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王族は王族らしく、堂々と美しく。
貴族はその王族様方の目を汚さないように綺麗でなければならない。と教わったことがある。
この習わしが幼い頃嫌々でたまらなかった。
貴族であっても、王族であっても、下民であっても、人は人に変わりがない。人は人の温もりと優しさを持ち助け合って生きている。だから、私は貴族の家に生まれ育っても“貴族“の振る舞い方を教わる時間から避けてるように家を飛び出した。逃げ出す際はいつも同じ貴族で、名家のヴォード家に逃げ込んだ。
ヴォード家の主人は、私の事を快く受け入れてくれて私に隠れ場所を与えてくれた。名家であり、ヴォード家は貴族の振る舞い方をとても熱心に取り組んでいる家柄だったため、なぜ私を受けいれてくださったのかこの頃はまだ何も知らなかった。
「イユ、また来たのか」
ヴォード家の中庭を歩いている私に声をかけたのは、ヴォード家の次男ランギルス・ヴォード。
「えへへ、ちょっと気分転換ですよ」
「二日に一回も必要なのか」
「うっ…っ!」
「ソルレアン家の娘がそれでいいのか」
「いいんだよ!だって、私、貴族とか王族とか気にしなくないもん。ねぇ、ランギルスはこれからまたお勉強するの?」
「あぁ、僕はこの家を守るためならなんでもする」
私よりも少しだけ年上なのに、ヴォード家の次男なのにこの家を守るための努力を怠わられないランギルスは逃げている私にはとっても輝いてみえた。
「ランギルスは偉いね」
心からそう思う。会うたびに心からこの言葉をランギルスに伝えると決まって、ランギルスは私から目を逸らして「…べ、別に当たり前の事だ」と言う。次男という時点で、当主の座を取るには計り知れない努力が必要なのに、それと戦うランギルスは私の憧れであり、魅力的な男性だ。
ランギルスが私の前から居なくてなってしまうとまた、一人綺麗な中庭でただ時間を過ぎるのを待っているだけ…早く(“貴族“の振る舞い方を学ぶ)時間が過ぎてほしい…と、願うようにベンチに腰を下ろした。
すると、目の前に突如現れた空間から片足と共に顔を見せて「あ、イユちゃん、またここに居たんだね」と微笑んだのはヴォード家の長男、フィンラル・ヴォード。
「……また、逃げ出すんですか?」
「ちょっ、と、それはイユちゃん誤解だよ!ただ、散歩するんだけだよ」
「それを世では逃げると言うんですよ」
「それじゃ、イユちゃんも逃げている事になっちゃうよ?」
「私はソルレアン家から逃げてますよ」
「え、堂々とそれ、言っちゃう?」
フィンラルは、ランギルスとは違う。長男に生まれてしまったから次期、当主であるために幼い頃が叩き込まれてきた重圧に押しつぶられないように自分自身を維持している。どこか、私と似ていてランギルスと交わす会話よりも緊張しない。他愛のない言葉でフィンラルは人を優しく包み、逃げてしまった罪悪感を忘れさせてくれた。そして、決まって最後には「まぁ、俺なんかよりも…」と零した。
「イユちゃん、そろそろ帰る時間だよね?送っていこうか?」
「私の家、来たことないでしょ?」
「街までなら一緒にどう?」
「結構です」
「はぁ〜イユちゃんはお堅いなあ」
「お堅いとかじゃなくて、それで女の子と遊べると思っているフィンラルがおかしいの!」
「えー、この前これで女の子と遊べたけどな〜」
と、顎に手を当てて「おかしいなあ」って考えているフィンラルを置いてヴォード家を後にした。側から見たらきっと、時間を無駄にしていると思われてしまうこの時は私にとって、有意義な時間だった。そんな、有意義な時間は突如、壊れてしまった。その原因は他でもない、我がソルレアン家だった。
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