなくだらん話をしながら走り続けて、無事にノルマを達成した俺らは体育館へ向かうと「三人とも、お疲れ様〜」と一つに括った髪の毛がゆらゆらと揺らしながら現れた顔は昼休みにもみた顔。

「花篭〜、いつもの〜」
「はいはい、侑くんはこっちで、角名くんと、治くん」

一人ずつ手渡しでドリンクを渡すのに、意味がある。ツムは代謝が良く体温が上がるから他の人よりも少し冷たい。角名のは、薄め。他の部員も全員違う…そして、俺はいつもなら濃い目がほしいけど、今日は、濃いはいらんなぁ〜と花篭から受け取ったら「今日は、冷たいから気つけてな」と言われた。そして、その言葉を聞いたツムは「なんで?」と俺より先に聞いた。


「前もそうやったやん。違った?なら、作り直すけど?」


花篭は、ボトル貸して、と手を出してきた。「前って何?」と角名さえも理解出来てない。「準備室行った日は、代謝がええんやって」と呆れたように言ったところでやっと、ツムも角名も理解した。


「花篭、覗いたん?」
「私、図書委員だから用事だったけど、放置してきた。明日の朝練前に片付けくる」
「ご愁傷様」
「挿れる前やから、事故でもないやろ?」


そうゆう問題じゃない、アホ、と言い残して花篭はロードワークから帰ってきた部員の元へ駆け寄ってまた、一人ずつ手渡していくのを眺めていると、角名が「花篭っていい人だよね」とボトルに口を付けた。

「それはわかる。あいつ冷めてるってか、無駄な模索して来んし、そうゆうの見ても普通に話しかけてくるもんな」
「部活以外俺らに興味ないだけやろ?」
「お互い楽でいいよね」
「まぁ花篭が興味あるのは一人だけやもんなぁ〜」

徐々に帰ってきた部員の中でひときわ花篭が嬉しそうに話す相手が一人だけ居るのを部員全員が知っとる。


「路成くん、今日スペース遅ない?はい、お疲れ様」
「もうちょっとオブラートに包め、ゆり」
「北さんに報告してこよっか?路成くんの体脂肪また増えたって」
「増えてへん!ってか、この前したやろ?俺めっちゃ怒られたんやけど」
「ダイエットする?」
「せないかんかな〜…」
「嘘、うそ!路成くんは、そのままで十分かっこええよ」

俺らには向けんような、花が飛び散ったような笑みを見せるのは赤木さんだけ。
稲荷崎には、マネージャーが元は居なかった。けど、赤木さんがゆりならちゃんと出来ると北さんを説得させてマネージャーにさせた。一年の頃はこの二人付き合っとんのか…と思っとたけど、赤木さんには同じ学年に彼女が居る事を知った。たぶん今も付き合っている…はず。

花篭は、それを知っている。知っていても、今も赤木さんには好意むき出してで接しているから、俺からしたらマネージャー業がちゃんと出来とっても、可哀想な奴だなぁとしか思わん。



▼▽


部活終わりにツムとだらだら駅に向かって歩いとるとポツンっと花篭が一人で歩いとるのが見えた。いつもなら、赤木さんと二人で帰るのに珍しいなぁとツムも同じやったみたいで「花篭〜、一人なん?赤木さんは?」と駆け寄っていた。進行方向にいるから必然的に俺はツムを追う形になった。
花篭は足を止めて、振り返って「一緒じゃないよ」と返した。

「なんで?喧嘩?」
「路成くんと喧嘩なんかせんよ!」

その後に「今日、路成くん達記念日やら二人のがええやろ?」といつも赤木さんと話す時のように周りに花を散らせて微笑んだ花篭を見て眉間に皺を寄せた。

お前、好きなのに、なんで笑う?と言ってやりたくなるほど、いい人を取り繕う花篭にイラっときた。

「花篭って気遣いとか、できるんやな?行為中に乱入してくるやつだから、ラブラブな二人みても割り込むんかと思ったわ」

嫌味しか込めてない言葉を放ったら、取り乱すやろ?と見下すはずが「乱入してへんやろ?」とフッと鼻で笑った後、今まで見た事も無いほど嬉しそうな顔を見せて言った。

「それに、私、路成くんも彼女さんも大好きやから、二人が仲ようとしとるの大好きやねん」
「…花篭は、好きちゃうの?」

ツムは目を丸くして言った。それはツムだけじゃない、部員全員が同じ事思っとった。花篭は、彼女いる赤木さんに恋しとる、そう思っている。



「え?路成くんのこと?好きは好きやけど、お兄ちゃんみたいで好きなだけだよ?」



そんな言葉誰が信じるか。俺はまたムキになって花篭に問いかけた。

「赤木さんと手繋ぎたいとは思わんの?」
「いつも、繋いでくれるよ?」
「ちゃう、そうゆうんじゃなくて、こうやって」

花篭の手を取り指を絡めたら「思わないよ」と返ってきた。

「チューはしたいやろ?」
「したくない」
「セックスは?」
「したくない、ってか、何この質問?」

困ったように笑った花篭を見て、また腹の底がグツグツに煮え上がってきた。

「なら、なんで、赤木さんとだけよう喋るん?」
「んー、一番話しやすいからかな」
「なんで、いつも、赤木さんと居る?」
「ずっと一緒だったから?」


当たり前や。知っとるわ、全部わかっとんねん。幼馴染みで、昔からそばに居て頼りになるから、そんなんわかっとる。わかっとる事を花篭の口から聴くと更にイライラが増して言葉にしんでもええ言葉が溢れ出た。


「なんで、俺やないねん!」
「…え?」
「は?、サムお前、どうした?」


本当、最悪や。
ツムの前で何言ったんねん。可哀想なんは花篭やない。俺や……
TOP戻る