一年生はる



「これ、可愛くない?」
「すごい可愛い!どこの?」
「…ホントだ、カワイイね」

中学時代、好きなモノを合わせていないと「ねぇ、なんかノリ悪くない?」「嫌なら一緒に居ないでよ」なんて言われて孤独になるのが怖くて無理に周りに合わせてきた。でも、合わせていくのに疲れてしまった。ただ、それを当時の友人達に言える程、私は強くなった。
好きなモノを自分で見つけて、好きと言えるようになりたい。そう思って中学時代の友人には誰一人にも相談しないで白鳥沢を受けた。


いざ、スタートしたをしてみたがすぐには見つけられない。ゆっくり時間のペースで見つけたいと考えていて、白鳥沢に入って出来た友人も私の考えを汲んでくれていた。

「小渓、この後ちょっと職員室にきてくれ」
「…わかりました」

授業後のホームルームでそう担任に言われて、思い当たる節が何もない。「何かやったの?」なんて、川西くんに問われても「何もしてないと思うけど、何かしたのかな?」と私が知りたい。

「俺に聞かれても知らないよ」
「…そうだよね」
「まぁ頑張ってね!じゃあね」
「あ、うん。川西くんも部活がんばってね」

と、彼に手を振って見送ると友人も私の所へ心配してくれた。「一緒にいこうか?」なんて言ってくれる優しい友人に恵まれて、その気持ちだけで不安が消されてしまう。

「ありがとう、でも、二人とも部活遅れちゃうよ」
「そうだけど…るりが心配!」
「先輩たちには、ホームルームが長引きましたって言えばなんとかなるよ!」
「大丈夫!だいじょぶ!その気持ちだけで充分だから、心配してくれてありがとう。部活頑張ってきてっ」
「「るり〜〜っ!!」」

と、抱きついてくれた二人とともに教室を出て階段を降りて、二人は昇降口へ。私は職員室へと分かれた。「夜連絡してね!」なんて最後の最後まで心配してくれた。
そして、初めての白鳥沢学園の職員室へ「失礼します」と小さく言葉にして、足を振り入れた。するとすぐに担任が私に気づき「小渓!こっちだ!」と先生のいる席へ足を進め、担任の先生の所へたどり着くと「急に呼び出して、悪いな」と言われた。早く本題を知りたいと思い私は「いえ、私に用ってなんですか?」と問いかけた。

「小渓おまえ、いま部活入ってないよな?」
「はい」
「何かやりたい事があるから部活に入ってないのか?」
「いえ、やりたい事がないので部活に入ってないです」
「それなら、良かった」
「…?」

この会話で、全く何も情報を得れなかった。なのに担任だけがどこか安心していた。「…あの〜、話が全然読めないんですが…」と私の問いかけたとほぼ同時に担任の先生の視線は私から、逸れて、向かいに座っている別の先生へ「もし、良かったらどうですか?」と言った。すると、向かいに座っていた白髪の小柄な先生と目があった。

「別に必要ないと言っただろう」
「でも、先日コーチの方々も臨時で誰か入れた方がいいとおっしゃっていたじゃないですか」
「素人には無理だ」
「経験者なんですよ!これでも!」

呼び出されて、除け者にされて、終いに“これ“扱い…帰ってもいいですか…?と誰もが思ってしまうこの状況全く理解出来ない。すると、白髪の先生が「出身は?」と私に向けて聞くので「…北川第一です」と答えるとさっきまで眉間によっていた皺が一本、減った。そして、やっと担任も私と目を合わせてくれて状況を教えてくれた。

「こちら、男子バレーボール部の監督鷲匠鍛治さんです」
「…はじめまして、一年の小渓です」
「ん」
「で、今男子バレーボール部のマネージャーをしている三年生が家庭の事情で連休中帰省する事になってしまった」

先程までの会話、今の担任の言葉で何が言いたいのか分かってしまった。

「小渓の出身中学は、一応全国行けそうなほどの強豪だったから、マネージャーやってくれねぇ?連休中二つの体育館に分かれて別メニューで部員達も大変だからさ、もう連休予定ある?」
「…ありません」

予定はないけど、私が北川第一の男子バレーボール部のマネージャーをやっていたのは友人達からの誘いを断れてなくて、やっていただけで、ちゃんとやってなかった。引退する前に退部届けを友達と一緒に出してしまった…その程度の私が出来る事なんて…と考えていると鷲匠監督は「そいつの言う事を聞くことはない。御前さんがやりたいことをやりなさい」と言った。あぁ、やっぱり白鳥沢へ来て良かった。誰も強制しない、だからかな?それが嬉しくてつい、「私で良ければお手伝いさせてください」と言ってしまった。

「小渓ならそう言ってくれると思った!」
「臨時で良ければの話ですが、大丈夫でしょうか?」
「構わん」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」

そして、鷲匠さんから男子バレーボール部の練習メニューを二枚渡された。一枚目は県内にある複数の大学との練習試合表と、もう一枚は…見ただけでやる気を失いそうな練習メニューだった。