高校時代からの友人同士で隣合わせに家を建てた。偶然か必然か、産まれてくる子供の誕生日が一緒。産まれる病院が一緒。成長していき、幼稚園が一緒。小学校が一緒。中学校が一緒、ただ、唯一違うのが子供の性別。

「あーきーらーっ!朝!起きて」
「…煩い」

当然のように家に上がり込んで、俺の部屋に入ってきて布団を剥ぎ取り「寝すぎだからね?」と文句を言う幼馴染みのゆり。

「ねぇ、みて、制服!似合う?可愛い?」

そう言って俺の部屋で一回転するこの光景は何度目だから…春休み中も制服に袖を通してわざわざ見せに来た。だから、もうなにも言わなず、ゆっくりと腕を伸ばして立ち上がる。

「やっぱり、中学生って大人っぽいよね」

このセリフも何度も聞いた。少し大きめの制服に着替えるため部屋着を脱ぐと「背、伸びた?」と春休みの間、三日に一回はこのセリフを聞いた。着替え終わって、ウチで朝ごはんを一緒に食べて並んで歩く。たぶん、コレが当たり前すぎて俺は気づけなかった。


中学生になって一年が過ぎ、何故か周りが異性を意識し始める。誰かの胸がでかい、脚が綺麗だとか、ゆりも良く名前を挙げられているが何も思わない。どんな寝顔なんだろう?とか怒った顔を可愛いよな?とか付き合いてぇよなとか俺には分からない。
ゆりの寝顔は不細工だし、怒っても可愛くないし、アレと一緒に居たいと思う男がいる事には驚いたけど、その話している理想の花篭ゆりは理想でしかない。現実はみろよ、と俺は思った。


「国見くん、の事がすきなの…良かったら、付き合ってくれない?」

…だれ。
あー、確か三年の先輩か。金田一とかも可愛いとか言ってた人だったよな…「…俺、誰かと付き合った事とかないですけど、いいですか?」と答えるとキラキラと目を輝かせた。先輩でも、ゆりがプリンを食べてる時みたいな顔するんだなぁと思った。それから、俺と先輩が付き合い始めたと言う噂は広まった。

そして、まだ交際を良く分かっていないが、部活の休みの日に二人で出掛けたりして、何度目かの出かけた帰り「キスしよ?」と言われて、重なった唇。えへへ、またね!と口元を隠すようにして帰っていく先輩を俺はいつも通り、また、と言って家に帰ると、見覚えのある靴が一つ。
「ただいま」と言って自室へ上がった。部屋のドアを開けるといつものように俺のベッドの上で寝そべっている…と、思ったら今日は椅子に座って勝手に宿題を写していた。

「おかえりー」
「…ん、ってか、珍しいね、何で宿題?」
「あぁー、うん」

部屋着に着替えるため、ゆりに背中を向けて話していてもいつもと様子が違うのが直ぐにわかる。別に聞いた所で、大した事じゃない。だから、俺からは聞かないでいると「…す、好きな人ができた」とゆりは言った。「ふーん」それと勉強がどう繋がるか、全然理解出来ない。

「…だから、ねぇ、英の所来るの今日で最後にするね」
「あぁそう」
「朝も来ない、ご飯も家で食べる、学校も一人でいく…」
「うん。わかった」

着替え終わってベッドに寝転んで、椅子に座っているゆりの後ろ姿が視界に入った。どーせ、三日、もって、一週間だろうかなと思い携帯を取り出してゲームを始めると、ゆりは部屋を出ていた。
朝が静かでいいと三日が過ぎ、一週間がすぎ、一カ月が過ぎた。
ゆりにしては頑張った方だからそろそろ何に怒っているか聞きに行こうと、部活後、風呂を済ませてゆりの家へ行くと「あきらくん、ごめんね、ゆり寝ちゃったの」朝に行けば「ゆりならもう学校行ったよ」と会えず、それからまた一週間が過ぎた。朝と夜がだめなら、学校でと、ゆりのクラスへ向かった。「…ゆりいる?」と小学校からゆりと仲良くしている女子に聞くと直ぐ「ゆり〜〜」と叫んで呼び、一カ月ぶりにみたゆりが近づいてきた。

「なに?」
「国見くんが呼んでた」
「…あぁ、ありがとう」
「後で宿題みせてね」

はいはい、と笑うゆりを一カ月ぶりにみた。怒っている時は家族にも友達にも笑わないはずなのに…ゆりの友達が居なくなって「…怒ってないの?」と聞けば首を傾げた。

「…だれが、?」
「ゆりが」
「…怒ってないけど…?珍しいね、どうかしたの?国見くん」
「…は?」

なんだよ、その呼び方、気持ち悪い。と言う前に「花篭さん、ちょっといい?」とクラスの奴に呼ばれて「ごめんね、またね」とゆりは俺の前から消えた。

その気持ち悪い感覚だけが俺の中に残った。部活でも消えない。勉強でも消えない、彼女であった先輩が始めて「英」と呼ばれた…が消えない。それ以降、先輩へ態度も悪くなり、いつの間にか振られて、部活の雰囲気も最悪で、全部がうまく居なくなった時さらに俺の機嫌を最悪するモノを校内でみた。
部活の雰囲気を悪くする天才セッターと、俺の機嫌を悪くする天才な女が並んで歩いていた。は、と思った。

「あの二人、最近よく一緒にいるよな」

と金田一は言った。だから、何?と反面「…いいんじゃない?お似合いじゃん」と言った。「そうかな」なんて納得していない金田一。多分、これは金田一に言ったんじゃない、自分に言っている、言い聞かせている。

本当は朝も夜も、顔を見れなくなって一週間経った時には薄々感じてた。でも、認めたくなかった。だから一カ月後、「怒っている」を建前に顔を見に行くと「国見くん」と呼ばれて、最後の「好きな人ができた」の意味を知った。それは俺じゃない。そして、この時、俺の中で薄々感じていたものが確信した。

オレはゆりが好き。

年頃の男の部屋に勝手に入ってくるなよ、着替を始めても部屋にいるなよ、普通に隣でご飯を食べるなよ、もっと俺を意識しろよ。俺に彼女が出来れば、ゆりの態度が変わるかもしれない…なんて、思ってた。小さい頃ゆりの唇に触れた感覚が消えてねぇんだよ、ゆりの好きな人が俺であって欲しかった。

ゆりの中では、俺は幼馴染。
それで、終わりだ。
俺の中ではゆりは幼馴染で、俺の初恋で、これからも、好きな人。

もう、どうすることも出来ない。何もかもが遅すぎた。
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