一年生 春


恋を落ちたらすぐに行動…なんて、俺には出来ない。慎重に計画的に、そして紳士な振る舞いでありたいと思うけど「顔、こわっ」と最近良く太一に言われる回数が増えた。

「そんなに小渓がいいわけ?普通じゃない?」
「普通じゃない、可愛い」
「…賢二郎が素直だとさらに怖い」

なんて太一と会話をしながら見ているのはクラスメイトの小渓るり。

あの日、俺の様子がおかしかった事に気付い太一は寮の部屋に戻った途端「賢二郎ってあぁゆう子がタイプなの?」なんていきなり話出した。遅かれ早かれ太一にはバレる。だから、その場で「…タイプは分かんねぇ、けど、あの子がすっげぇ可愛いと思った」と答えた。名前を教えてもらったり今後どうするのかと話し合った。

「賢二郎がグズグズしているからー!」
「…うっせぇ、仕方ねぇだろう」
「だから、顔怖いって」

俺が小渓さんに声をかける前に、小渓さんはクラスメイトに声をかけられて席を外していた。しかも、そこには女子だけでなく男も数人いた。俺はあの日、目があった以外目もあっていないし声をかける事すら出来てねぇのに、今普通に小渓さんと喋っているクラスメイトが羨ましい。そして、一番羨ましいのは、今、俺の目の前で必死にノートを移している太一だ。

「また、借りたの?」
「おう、古典の先生板書汚くて読めねぇもん…賢二郎も借りる?」
「俺はお前と違ってちゃんと書いたから必要ない」
「それだよ、それ!」

と声を張る太一に「は?」と返せば「口実!口実を作るんだよ」と良いアイデアだろと言わんばかりの顔で俺みるので、ため息をついた。

「なんで、ため息?良い考えじゃん!」
「どこがだよ、そんなカッコ悪いこと出来るかよ」
「…喋りかけれないで羨ましがって睨んでいる方がよっぽどカッコ悪いと思いマース」
「うるせぇ」

異性へのコミュケーションが取れなくても、憧れの牛島さんには「今のトスどうでしたか?」「自主練して行ってもいいですか?」と何も考えずとも言葉が出てくる。
俺は牛島さんのスパイクをもっと見たい、俺のトスでスパイクを撃つ牛島さんがみたい。早くレギュラーになりたい。もっと練習がしたい。もっともっと練習がしたい。

「GW期間、一年は基礎体力をつける為に特別メニューをこなしてもらう。二、三年は練習試合を組んであるので、ひたすら練習試合をする」
「「はいっ!」」
「えーと、二つに分かれてしまうので、水分補給とか怪我などは各自でしっかりとするように!」
「「はいっ!」」
「では、解散っ」
「「お疲れ様でしたああ」」

監督とコーチが体育館を出た後、「はい、じゃあ今日は自主練なしで片付け」と言われてコートにモップ掛けをしていると「魔のGW始まっちゃうね、今年は何人消えちゃうかな?」なんて、声が聞こえた。そして隣にいた太一がすかさず「どういう意味ッすか?」と天童さんに問いかけた。

「ひゃあ!聞こえちゃったあ?まぁ、君たちは心配ないけど、多分三人、いや、五人は辞めるね」
「…そんなに、練習量多いんですか?」
「んーヤぁ、すっごいから楽しみにしてなよ!あ、そういえば若利くんも特別メニューこなしてたよね?」
「あぁ、推薦だろうと一年は一年だからな」
「どうだった?キツかった?」
「キツくはない。あそこで辞めてしまうのならそこまでだ」

牛島さんのその一言で、俺のやる気は満たされた。今すぐにでも特別メニューをくださいと言いたい程だ。これがエース。牛島さんにトスを上げられるのなら俺はどんなメニューでもやりきりたいそう思った。