一年生はる



突然、板書が見やすくなった。
先ほどまで大きな背中に遮られていたはずなのに、突然無くなり見やすかった…寝落ちしてしまった前の席の男子は先生に呼ばれた。
答えに行き詰まっていたので、良かれて小さな声で答えると男子生徒はなんとか説教を回避できた。

その休み時間、前の席の男子生徒の所へ友人が来て二人で話していた。聞こえてくる限り二人は同じ部活のようだけど、何部は分からない。話を突然フラれた時は驚いたけど、それよりも「反省しろよ」って男子生徒の友人の言葉に驚いた。
まだ、入学して間もない。なのにその距離感が驚き友人に目を向けてしまった。友人こと、白布くんが自分の席へ戻っても前の席の男子川西くんはまだ体を横に向けたまま、私に話しかけてくれた。

「なぁ、小渓って頭いいの?」
「良くは無いと思う。だから分からない時もあるからあまり当てにしないでね」
「俺よりは頭も良さそうだけどなぁ」

と言いながら目線は、私の机の上で、「…ノートみる?」と先ほど寝てしまった授業のノートを渡しと「まじ、助かる」と受け取った。

「俺、部活の推薦で入学しているから成績落とせなくってさあ」
「部活何やってるの?」
「バレーボール」

その言葉にビクッと肩を竦めた。「…へぇ〜、そつなんだ」と平然を装って答えた後、川西くんは勘付いたように見えた。でも、タイミング良く次の授業が始まり川西くんは姿勢を戻して前を向いた。よかったぁ、と安心。


「るりは、部活きめた?」
「たぶん、入らないと思う」
「そうなの?まぁ、うちの学校の部活は何処もすごいレベルだもんね」
「そうなの、ただ寮生活には憧れる」

白鳥沢学園は、部活に所属している人がだいたい入寮して、部活時間を増やしている。「楽しいよ!るりも一緒だったらもっと楽しかったのになぁー」なんて、友人は言ってくれた。
居心地いい。白鳥沢は部活のレベルだけでなく、学力のレベルも高い故、一般入試で入れるのはほんの一握り。その中に入れて本当に良かった。
中学時代の友人は【好きなものを共用する】ではなく、【好きなものを強制する】環境だったので今、目の前にいる二人の友人は、私の意見を尊重してくれるから、凄い嬉しい。

「あ、部活入ってなくても入寮できる方法が一つあるよ」
「なに、何?」
「生徒会に入る」

その言葉に驚き固まってしまうと近くにいた他の男子生徒が「小渓さん、生徒会はいるの?」「すげぇじゃん!」なんて会話に加わったので、男子生徒の言葉を否定した。

「そんな簡単に入れる所じゃないよ」
「まぁ簡単には入れないよな」
「あぁゆうのは大体投票だもんね」
「そうそう!それに私みたいな何も取り柄のない人間が突然生徒会なんて入れないよう」
「じゃあ!売り込めばいいじゃん!」

と目を輝かせ言う友人に「売り込む?」と聞き返した。

「そう!うちの学校はレベルの高い部活が多い。レベルが高いってことはつまり練習量も凄い。ならそのサポートして小渓るりを売り込もうよ」
「おぉ、それいいじゃん!」
「まって、まって!それってヤオチョウじゃないの?」
「違うでしょ?あれは投票してね、って意味で何かを受け渡すけど、売り込みは小渓るりを知ってもらうのが目的!」
「投票してもらえるかは別だから、意味ないかもしれないけど少しだけ知ってもらえるよ!なんて、感じ」

クラスメイトの意見に「それなら、良いのかも」なんて少しだけ揺らいでしまった。生徒会の仕事が何かも分かっていないのに、不順な動機でいいのかな。「でも、私なら寮生活しなくていいならバイトしたい」と既に部活所属して寮にも入っている子が言った。

「それ、わかる!バイトしてぇ」
「高校生は何かとお金かかるもんねぇ!」
「ここってバイトして良かったの?」

と、私の質問に返ってきたのは友人の数と同じだけのため息だった。あ、なるほど。「…あ、ごめん、なさい」と謝ると「るりは何も悪くないじゃん!」なんて、笑って返してくれた。そして、「るりもやりたい事見つかるといいね」と友人は言ってくれた。