一年生GW



暑い。
まだ、四月の終わり。体育館は蒸される様な暑さでその中で百本サーブを何セットやったのかも数を数える事すら出来ない。これが魔のGWか。さすが、強豪。この振い落としの様なメニューをこなして生き残って絶対にトスを上げたい。でも、まずは…水分補給をさせてくれ。

「あぁ、やべぇ、これが後、九日続くのかよ」


蒸される暑さから解放されるため数分の休憩だけ外の風に当たりにきたら、太一が仰向けになってそう言ったので「寝るな、汚ねえぞ」と返した。
今年のGWは振り返りなどが重ねって世間では大型連休と呼ばれている。

「メニュー見た時からヤベェとは思ってたけど、実際やってみると想像以上に疲れる」
「…まだ、半日が終わっただけだもんな」
「試合してぇ」
「それは同意」

基礎あってこそだとは分かっている。でも、基礎ばっかりじゃやる気も出ねぇよ。二、三年になったら一日試合が出来るのか…早くそっちへ行きてぇなって考えていると「なぁ」とさっきの疲れきった声とは違い、静かで真剣な話でも始めるのかという空気になったのに「俺、幻覚が見えるのになったかも」と言ったので、呆れた。

「…休みたいなら休めば、俺はそろそろ戻るぞ」
「いや、まじで」
「はいはい、じゃあそうコーチに言っておくよ」

そう、立ち上がろうとした時「うわぁ〜やっぱり倒れる」と何度も思い出せるかのように聞いた覚えた声が後ろから聞こえて、俺までおかしくなったのかと思い振り返るとそこには、小渓さんがいつも綺麗に揺れている長い髪を控えめに左右に結って、学校指定の体操服を着ていた。

「お疲れ様っ!川西くん大丈夫?貧血?」

と仰向けに寝そべっている太一の横にしゃがみ込んで顔色を伺っていた。「いや、なんでいるの?」と驚いている太一はそう聞いた。俺も聞きたい。なんでいる?と、でも、未だに一度も喋った事がない俺には言えるはずがない。

「あ、受け答えできるから大丈夫だね」
「いや、何してるの?」

もう、一度太一が聞くと「…臨時マネージャーになりました」と言った後に、えへへっと照れ隠しのように付け足した。思わず「は?」と言いたくなった。羨ましい。臨時でもマネージャーなら自然と話せる機会がある。羨ましい。「へぇーなんか、意外。どこのマネージャー?」と太一は聞いた。知りたいけど、羨ましくて連休明けから俺はその部の奴らを毛嫌いそうだ。

「…?男子バレーボール部だよ…?」
「「は??」」
「え、そんなに意外?」
「いや、だって午前中居なかったじゃん!」
「あっ、私が居るのは基本アッチみたい」

と彼女が指差したのは二、三年が一日ひたすら練習時間をしている体育館だった。よりによって、二、三年の方。まぁ振い落としにはマネージャー付けねぇよな。先輩を毛嫌いは出来ねぇ…けど…「るりちゃ〜ん!」と彼女が指差した体育館から一人先輩が出てきた。

「うわぁ〜、一年倒れてんなぁ、大丈夫か?」
「…うっス!」
「太一、戻るぞ。失礼します」
「おぅ、がんばれよ」
「川西くん、白布くん、頑張ってね!」

小渓さんと先輩から逃げるように一年生の使う体育館へ向かった。後ろから「賢二郎、耳赤っ」と言われて振り返る事なく「うるせぇ」と返した。
連休前、小渓さんが担任に呼び出された時、太一は「なんかしたの?」と聞いていた。もう小渓さんと太一が会話をしているのは見慣れた…ただその日は授業後だったので「部活頑張ってね」と言われている太一が酷く憎かった。でも、実際に言われるとどうしたらいいか分からない。せったく、体温を下げに外へ来たのに、休憩前よりも体温が上がってしまった。