おにぎり、宮。
「すまんな、ウチ未成年には酒提供出来んのや」
私は昔から可愛いねと言われて育ってきた。
そりゃ女の子が、可愛いねと言われて嫌な気はしない。寧ろ嬉しかった。中学も高校も、可愛い子はって言われたら三番目ぐらいに名前を挙げてもらえていた。それで、十分嬉しかった。
だから、中学生になって市バスの運転手さんに「小学生は料金要らんよ?」って言われたり、高校の通学途中「中学生なのに電車通学なんて、大変やね」って他校の男子に声かけられても、あまり気にしなかった。
周りがどんどん大人っぽくなって、綺麗だね、美人だねって言われるのに私だけはずっと可愛いねって言われ続けて気にしない…二十歳を超えても、実年齢より下に見られるたび、横で笑われるのは気に食わない。
「私、一応、この人とタメなんですけど…」
私の隣でビール四杯目を呑んでいる友人はゲラゲラとまだ笑っていた。
先日、三年ほどお付き合いをしていた彼氏に振られて慰めてあげようと友人の行きつけのお店“おにぎり宮“で食事をする約束をしていた。私が仕事で少し遅れると連絡すると先呑んでるからっと言った。
友人は、行きつけでも、私は初めて行くお店なんだから、待っててくれたっていいじゃん!なんて、口には出来ず、急いで仕事を終わらせて、お店に向かい、扉を開けるとカウンター席に座る友人のテーブルには空グラスが三つ並んでいた。「おそくなってごめんね」と隣に腰掛けてカウンター越しにいる店員さんへ「レモンサワーください」と言ったら冒頭の始まりである。
「あぁ、そうなん?すまん、未成年かと思ってしまったわ!レモンサワーな?まっててなぁ」
「お願いします」
初めて来るお店はだいたいそう。まぁこの店はまだいい方。「身分証明書ある?」なんて、信じてくれない人に堂々と保険証を見せつける事もある。
「で、振られた理由なんだっけ?」
「…っ…お前と居ると未成年に手を出した奴って周りに言われるから、だそうです」
「ぎゃっははは、最高ぉ〜!」
「全然、最高じゃないわ!最悪やわ!」
品のない笑いをする友人は、誰から見ても美人だ。スタイル良くて顔も綺麗で、たまに実年よりも上に見れる程の大人っぽさを持っている。
友人が、お腹を抱え込んで笑い出した時「レモンサワーお待ちぃ」と店員さんがキンキンに冷えたジョッキを私の前に出してくれた。
「なんや、お前今日、めっちゃ楽しそうやな」
「っ超〜っ、楽しいでぇっ?っはは〜」
「何があってん?」
「聞かんといてください」
「それがなぁ〜ゆりがなぁ〜〜っはは」
私の言葉なんてガン無視。飲み過ぎでしょ!?私を慰めてくれる日だったはずが、私の失恋話を初めてくる店員さんに打ち明ける日となった。
「ぅわぁ、そりゃ、最悪やなぁ」
「…あはは、そうなんですよ」
「んじゃ、店主の俺からサービスしたるわ!旨いもん食って忘れたらええ」
店員さんがお店の主人様だったようで…どこかの知らない人に私の失恋話をネタにされるじゃないかなっと一瞬頭ん中過ぎったが、サービスしてもらえるなら何でもいいよ!「本当ですか?なら、プリン食べたいです」と嬉しくて笑みを浮かべながら伝えたら「ないわ、そんなもん」と瞬殺された。
上げて落とす店なん?いや、最初に未成年っと言われたから下げてから上げて、下げるやな…うん。
「でも、まぁ仕方ない。失恋したアンタには特別に俺のおやつのプリンあげるわ」
「え!、いや、それは良いです!お店の物じゃないなら頂けないです」
「いつか、その失恋話を常連さんとのネタにさせてもらんやらから、ネタ提供料や」
「…じゃ…遠慮なく、いただき…ます」
「じゃあ、待っときぃ」
厨房の冷蔵庫からコンビニの白い袋に入ったままのプリンを取り出すゴソゴソする音が止まると次はかちゃかちゃっとプリンを食べる時には聞こえない音が響く事数秒
「お待ちどうさん」
「「っ!すご〜っ!なにこれ?かわええ」」
思わず友人と声が重なった。
目の前にはコンビニで売っているはずのプリンが、流行りのカフェや高級なお店から出てくるようなデザートに早変わり。フルーツもクリームいっぱいで色鮮やかで食べるのがもったいぐらい。
「凄いやろ?」とドヤ顔の店主さんに「すごい!めっちゃすごい!」と二人で褒め続けた。そんな褒められると思っていなかったのか、さっきまでのドヤ顔とは、一転、「はよ、食べ」と少しそっぽを向く店主さん。ええ人やなぁと二人で頂いた。
仕事の話、彼氏の話、他の友達の話、話が尽きなくて、私もお酒が程よく回ってきた頃、友人が「店長さんの知り合いに童顔好きいませんか?」と問いかけた。
「そんな、ピンポイントの性癖は知らん」
「えぇー、やっぱり、ゆり、今流行りの婚活へ行こう?」
「んー、あぁゆうのいややねん!はじめまして〜っ、私は〜みたいな見繕った挨拶せな、いかんやん?むり」
「そんなん、どこで出会ってもしないかんやん?」
