一年生ツユ



連休合宿が終わり、そろそろ一週間が経とうしている。

合宿最終日、課題を部屋のどこに置いてあるからだけ伝えた後小渓さんを送っていた。その時の話を俺は聞きたい。だから、賢二郎が帰って来るまでに全部終わらせたいと思っていたのに、寮に帰る前に天童さんに捕まって全然終わっていない時に、部屋のドアがガチゃっと開き「おかえり、どうだった?」と聞けば「早く課題終わらせろよ。俺は風呂入って寝る」といつも通りな感じだったけど、俺は見逃さねぇぞ。

「耳、赤」

平然を装ったって、バレるんだ。早く教えてくれ。「…うるせぇな、早く課題やれ。やらないなら返せ」と片付けようとするので、ここはひとまず課題を終わらせよう。終わった頃にはもう賢二郎は寝ていた。よし、明日にしょう。

月曜日
「昨日の話聞かせろよ」と朝一で賢二郎に聞くと、「あーぁ、言いづれんだけど…」と前置きをして来るので、俺は早く早くと前のめりになっている時、賢二郎のニヤリと笑った。

「昨日、課題一つだけ伝え忘れた」
「…は?」
「明日までに終わらせたらいいみたいだから良かったな」
「は?」
「ご飯食べて朝練いくぞ」

確信犯じゃね?俺はこの日終わっていない課題を移すのに必死で聞くことが出来なかった。


火曜日。
課題を時間までギリギリに終わらせたのに、俺が日直の日に限って席替えで、新しい座席表を日直の俺が作る事になった。最悪。いや、席は最悪ではない。廊下側の後ろの席だしいい席。賢二郎は窓側の前から三番目で、その前に小渓さん。
合宿の時、初めて話せて赤面してたのに今じゃ、ナチュラルにいちゃついているように見るのは何でかな?

水曜日。
今日は、課題もなし日直でもない。今日こそは聞いてやる。タイミングが重要だよな…牛島さんに褒められた後に聞いてみると「…っ練習してくる」と褒められた事が嬉しくて、話すら聞いてくんねぇ。じゃ、次はお昼!お昼なら一緒に食べているからわりと話せるだろうと思ったら、ミーティング。

木曜日。
もう賢二郎から言い出すのは諦めよう。
「小渓さん、さっきの授業のノート見せてくれない?」席が離れていてもこれなら話かけれる。

「また寝ちゃってたの?はい、どうぞ」
「ありがとう」

そのまま「最近、賢二郎と仲いいよな、なにかあったの?」とさりげなく聞くはずが、「太一」と後ろの席に座ってここ数日俺の質問にまとめに答えてくれない賢二郎に呼ばれて「なに、話す気になった?」という気持ちで視線を賢二郎に向けた。

「小渓さん一文抜けてるから、俺の貸すよ」
「「え?(は?)」」
「どこが抜けてた?」
「ココ」
「あ、ほんとだ。写させて?」
「どうぞ」

いや、二人の世界に行くのやめてもらっていいかな?小渓さんも一文抜けている事を後ろの席にいる賢二郎が気づいているというその状況を疑って!ふつうにおかしいよ。

そんな感じで、今日まで聞き出せていない。
どのタイミングで聞けばいい…朝練では聞けなかったしやっぱり学校内に居る間がいいけど、なかなか聞けねぇ。食堂で昼飯を食って「…なぁ、そろそろ教えて」といっても目の前のご飯を姿勢良く食べて無言で「静かに食え」と言っているようだ…でも、そんな賢二郎が目を見開き、箸をダンっと音を立てておき「…悪ぃ、ちょっと」と言って、まだ食べ終わっていないのに席を立った。
食堂の入り口あたりで見覚えのある背中に、賢二郎は近寄っていた。見覚えのある背中が賢二郎に気づき振り返ると…やっぱり瀬見さん。と瀬見さんに隠れて見えなかった小渓さんがいるのが分かった。何やら話して、瀬見さんが居なくなったら小渓さんと少し話して、賢二郎が戻ってきた。

「何かあったの?」
「…瀬見さんってずるいよな」

会話にならない。
賢二郎は嬉しいことがある時、主に、牛島さんに褒めされた時や、嫌なことがあると打ち明けるまでに時間がかかり会話にならない事がある。多分今は後者。瀬見さんは同じポジションってだけでライバル視している所も強いからきっと小渓さんに対しても同じ。

「そうだなぁ」

会話にならない時は賢二郎が話す言葉に相槌をして聞き流すのがいい。

「俺、告白したのに余裕ねぇな」
「うんう…は?」
「はぁ〜」
「いや、待て、賢二郎!話を聞け」

今日は聞き流すだけじゃ済まないので、食堂であっても聞き出そうとすると「お前、元気だな」って無関係です、と言わんばかりの顔で俺を見てくれる賢二郎に「早く、答えろ」と言い返した。