小学生の頃、友達とバレーボールで遊んで家に帰ると知らない女の子がリビングにいた。小さなくて緊張しててかわいい女の子だと思った。

「徹、こちらお母さんの友達の娘ゆりちゃん。あんたの一つ下だから可愛がってあげてよ」

そう母に言われた。言われなくても女の子には優しくしてたけど、ゆりちゃんだけは特別可愛がった。親が共働きだったゆりちゃんを一番気にかけていたのは俺の母親。お母さんの仕事が終わるまでうちにおいで、と俺の母親に言われて、最初はよそよそしくしていたけれど、次第にウチを自分の家のように、俺の母親を親戚のように慕っていた。そして、俺の事を「徹兄」と呼んで慕ってくれていた。そんなの無条件に可愛がるでしょ?

でも、中学生になってからゆりは俺の事を「徹兄」と呼ばなくなった。そして、気づきたくなかった、でも、気づいてしまった。バレー部のマネージャーになってくれて、一緒にいる時間が増えて、見えなくていい物まで見えてしまった。


ゆりは、もう俺をお兄さんとしてみていない。

それが、どうしても悲しかった、寂しかった。俺にとってのゆりは変わらず妹だから、ゆりを異性としては見れない。
いつか、ゆりが「徹がすき」と告白してくるのではないかと怖かった。その告白を受けてしまったらきっと今までのように兄妹には戻れない。

ゆりの気持ちが無くなる努力をした。
彼女を作って、兄としてゆりに彼女との話をした。残酷だとわかっていた。けど、これしかできなかった。岩ちゃんにも「最低だな」と言われた。わかってる。それ以外、俺にはできなかった。

そんな、最低な俺にゆりはいつでも笑っていてくれた。王者に勝てない時も、下から迫ってくる天才にも、オーバーワークになった時も、ゆりは見てくれていた、知っていてくれた。
どんなに追い込まれても自分を見ていてくれる人がいる、知っていてくれる人がいるのは、心が和らいだ。


ゆりを異性としてみれない、けど、俺にはゆりの存在があってはならない存在。


だから、高校に上がってきた時ゆりの変化にすぐに気づいた。
中学の時のようまた、マネージャーとして側にいてくれた、チームメイトとして色々気づかってくれていた。たまに「とお、!…及川先輩」と呼び間違える事はあった。距離感も今まで通りだったのに、ゆりの中で何かが変わっていた。

その何かを知るのはゆりが高校二年生に進級してからだった。


二つ下にいた天才と呼ばれる後輩は、青葉城西には入ってこなかったが、天才と呼ばれていた後輩のチームメイトが進学してきた。入学前から部活の雰囲気を味わうために見学や一緒に練習をする事になった。天才と共にいただけあって、二人とも実力がある。

「国見ちゃんも、金田一もすごいじゃん!これから来年のスタメン入れちゃうんじゃない?」
「いえ!そんな事ないっす!まだまだなので」

そう素直に思った事を伝えると「…岩泉先輩は、今日いないんですか?」と国見ちゃんが言った。あぁ、そうだ。二人は岩ちゃんの後輩だった。

「今、ゆりと買い出し行ってくれているからその内戻ってくるよ」
「…そうなんですね」
「どうしたの?え、もしかして、国見ちゃんは岩ちゃんが好きなの??ラブなの??」
「違います」
「そうだよね、国見ちゃんは及川先輩ラブだもんね」
「……っ、はい」
「今の間は、なに?国見ちゃん?」

他愛のない会話をして、休憩をしている時に「今戻りました」とたった今噂をしていた二人が帰ってきた。ゆりと岩ちゃんの声が体育館に響くと、囮を積極的にしない、低燃費な国見ちゃんが声の元への駆け寄っていた。ねぇ、国見ちゃん、及川先輩がすきなんだよね?と岩ちゃんに負けた気がすると思っていると「国見、またか」と金田一が独り言のように零した。

「またってなに?金田一」
「え、あ、俺声に出てましたか?」
「うん、出てた。岩ちゃんと国見ちゃん何かあったの??」
「岩泉先輩じゃなくて、花篭先輩っす」
「……ゆり?」
「そうっす、国見、中学からずっと花篭先輩が好きなんです」
「…え?」

そう言った金田一の視線の先には、今買い出しから帰ってきたゆりに「お久しぶりです、ゆり先輩」と無表情な彼が嬉しそうに、ゆりが持っていた荷物を持ってあげていた。そして、ゆりは「…本当に青城にきたんだね」と頬を赤らめた。

「はい、ゆり先輩と約束したんで」
「…っ、本気なの?」
「はい、俺が冗談であんな約束すると思いますか?」
「…しない、と思う…?」
「これから楽しみですね、ゆり先輩」
「っっ!部活中は辞めて!」
「…ぇー、嫌です」
「私も嫌です!」

「お前ら、なんの話をしてんだ?」とゆりの後ろにいた岩ちゃんが話しかけたら「…あ、岩泉先輩、お久しぶりです。国見です」とゆりしか見えていなかった国見ちゃんがようやく岩ちゃんに挨拶をした。

ゆりが俺を異性としてみているのが寂しかったけど、ゆりが俺から離れてしまうのが恐いと思った。

ねぇ、ゆり、俺のことが好きだよね?
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