「それが無い出会いがしたい」
「うわぁ〜わがままやなぁ〜顔だけじゃなくて、中身も幼いなぁ〜」
「幼くないわ!」
ダラダラと二人で、時々店長も一緒なって話していたらお店のお客さんも私たちだけになっていた。「そろそろ帰ろっか」と立ち上がると友人が「あかん、むり」と崩れて落ちた。
飲み過ぎたようで、友人の携帯を使い彼氏を呼び出して引き取ってもらった。あの子の彼氏は電話すれば、すぐ駆けつけてくれる程、愛されとる…最後に、失恋した私にラブラブアピールないでください、酔いが覚めました。
「お騒がせしました、ごちそうさまでした」
「なんや、アンタは平気なん?」
「学生の頃、居酒屋でバイトしてた時、お酒に慣らされたんで、全然平気です!ご心配ありがとうございます」
「…ふ〜ん、そうか」
「…?はい、それでは失礼します」
鞄を持って、忘れ物がないことを確認して、お店の扉に手を掛けた時「なぁ」と店長の声が聞こえ振り返った。
「あんた、失恋したんやろ?」
「え、?えぇ、はい」
「俺が、男と出会える場所、紹介したるわ!」
「いや、でも…」
「面倒な挨拶もいらん。そのままでええねん!どう?」
「え、どうって言われても…」
「明日、土曜日の午後四時にまたウチに来てや!」
「…いきなり、すぎませんか?」
「ぎょうさん会えるで?来るときは、ズボンでスニーカーで、な?んじゃ、また明日な?」
ガラガラって扉を開けて、私の背中を押して、すぐに閉めた。いや、拒否権は?…え、来なきゃダメ?なんなの一体。冷めきった酔いの状態でも、この状況を理解できない。
困った事に明日は、仕事が休みで、一日暇だ。来れない理由がない。来ないといけない理由もないけど、家で一日一人でいると彼氏のこと思い出して嫌になりそうだなぁ…はぁ〜仕方ない。プリンを貰ったお礼に行こう
翌日、夕方。
店長に言われた通り、白いスキニーと大きめのシャツをゆったりと着て、黒いスニーカーで再び、おにぎり宮に訪れた。入り口には、昨日は無かった札に【本日、借り切り営業】と書かれていた。…店長忙しいのに、私来て良かったんかな?と扉を開けようと瞬間、ガラガラと扉が開いた。
「遅いわ!」
「え、四時って…まだ、四時なってないですよ?」
「四時言われたら二十分前に来な、いかんやろ?さっさっと中入りぃ」
腕を掴まれて引き釣りこまれた店内は昨日と変わらない。まだ、お客さんは誰も来ていない。「あ、あの!忙しいようなので、私帰ります!」と伝えたら「何言っとん?はい、多分これでいけるやろ?後、コレな!」とビニールに入った新品である黒い衣服を押し付けられた。
「え?」
「奥で着替えてきて、カーテンしかないけど、覗く奴なんておらんから」
「え、いや、あの、待ってください」
「何?」
「わ、私、今日なんで呼ばれたんですか?」
男紹介してくれるんだよね?え?なんで着替えるの?え、借り切り営業って忙しいよね?私忙しいなら帰りますよ?忙しい時に紹介してもらわなくていいです!また後日で…いや、むしろ…今はもう…なんて、グルグル考えているのに、店長の答えは私の思考を遥かに超えていた。
「なんでって、そりゃ、臨時バイトやろ?」
「は?」
「バイトの子が風邪引いたって昨日言っとて、もし今日治ったとしても、病み上がりの子をこんな忙しいに働かせれんし、困っとんよ〜、助かるわ〜」
「待って!私、聞いてないです!」
「は?昨日言ったで?ぎょうさん、男と会える場所って」
何言っとん?みたいな顔で私を見てくる店長に、私が言いたいわ!まぁ貸し切り営業だからそりゃ店長の知り合いが沢山来るでしょね?その中から選べよって事ですか?初めてまして〜みたいな、甘ったるいめんどくさい始まりも必要ないのは、お客と従業員だからね?
「詐欺じゃん!!」
「騙してへん」
「嘘つき!」
「嘘ついてへん」
「何で、私なの!」
「居酒屋経験者やから。そん事ええで早よ着替えて来て」
いや、良くないし!もうこっちは騙された感いっぱいだよってブツブツ文句を言いながら奥の更衣室で着替えて店内に戻ったら「おぉ、なかなか似合っとんな」とヘアゴムを差し出された。せっかく髪の毛ゆる巻きにしたのに!!と店長をひと睨みしつつ、一つに結った。
「何ができる?」
「ドリンク作るのと生樽変えるぐらい?作り方が分かれば一品とか?」
と学生の頃働いていた居酒屋でやっていた事を伝えたら「っふ、やる気やん?」と鼻で笑われた。そっちが聞いたやん!
「私、今日、男紹介でここで働くんだよね?」
「おぅ、頼むわ」
「店長と金銭のやり取りないよね?私の職場そうゆうの許してくれないから」
「そうなん?まぁ無しなら無しでこっちは有り難いわ。なら、ええ男見つけて帰りぃ?」
気分展開にはちょうどいいか、なんて、もう店長への反論も諦めた。本日限定で、おにぎり宮でバイトをします。