(社会人捏造設定)

「国見先生は彼女いるんですかぁ〜?」

誰だって一度はこうゆう時を迎える。俺だって、一度はそんな時期があった。高校二年の頃、教育実習生が大人っぽく、たまに、子供っぽくて歳上なのに可愛いと思った。誰にもバレないように付き合って で、後少しで堂々と外を歩けると思っていた高三、すれ違って別れた。その後は、まぁ適当に付き合って別れて、を繰り返して、あの時と逆の立場だから言える。

「授業中以外で喋りかけないで、煩いから」
「…は?何それ、冷たすぎ!」
「うざ」

歳上に憧れるのは悪い事じゃない。
だけど、お前らのいっ時の感情に俺を一生をくれてやるつもりはない。やっと教師として青葉城西へ来たというのに、お前ら高校生に壊れてたまるか。そう考えると、俺と付き合っていたあの時の教育実習生は教師になれているのだろうか…?と思った時「さすが、国見先生」と背後から感情が一ミリも篭っていない、嫌味たらしい声にイラッとした。すると、俺の周りに居た女子高生達が「ゆりちゃーん」と俺をイラっとさせた声の主は向かっていた。

「…花篭…先生」
「言いにくそう!あまり、生徒に暴言吐かないで下さいね、国見センセー」
「ゆりちゃんは、国見先生の知り合いなの〜?」
「んー知り合い…かな?それよりも、ゆりせ・ん・せ・い!」
「えー、ゆりちゃんは先生ってよりもゆりちゃんって感じがするもーん」
「どんな、感じなのよそれ!」
「ちっちゃくて可愛い!」

女子高生と変わらない背丈、あるいは、それよりも低くて、童顔である花篭は俺と同じように青葉城西卒業生で、今年からここへ新任してきた。俺の同期であり…まぁ、知り合い。

花篭は俺と違って誰でもコミュケーションをとって、その場を和ませるのが上手い。「ほら、午後の授業始まるよ〜」と生徒を追い返して、花篭は職員室へ足を進めた。そして、俺も次は授業がないので、花篭の後ろを追うように歩いた。
後ろから見ると花篭は本当に小ちゃい。俺と三十センチぐらい差はある…チビ。胸も大してデカくない。スタイルが良いのかというとチビの時点でスタイルが良いとは言わないでしょ?なんで、これが男女問わず好かれるかと言うと、やっぱり先生に見えないからなのか?わかんない。

「国見、全部聞こえてるからね?」
「…事実だから」
「私、これでも、モテるんだからね!」
「あ、そう」
「はぁ、本当他人に興味ないね」


全く無いわけではない、人並みにはある。
職員室の前で「あっ、幸くんだ」とニコニコと愛想いい笑顔ではなくて、心から嬉しいと言わんばりのそのだらしのない顔を見るとイラッとする。

「お、ゆり!ちゃんと先生出来たのか?」
「バッチリ〜」
「まぁ、ゆりは出来るだろうな、ゆりよりも、お前だよ!お前、国見!ちゃんと授業出来たのか?」
「…煩い…」
「おい、お前!元コーチと部員でも、今は上司!言葉を選べ」

この人に怒られると嫌でも高校時代を思い出す。拾えるボールだろうとか、走れとか、本当に溝口コーチは今も変わらず、口煩い。

「幸くん、今日車?」
「そうだけど、なんかあった?」
「ふふふ、送って」
「またかよ、まぁいいけど」


この二人は高校の時から付き合っている、と部内で何度も噂立っていたが「従兄妹だよ」と言って終わりだった。それを鵜呑みにした部員なんてごくわずか。どうせ、溝口コーチが女子高校生とか付き合っている事を隠したいとか言って、花篭が従兄妹と貫き続けた。

馬鹿馬鹿しい。

花篭が、ふにゃってダラシなく笑うのは溝口コーチだけで、送って、なんてわがまま言うのもコーチだけだって、俺は知っていた。俺らが高校を卒業した後の夏、溝口コーチは結婚した。在校生でもない、元主将でもない。ただのコーチと元部員に招待状なんて届くはずなく、噂で聞いた。溝口コーチは花篭という名の女性と入籍した、と。
まぁ、卒業前から薄っすらと気付いていた。花篭が部活以外でも「幸くん」と呼ぶ姿を何度も見た。そして、そのあと必ず「あと数ヶ月は我慢しろ」と言っていた。

俺はこの四月にさらに決定的な物を見つけた。

「それ、なんで、つけないの?」

職員室にある小さな給湯室でコーヒーを淹れて、パソコンで小テストを作っている花篭の首元を指して言うと一瞬、え、なに?と驚くも自分の手で首元を触ると先ほど見たあのだらしない顔をして、頷いた。

