思春期男子
俺は至って普通に育ってきた。
少し違うのは女性と接する機会が少なかったから一七になっても、女性とどうやって接したらいいかわからない。
ボーダーに所属していても、一七歳の男子高校生。学校で勉強して、友達とふざけてはしゃいで、女性との接し方以外は至って普通なんだ。
「あっ!辻ちゃーんっ!」
「っ!!」
「これ、今、本部行ったらたまたま二宮さんに会ってさぁ、防衛任務の否定変更したみたいだから伝えろって」
「…ぁ、りが、…っ!さっき、氷見からっ……」
「あっ聞いてた??そっか!そっか!」
玉狛支部所属なのに、なんで、朝本部へ用事があったのだろう…要件が終わったはずなのに、さっきよりもドンドン距離を詰めてくる宇佐美さんに俺はどうやって接したらいいのかわからないからとりあえず、一歩ずつ後ろに下がる。
こうゆう時、緊急脱出使えたらいいのに…今ここは、学校の廊下だから……どうしょう…とまた、一歩下がるとドンっと何かぶつかった。
「その辺に、しときなよ」
「あ、奈良坂くん、おはよう!」
「おはよう、辻を学校でもからかうなよ」
「いや、いつもなかなか学校じゃ話せなくてチャンスっ!と思ってね?」
「はぁ〜、はいはい、もう終わり。俺が辻に用事あるから」
「えー…まぁ、しょうがない!また、本部でねぇ」
手をヒラヒラと振って宇佐美さんは俺の前から姿を消した。奈良坂のおかげで緊急脱出状態から抜け出せた。「ありがとう」と伝えると奈良坂は呆れた顔もせずに「俺がいて良かったな」って少女漫画に出てくるヒーローかのようにキラキラに輝いてみえた。
「…奈良坂って王子様になれそう」
「お前、朝から何言ってんだ?」
「いや、本当、すごい」
何褒められるか全然わかんないけど、と言って制服のポケットから何かを取り出してはい、これ、と言って俺の掌に乗せた。
「あっ!えっ?いいの?!」
「え、何、ただのオマケでしょ?」
奈良坂が俺の掌に置いたのは、今、お茶についている限定フィギュア。しかも、シークレット。何軒か探してもなかなか見つからなかった。そろそろ、店頭に並ばなくなってしまう…シークレットだけが揃っていない…諦めなきゃいけないのかなって…考えていた頃だったから嬉しくて、いつも以上に声が出た。
「ありがとう、奈良坂!本当、ありがとう!」
掌に乗るレアフィギュアを落とさないようにギュッと握ってそう伝えると、それ、俺からじゃないよっと言った。
「…は?じゃあ、誰から?」
「花篭」
「っ!」
「花篭が、買ったやつについてて、辻くんに渡してくれない?って頼まれただけ」
「…そっ…そう…なん…だ……」
花篭ゆりさん。
同じ本部のボーダーに所属していて、A級の加古隊のアタッカーであり、同じ学校で…俺が初めて気になっている異性だ。
奈良坂と花篭さんは、同じクラスで同じA級でわりと仲がいい。少女漫画に出てくる王子様は凄いとまた、奈良坂に敬意を向けたら、「お前、また変な事考えているだろう」と言われた。
「まぁ、そんなにソレ欲しかったやつなら花篭に直接お礼でも言えばいいんじゃない?」
「っっ!!」
「まぁ、むりだよな?」
俺の気持ちを知っている奈良坂は俺から伝えておく寄っていって教室へ戻っていった。
出来ることなら自分で言いたい…!でも、花篭さんを前にすると、他の異性とは違った緊張で、全然話せない。どうやったら伝えられるか、その日、レアフィギュアを見つめながら考えた。
*
考えても考えても、いい答えは出ないまま、放課後。
本部で訓練があるので、本部の廊下を歩いている時向かい側から花篭さんが一人で歩いてくるのがみえた。
あ、あわ、こうゆう時に限って会っちゃうんだよね…まだ、何も決まってないのに…と、思考が慌ただしく揺れていても、顔には出さないで、歩いているとヴゥっヴゥっとボーダーから支給されている端末に一件のメッセージが届いた。
『オマケ、受け取ってくれて、ありがとう』
手元の端末から、視線を前に向けると花篭さんが、俺と同様に支給された端末を片手に、控えめ手をヒラヒラと震る姿にズキッとトリオン供給吸気管を刺された時のように一撃だ。
『こっちこそ、ありがとう…』と端末に打ち込んだ後、送信ボタンがなかなか押せなくて、足を止めた俺にまた、メッセージが追加された。
『もしかして、もう、持っている物だった?』
『持ってないよ、すごく嬉しい』
『良かった、お互い訓練頑張ろうね』
そのメッセージを受け取り開いた時には、花篭さんの止まっていた脚が動き出して、俺の横を通り過ぎようとした。「あっ…あの!」と震え声を絞り出すと花篭さんの足は止まった。
振り返って、ちゃんと自分の口から言う!絶対お礼は言わなきゃ…とガタガタと震えだす身体に「私、あっち向いてますね」と後ろから声がして、震えが止まり、ゆっくりと花篭さんの後姿が目に入った。
花篭さんは、いつもそうだ。
俺が異性と上手く話せない事を知っているから無理に会話をしない。目の前にいても、端末を使ってくれて、今だって俺が、顔を見たら震えだす事を分かっていて、背中を向けたまま止まってくれた。
花篭さんの優しさが好きだ。ちゃんと話せるようになりたい。でも、まず……小さくて、抱きしめたくなる背中へ向かって…
「ありがとう、凄い嬉しいかった。本当に、ありがとう」
そう伝えると、花篭さんはふふっと少し耳を赤く染めて笑みをこぼして「どういたしまして」と言って歩き始めた。
今、花篭さんはどんな顔をしていたんだろう。花篭さんの優しさは誰にでも平等なんだろうか?花篭さんの事をもっと、知りたい。もっと話したい。