一年生GW


その場で話すのでなく、駅前の公園のベンチに座り、ゆっくりと出身中学から、中学時代の小渓さんがどんな感じだったとか、全部話してくれた。それでも、俺の中では“それだけ“で恐いと思うのか少し違和感があった。「ねぇ、きいてもいい?」と話し終えた小渓さんに聞くとまた、頷いた。

及川は天才セッターだ。スパイカーの最高打点で最高なトスを上げれる。人をよく見ていないとそれはできないし、その人を最大限引き出せるのはその人を理解していないとできない。そんな及川が同じ部員でマネージャーしていた彼女の気持ちを見抜かないわけがない。

「セッターは全員及川みたいじゃないよ、人間で同じなんてありえない。わかるよね?」
「…ぅん」
「じゃあ、どうしてセッターとして一括りにしてるの?何かほかに理由があるの?」


問い詰めるつもりはなかった。
でも、俺にはなぜか彼女の中に他にある気がして止まらなく出てきた言葉に自分でも驚いたのに、彼女は悲しげに微笑んで「…あるよ」と続けた。

「あの間が怖かった半分、もし、あの時及川に向き合ってもらえたら少しは自分が他人に流されず、自分の意思で考えれるようになるのかな、って思っちゃったの…」
「…最高のセッター…の才能…?」
「そう、スパイカーそろぞれに好みのトスをあげれるほど人を見ている及川さんなら、あの時の私に見合った道を示してくれる気がした…」
「…及川を、利用して自分を変えようとした、てこと?」

と聞くと大きな瞳は夕日でほんのり潤んで見えた。「白布くんは容赦ないなぁ」なんて、また悲しげに笑って、空を見上げた、その横顔が酷く俺の目に焼き付いた。

「及川さんを利用しようとした自分が最低で、怖かった。セッターに関わらなければ及川さんを思い出す事もない、そう思って、恐いって逃げてるの、最低でしょ?」

次は授業遅れちゃうよ?と友人を呼びかける時のような笑顔に俺は、魅入ってしまった。「…ねぇ、及川のこと好きなの?」と聞くと「好きって分かんない」とまた笑った。

俺は所謂一目惚れをした。
小渓るりのことを今まで何も知らなかったけど、今彼女のことを少しだけ知れて、好きになったのがこの子でよかったと思った。
自分の為に何かを利用する人なんて、この世の中沢山いるのに自分が大罪を犯してしまったように重く受け止めている…心が綺麗だと純粋で真っ直ぐな人だなぁと思った。
その反面、俺は及川が憎くてたまらない。好きでもないのに多分彼女の中で及川の存在はなかなか消えない。

「…俺は、小渓さんが好きだよ」

思ってた言葉をポロリと零れ落ちた。後悔はしていない。俺の言葉に驚いてる声ならず動揺しているそんな姿も可愛い。

「嘘じゃないから、太一と仲良くしている見ると俺も仲良くなりたいと思う。二、三年のマネージャーが小渓さんで、羨ましいと思う、あと、テーピング巻いてもらえて…っ!」
「恥ずかしいから辞めてくださいっ!!」

俺が言い終わる前に重ねて大きな声で言う彼女は耳まで赤く染めて潤んだ瞳で俺を見つめて「…っ、もう、充分、伝わりました…だから、、」と俺を止めようとするけど「辞めないよ?」と遮った。


「俺、元彼でもないし好きでもなかった、及川が小渓さんの中にいるのが嫌だ。でも、今は?まだセッターが恐い?」

首を横に振って小さな声で「…白布くんが、恐い」と言った。それだけで、嬉しかった。彼女の中に俺がいる。「これからは、もっと攻めて行くから覚悟しててね」と真っ暗になる前に彼女を駅まで送り届けた。