一年生gw


家から学校まで電車で三十分もかからない。だからと言っていつも通りとはいかない。
朝起きて、いつもように髪を整えている時…邪魔になるかなと思った。いつもは結ばずにいるけど、短いながらの中学時代のマネージャー記憶は熱かった。一つで結う?…いや、それはさすがに気合入れずじゃないかな?…と、思い、耳より下で大人しめに左右に結うことにした。

練習開始時間よりも一時間前に集まって準備をするのが一年生だけど、今日は別々だから準備もきっと別。私に手伝える準備…モップとか雑巾とかなら…と考え、向かうともう二年生が練習試合の準備を始めていた。

「遅くなりました。本日より、臨時マネージャーをさせて頂く小渓るりです。経験は浅いですがよろしくお願いします」

そう言って、体育館に入るとさっきまで準備の音でガヤガヤとしていた体育館がシーンっと凍りついたように静まった。恐い…どうしょう、この空気…「早くねぇ?」とネットを準備していた赤い髪の先輩が声をあげた。

「おい、天童!早めにきてくれたんだからそんな言い方すんな!」

また別の先輩がそう言って私の元へ来てくれて「ごめんな、えーっと…るりちゃんだっけ?」と呼ばれた時ビクッとした。でも「…はい!よろしくお願いします」と頭を下げた。

「あぁ、いいよ!そんなかしこまらないで、俺は瀬見、であっちのネットの準備しているのが天童。まだ他にもいるけど、まずはよろしくな」
「…よろしくお願いします。何からお手伝いしたらいいですか?」
「えーっと、じゃあ〜」

それから午前中はずっと練習試合をして終わった。多分午後も、と言うよりもこの連休中ずっと…大学生チーム同士の試合になった時、得点やモップがけを選手達で行うので、その間に飲み終わっているボトルなどを洗ったり、次の飲み物を用意し終わった時、今使っていた水道に見慣れた後ろ姿が見えたので声をかけると、二人とも驚いていた。私、そんなに意外なのかな…まぁ意外かも。友達に合わせてじゃなくての初めて踏み出した、一歩。


「小渓、少しまっててくれるか?」
「…あの、本当に送って頂かなくても帰れます」
「いや、でも、この時間に一人は…」

一日目の練習試合が終わり片付けが終わると日はすっかりと身を潜めて、月明かりが綺麗な夜になっていた。コーチが、私を駅まででも送ろうとしてくれたが、明日の練習試合の先から連絡が入ってしまったって、成人男性…三十路男性をあたふたさせてしまっているこの状態を抜け出す方法を…「あれー?コーチと二人で何やってんの?」と私とコーチの間からを疑っているような声色であいだに入ってくれた。

「…!天童!」

とコーチの期待の眼差しをみて「…アレ?もしかして、最悪なタイミング?」と私に聞くので苦笑いをみせた。私にとっては最高なタイミング。ただ、天童先輩がこの後言われる言葉は一つ。

「おまえ、今から暇だよな?」
「え、これから瑛太くん達とご飯食べるんですけど、それってヒマですか?」
「暇だな!」
「…いや、むりだからね!おれ!もう動けないからね!」
「じゃ小渓明日もよろしくな!お疲れ」

そう言い去ってしまって残された私は、ゆっくりと天童先輩に視線を向けて「…あの、送って頂かなくて大丈夫ですので、ご飯へ行ってください」と伝えると、私をみてため息をついた。

「いや、食べれないでしょ、もしも何かあったら俺のせいになるじゃん…あ!そうだ!瑛太くん達も道連れにしょう!すぐだからそこでまってて」

と天童先輩まで走り去って行った。
…帰ろう。元から一人で帰る予定だったので気にしない。多分、天童先輩は道連れにする先輩を呼びに行ったら別の事に気を取られて戻ってこないと可能性もある。なら、帰る選択は間違っていない。

一人で夜の白鳥沢学園内を歩くのが初めてで、少しウキウキしていた。ホラーが特別好きなわけでもない。見慣れない景色に目を奪われてしまっていると「るりちゃーん!」と呼ばれて、振り返ると先ほどの赤い髪とその隣にはもう一人の先輩が走って来てくれた。

「もう、まってって言ったヨネー!」
「あ、いえ、その…」
「オレが呼びに行って他ごとに気を取られて戻ってこないタイプに見える?」
「……はぃ。すみません」
「素直かよ!まぁいいや、駅までで良いんだよね?」
「瀬見先輩までご迷惑をおかけしてすみません」
「いいよー!いいよ、こっちだって今日は色々助けてもらったからこれぐらいはさせてよ」
「……ありがとうございます」

天童先輩と瀬見先輩と並んで駅まで送ってもらった。翌日からもコーチが何か言うでもなく「じゃあ、行こうっか」と突然のように送ってくれた。