「付けない、これ大切な物だから肌身離さず身につけていたいからネックレスにした」
「本来の使い方でも、肌身離さず身につけると思うけど」
「だめ、それはできない」

花篭は、チェーンに通された指輪をギュッと握った。握られた指輪と同じようなものを俺はここへ新任していて何度もみた。さっきも職員室前でみた、溝口コーチの手にも同じ物があった。つまり、それは結婚指輪。結婚したのならつければいい、なのに、まだ隠している。多分、それが俺をイライラさせる原因だ。だから、生徒にも言葉がキツくなる。

「まだ、溝口コーチと仲いいんだね」

花篭の口から言わせたい。俺は知っているから早く認めろよ。溝口コーチからじゃなくて、お前の口から俺に聞かせてくれ。

「えへへ、幸くんのはずっと仲良しだよ」

そのだらしない顔を何度も見てきた。部活の練習必ず視界に入ってきた…。

「国見も、相変わらず幸くんに注意されてるね」

俺が注意される度「大丈夫?あれはコーチ怒り過ぎだよね」なんて、俺のそばに来て笑ってドリンクを渡す花篭はただの同級生で、部活のマネージャー。それ以上何もない。何もなかった。今では知り合いという名の関係。

「花篭は、相変わらず、溝口コーチ好きだね」
「うん、幸くんはずっとだいすき」

花篭の口で言わせたかった。花篭から聞きたかった。馬鹿だと思う。でも、やっと聞けた。花篭の口から聞けたのなら願ったり叶ったりで、やっと俺の中にあった枯れた根をゴッソリと掘り起こして新たな気持ちでスタートが出来る。と終止符が付けれた俺の心境なんて、知らない花篭はチェーンで繋がれている指輪に小指を通した。

「幸くんは、私のお義兄ちゃんだから」
「…は?いつまで、そうやって隠すの?結婚したんでしょ?」

俺の言葉に花篭は、目を見開いて、なんで知ってるの?とでも言いたい顔をしている。全部知ってんだよ。

「花篭、わかりやすずぎ。高校の時もマネしてても大体溝口コーチと隣でヘラヘラしてたし、溝口コーチのこと幸くんって呼ぶのお前だけだし、みんな知ってたよ。まぁ一番最初に気付いたのは、俺だけど。お前、溝口コーチと居る時だけで、好きすき〜ってオーラ出てムカついた。少しはこっちみろよって思った、けど、花篭が今幸せそうでよかったよ」
「…ちょっ!まって!」
「何?まだ、隠すの?」
「違う!幸くんとは、そうゆうんじゃない」
「は?俺は見たから、部活休みの日溝口コーチとデートしてだろ」
「してない!それは、私のお姉ちゃんだから!」
「……は?何、その言い訳」

花篭がやっと止まった、と言いながらスマホをいぢり、「これ見て」とタキシードを着た溝口コーチとその隣には少し大人びた花篭がウェデングドレスを着て、その隣にはパーティードレスを着た花篭が写っていた。思わず「は?」と画面に向けていた視線を、スマホを握っている持ち主へと視線を戻した。

「これでわかった?幸くんは、私のお姉ちゃんと結婚したの。お姉ちゃん達が付き合っていたのは私が中学生の頃がずっとなの」

花篭は姉妹で男の人に慣れていなかったからお姉ちゃんが幸くんと仲良くなれば少しは男の人への恐怖心が無くなるんじゃない?と進めてくれた事や、マネージャーも幸くんがコーチしているなら安心だねとお姉ちゃんからのお墨付きだった事などを話している花篭の顔がどんなのだったか覚えていない。

「…高校の時、誰とも…」
「ん?あ、付き合ってないよ!多分、国見がデートしたの見たのはお姉ちゃんだよ」

なんて、笑った後に、似てるでしょ?結構歳離れているのに、たまに双子?って言われるんだよねと続けた。枯れた根を掘り起こして、新たな苗を植えようしていたのに、枯れた根が突然、小さな葉が生えてきた。

「ってか、国見がずっと見てたなんて知らなかった」
「見てたよ、ずっと」
「心配してくれたの?ありがとう」
「ちがう、心配なんてしてない。早くコーチと別れろ、早くコーチへの気持ちがなくなれって思ってた」
「…国見って、本当に、酷いよね。それ私が本当に幸くんと、付き合っていたら最低すぎるからね?」
「最低でいい、俺はお前が好きだから、俺以外の前にだらしなくヘラヘラされたくないだけだから」
「…え?」

あぁ、ここからだ。俺はその小さな葉をこれから育てていく、そして必ず花を付ける。
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