一年生 春


桜が満開になり、春の日差しが暖かい…よりも暑いと感じてしまう温暖化は加速すると共に俺の高なる気持ちも加速していく。
やっとだ、やっと、あの人と同じ体育館で練習ができる。中学の頃、見たあのスパイクを忘れられない。俺は、絶対に牛島さんトスを上げる。それだけを考えて一般入試で白鳥沢へ入学した。バレーボールはもちろんだけど、成績を落として練習する時間を削らない様に授業中寝ることなんて絶対にしない。

「川西!次の問いを答えろ」

こうやって、先生に目をつけられる事もない。あいつ、馬鹿だなぁと赤の他人のフリをした。あれが同じ部活で、同じ寮で生活している奴だと思いたくない。

「…ッ…あ、……」
「早くしろ」

寝ていて何も聞いてないから答えようがないだろうな…席が離れている俺に助けを求める事はしないだろう。素直に寝ていました、と言えばあいつは、放課後プリントをやる羽目になるだろう…つまり、練習時間が減る。寝ていたあいつが悪いから自業自得だけどなと考えていたら「…!二兎を追うものは一兎をも得ず…?ですッ」とその場をしのいだ。

「お前、寝てたのによく答えたな」
「まじで、焦った!ってか、賢二郎、俺が寝ていたのわかったら叩き起こしてよ」
「物理的に無理だろ」
「携帯鳴らすとか!」
「授業中携帯触っているのバレたら俺が練習時間減る」

「裏切り者ー」なんて俺が悪者みたいに扱いをしている太一に「自業自得」と返した途端、太一がいきなり振り返って後ろの席に座っている女子生徒に「さっきはありがとうな!まじ助かった」と声をかけた。

「いえいえ、お役に立てて良かった」
「あの、もしこれから寝ている事があったらまた今日みたいに助けてほしい」

となんとも図うずうずお願いを女子生徒にしていたので思わず「おい、お前反省しろよ」と零すと、女子生徒の視線が太一から俺へ向けられた。丸々としていて、今日の春の空のように綺麗な瞳と目が合い一瞬何も音が聞こえなくなった。そして、その女子生徒はニッコリと微笑んだ。

「叩き起こすのは出来ないから、さっきみたいに助け船は出せるようにしておくね」
「おー、本当ありがとう!」

甘やかさなくていいと言わないといけない…でも、俺は今がこの場で口を動かすと違う言葉がこぼれてしまいそうで何も言えなかった。そして、タイミング良くチャイムがなり、次の授業が始まるので俺は太一の席から離れてた一番後ろの自分の席に座り、視線だけ今自分がいた場所へ向けた。まだ、太一と話している女子生徒の横顔を見つけて「…可愛い」と誰にも聞こえない声で零した。

俺はこの感覚を知っている。
他の音が全て消えてしまって、ある一点だけが輝いて見えるこの感覚を味わったことがある。俺は、惚れやすい男なのか?牛島さんの時に感じたように名前も覚えていないクラスメイトに俺は、一目惚れした。