誰しもがきっと一度は憧れる、年上彼氏。
私が憧れを持ったの高校二年生の頃。
高校生には自転車か交通機関しか移動手段がないけど、車を持っていて、高校生よりも働く時間があるからお金を持っていて、普通の高校生カップルより鼻が高くなる。と学生の頃は優越感に浸っていた。

実際、自分が社会へ出て人並みのお給料を頂いてから、なんで、高校生なんとか付き合ってたの?と疑問に思ってしまった。

そんな気持ちを持ちながらも、浮気されて別れて、復縁してまた浮気されて別れて、と繰り返し付き合って多分そろそろ、五年目になる。
学生の頃は、サークルよりも彼氏!バイトの休みは彼氏!休講なら彼氏に会いたい!って程好きで、ずっと一緒に居たいと思っていた。

「ねぇ、最近あの彼氏とはどうなの?」
「あのって言い方やめて、私が他にも彼氏いるみたいじゃん」
「じゃあ、借金野郎とはどうなの?」

仕事が休みかたまたま重なって、二人でランチをしている時にオブラートという言葉を知らない友人は率直に聞いた。私が高校生よりもアルバイトで働く時間が増えた短大時代、つまり、まだ彼氏大好き〜って時に「あ、やべぇお金足りない」とコンビニでそう言った彼氏に「いくら?」と反射的に答えてしまったのが始まりだ。

「…まぁ、まぁ、かな?」
「まだ付き合ってるの?私なら絶対むり」

私が小銭ぐらい出すね!とそれならお金を出す頻度が上がり社会人になったら「悪い、ちょっとお金かしてくれない?」と札を渡す回数が増えた。総額いくらになったのだろう。渡す度に「早く結婚できるように頑張るな」なんて甘い言葉を言って身体を重ねている。結婚に期待しているけど、今は正直不安。

「いつまで、続くかな?」
「一生」
「……それはないでしょ?」
「根拠は?」
「…え、ほら、あの人なんだかんだで優しいから」

そう苦し紛いに答えた。でも、これは嘘じゃない。どちらかというと私は束縛してしまうタイプだったのにそれを許してくれていたし、突然雨が降った時も駅まで迎えに来てくれたり、私の好きなお菓子を見つけたら買ってきてくれてくれる。ほら、ちゃんと愛されてるでしょ?だから大丈夫とか思っているのに友人は、紅茶を飲みながら平然と「借金野郎以上に優しい人なんて、たくさんいるけど?」と言った。

「それに、借金野郎の優しいはゆりの機嫌とりだよね、可愛がってるからお金貸してくれるよね?みたいじゃん?」
「…ぅ、そんな事ないょ」
「だってそうじゃなかったら浮気しないでしょ?」

友人の言葉はいつも心に刺さる。ちなみにこう言われるのは初めてではない。もう何度も言われているのに、別れる事が出来ていない。そろそろ参っている。自然消滅を期待して連絡返さなければいいんじゃない?と言われた。

翌朝、いつも通り会社に出勤すると部署がいつもより少しだけ騒がしかった。

「おはようございます、何かありましたか?」

挨拶をして集まっている輪の中に入り込むと、中心には見たこともない、綺麗な顔の男性がいた。見た目からして若い、学生さんかな?と見ていると隣いた先輩が「春から入社が決まっている子なんだって」と言われた。そうか、もう夏も過ぎているから早い人は就活おわっているのか、と遠い昔の記憶に浸っていた。多分、正確には数年前の記憶。でも、この数年で色々ありすぎて、就活の記憶なんてほぼないから仕方ない。

朝礼が終わり、いつも通りパソコンに向き合っていると後ろから「すみません、花篭さん」と」呼ばれたので振り返ると真新しいスーツが眩しい。春に入社する国見くんが綺麗な顔をこちらに向けていた。

「はい!何かありましたか?」
「教えてくれる方が今席を外しているのでここだけ教えてもらってもいいですか?」
「あ、はい、ここは〜」

パソコンの画面を二人で覗き込むと自然と距離が近くなる。少しその距離に戸惑うけど、二週間も過ぎれば慣れてしまう。新しい人が配属されてきても仕事内容も彼氏との関係も未だ何も変わらず。

社会人なると学生よりも時間の過ぎていくのが早く感じて、学生くんが部署に来て一ヶ月が経った夕刻。退社時間になると徐々に社員が減り、やっと一区切りついたので私も退社しょうと立ち上がって窓を二度見してしまった。

「あ、雨?!」

たった、数十分でこんなに雨降る?そういえば、今朝、ニュースで夕方から激しい雨が降るって言ってた…完全に忘れていた。傘持ってないし彼氏は夜勤でもう出勤している。さすが、朝の星座ランキング最下位。ついてない。濡れて帰るしかないのか…と覚悟を決めて会社を出ようとした時「お疲れ様さまです」と退社時間になったら直ぐに部署を出て行った学生くんが傘を差して立っていた。

「お、お疲れ様!帰らなくて良かったの?」
「今から帰りますよ」

その時、星座ランキングも当たらない時もあるよね?とさっきまでついていないと思ってたいたけど、「ごめんね、国見くん。傘忘れちゃったから駅までいれてもらえないかな?」とお願いするとあっさり入れてもらえた。ちなみ、私も国見くんの立場だったら入れなきゃいけないという義務感に駆られる。だって、上司からの頼み断ると後がこわいじゃん。だから、今は濡れないために上司と言うほど上司じゃないけど、立場を利用した。ごめんねと心の中で謝っている時、駅ではなく反対方向に向かっていた。


「国見くん、駅、あっちだよ?」
「そうですね」
「…え?あ、国見くんの家この辺なの?」
「違います」

じゃあ、なんで、駅に向かってくれないの!と声をあげたい気持ちを押し殺していると会社の裏側にある社員用駐車場に辿り着き、一台の車がピコっと赤く光った。

「車通勤だったの?」
「はい、今後ろに荷物あるので嫌かもしれないですが、助手席に座ってください」
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
「はい」

彼氏以外の男性の車に乗るのは慣れていないので、少し緊張していると「家まで、送ります」と言われて「駅までいいよ」と返した。駅のが近くてこの緊張感から早く解放されたい。

「…電車止まってますよ」
「え?うそ!?」

カバンから携帯を取り出してみると激しい雨のためしばらく運転を見合わせします、と書かれていた。早く帰ってもする事ないから良いけど雨は一晩降る予定だから朝までまだ帰れないのはちょっと嫌だなぁ。明日はやっと休みで家でのんびりする予定だったんだから…「ご迷惑をおかけします」と言って携帯で家の住所を表示するとそれを見ながらナビに打ち込んでいく国見くんの横顔はいつも通り綺麗だった。
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