中学校に上がった時に、クラスの女子がコソコソ気味の悪い笑い方をし始めた。最初こそ、なんでそんな笑い方しとんの?と思ったけど、徐々にクラスから孤独になる女子を見つけて、気づいた。これが、イジメや。誰も口を出さん、誰も見ん…いつまで続くが分からんような遊び。

中学三年間必ずクラスに一人は居った。

高校に入っても女子の遊びは変わらんかった。
メガネかけて、下ばっかり向いているような根暗女子が今年のターゲットのようや。助けてやる義理もないし、男が関わるとさらに悪化した現場を見た事がある。だから、俺の隣に座っとっても、口も出さんし見んようにしとった。


「スズキさん、だよね?今日提出用のノート持ってきてる?」


この言葉にクラス全員が振り返った。
なんで、この女はターゲットに普通に声かけとんの?まさか気づいてへんの?ターゲットに声かけた裏切り者が次のターゲットになる…ターゲットになりたい奴なんて絶対居らんはずなのに、この女は暗黙のルールを破った。

「…ぇ、…あ、…そ…の…っ」
「ん?あ、伝達来てなかった?それなら、私のミスや!ごめんね!」
「…ぃえ!…ち、がい…ます」
「なんで、敬語?スズキさん面白いな」

ターゲットに笑いかけるお前の方がよっぽど面白いわ。ザワザワと騒ぎ立てるクラスメイトの声が聞こえとらんわけじゃない。ターゲットの視線は声を掛けてきた奴じゃなくて、クラスメイトの方ばっかり見とる。

「…ぁ、…これ、…お願いします」
「はーい。確かに預りました〜!またね」
「…」
「ん?どうしたの?あ、もしかして、スズキさんアレやろ?私の事知らんのやろ?」
「っ!」
「もー!花篭ゆり!自己紹介遅れたけど、一年間よろしく!」
「…ぁ、…はぃ……」


これで、来週辺りからターゲットが変わる。
そう、全員が思った。…でも、違った。この一言からクラス内での孤立が消えた。


終始ニコニコしとって、人当たりも良くて、先生にも信頼させていて、頭も良くて、周りを惹きつけるような花篭がクラスの雰囲気をガラッと変えた。

中学三年間殺伐としていた教室が、今年初めて穏やかに終わった。


高校二年のクラスは今までにない程心地よかった。それは、昨年も同じクラスだった花篭さんが居ったからだ。クラスの中心で、ニコニコと裏表のない笑みで誰とでも仲良くなる彼女がいるから孤独な子は誰も居なかった。

「あ、治くん、角名くん、おはよう」
「おはよ」
「はよ」

目が合えば誰にでもこうやって微笑みかけてくれる。高校男子はそうゆうの弱い。だから、女子に聞こえない声で「今日も花篭さん、かわええよなぁ〜」と鼻の下を伸ばして会話をしている。


性格も良くて、顔もいい。
前世で、どれだけの運が使い果たせば花篭ゆりが産まれてしまうのだろうか?昨年のミスコンでも上位だった…そして、今年こそは…なんて言われるまでの存在。俺としてはイメジよりもそっちの方が嫌で嫌で仕方ない。



部活が休みの日。
滅多に二人で過ごす事のできない時間を堪能するため、彼女を後ろから抱き寄せて脚の間に座らせた。

「どうしたの?」

いつもと変わらない声。彼女の肩に顎を乗せて顔を近づけたら甘い香り。

「…いやや」

彼女の肩に顔をスリスリと押し付けたら「っふふ、擽ったい」とかわええ声が聞こえた。だから、なんで繰り返し「嫌や」と言った。

「…ふふ、何が嫌か教えてほしいな?治くん」

押し付けている俺の頭を細くて小さな手が優しくて頭を撫でた。


「…俺んのや」
「ん?」
「ゆりは、俺のや」

そう言って肩の首筋をガブッと一齧りした。噛み砕くたい…欲を抑えて、優しくて噛んだ。

そう、俺の彼女はクラスから人気もので、イジメを無くす事も出来てしまうほど人望が厚くて、誰かからも好かれている。俺のゆりやのに…鼻の下を伸ばす奴が気に食わん。


「私は、治君が好きだよ?」
「知っとる」
「なら、どうしたの?」
「もっとギュッってしたいし、チューだってしたい」
「ふふ、今してませんか?」
「今だけやない!毎日したい」
「…それは、あかんやろ?」
「アカンくない!」


人気者の花篭ゆりと、人気者の宮治。もうベストカップルでええやん!なのに、ゆりは絶対学校内では距離を取る。付き合っている事を隠す。なんで、あかんの?ゆりは俺のやって言いたいのに!


「治くん、うちのスターやん?」
「どうでもええ」
「スターに彼女居ったら、きっと嫌がる子も絶対居るし、変な反感買いたないんよ?」


ターゲットに声かけた奴がいう台詞やないやろ…「俺が守ったる!」と言えば、ゆりはニコッと笑って「それが嫌やねん」と言った。

「私、治くんに守ってほしくて一緒に居るんやない。好きだから、一緒に居りたいの…」
「…はぁ〜ぁ、すき」
「うん、ありがとう、私も好き」
「んんー、もっとゆりと居りたい!!」

伝わってないやん、なんて、呆れたように笑うゆりもかわええ。んで、また小さい子があやすように頭を撫でられた。


「反感買わんでもええような子になりたいねん。治くんに守ってもらわんでええぐらい、ええ女になりたい!だから……待ってて、ほしい…あかん?」


今でさえ、十分すぎるほど、ええ子なのに、今度は俺のためにええ女になりたいという彼女に男は返す言葉なんて、一つだけやろ。


「……わかった」
「ありがとう」
「でも、俺そんなお利口やないからな?」
「え、」
「ずっと待ては、耐えれん」
「ふふ、今は待てやないから何してもええよ?」


クルッと姿勢を変えた彼女は俺の腕掴んで、チュッと触れるだけのキスをした。学校でお利口やった俺へのご褒美にしては、少なすぎやろ?

「足りん」

そう言って、噛み付くように彼女と唇を何度も重ねた。俺のゆりや、絶対に誰が何て言おうが、品のないような目でみようが、ゆりは俺んのや。
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