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「…もしかして、俺、告白でもされる?」
決意を決めて、呼び出した場所へ来てくれた瞬間、彼は普段ほとんど顔色変えずいるのに、今の彼が何を思っているのかわかってしまった。彼の言われた言葉に繋がる言葉が何も出てこなかった。
春。稲荷崎高校へ入学した。
中学の頃、仲のいい友達と一緒に入学できて、さらに嬉しい事に友達は同じクラスで、席は私の斜め後ろと、なんともいいスタートだった。
休み時間、授業中のちょっとした瞬間にも、身体を横に向けたら友人と話をしたり、笑ったり出来る。私の後ろの席、友達の隣の男子生徒は煩い、喋るな等、怒る事も無く、顔色一つ変えずジーッと見ているだけだった。
「あ、ゆり宿題見て!」
「忘れたの?」
「昨日、ドラマ見とってて寝ちゃった」
「次からは、宿題やってから見ようね」
はい、と、ノートを友達に差し出すと後ろから「俺にも見せて」と初めて聞く声に友達と目を見開いた。友達が「角名くんって、喋れるや」と失礼な事を言うけど、私も同じ事考えていた。
「喋る必要が無かったから喋ってなかっただけ」
「私たちの事、煩いって思わなかった…?」
「騒がしくても、静かでもどっちでもいい」
「つまり、興味がないって事やな、なら、安心だね!これからも話そうね〜ゆり〜っ」
「…授業中は、煩い」
「どっちでもええんちゃうの?」
「まぁまぁ、角名くんの迷惑ならんように気をつけよう?ごめんね?」
これを機に、私たちの会話に角名くんが加わる事が増えた。班分け学習で、同じ班になったりと挨拶を毎日交わすようになった頃、席替えで友達とは教室の端と端へ離れた。「先生、これ、わざとやろ?」とくじ引きに文句をつける友達。でも、「お前、授業中、先生より花篭ばっかりと話してて、先生寂しかったからうれしいわ〜」と運は先生の味方をしていた。
新しい席は、一番後ろの窓側。一番前の廊下にいる友達とは授業中話せないけど、でも、まぁいい席かなって思った。
「あ、隣。よろしく」
と、隣から声が聞こえて、目を向けると切れ長の目でニコりとも微笑まず、ジーッとどこを見ているかわからない角名くんが座っていた。
「よろしく」
「うん、」
「……」
「……」
いざ二人になると、話題がない。
気まずい。
隣の席になったなら気まずさをいち早く抜け出したくて、角名くんと普通に話せれるような事はないか…と日々少しずつ、角名くんへ歩み寄った。
「あ、角名くん、おはよ」
「…うん」
「朝練大変そうやね?」
「うん、まぁ、大変」
「宿題、大丈夫?」
「…」
「どれが終わってない?」
「古典、数学、英語」
「全部だね」
ほぼ毎日同じ会話の繰り返し。でも、そのおかげで「はい」とお昼休み、自分の席から離れた場所で友達と話している時に角名くんが、私の前に紙パックのミルクティーを差し出した。
「えーっと、くれるの?」
「いらないの?」
「あ、いや、急すぎて…」
「なんで?」
いや、こっちがなんで??と混乱していると「いつも宿題見せてくれるからお礼」と伸ばせずにいた私の手にソッと置いて、自分の席へ戻って行った。
「えー、ウチにはないのー?」
「無い」
「ひどっ!」
「一緒に飲もう?」
「ん〜ゆり〜すき」
紙パックにストローを刺して、「はい、どうぞ」と友達と一緒に飲み、休み時間中に飲み終えた。席に戻って「ありがとう」と伝えると「うん」とだけの 返ってきた。
隣の席になって、数週間、初めはうんっと終わってしまう会話が気まずかったけど、今はうんっとだけでも気まずくない。文化祭の買い出しを二人で行ったりと少しはクラスメイトらしく慣れたかな。
三度目の席替えで、友達が隣の席なった。次は、運が私達の味方をした。そして、私の前にある大きな背中が、ゆっくりと振り返り「黒板見える?」と問いかけてくれた。
「大丈夫だよ、ありがとう、角名くん」
これもまた、運が味方をしてくれたようで、角名くんとは最初とは逆転の位置になった。
そして、年間行事も終盤で、残すは球技大会のみ。私は保健委員なので、種目に参加は出来ないので応援に徹底していると、「テーピング巻いてくれない?」角名くんが突然、現れた。これが私の中で角名くんを好きだと自覚する出来事の始まりだった。
運が沢山味方してくれたら、この一年なら…と淡い期待を持っていたけど、彼の一言で打砕けた。
彼の中では、私はクラスメイトの女子。そこから抜ける事さえ、許されない。運を使い果たした結果…告白は出来なかった。でも、私の気持ちは知られた。
「…あっ…朝、テーピング巻いたの直さなくて…だ、大丈夫かな…?っ…て……」
「あ、そっか…自分でやるからいい」
「……そっか。時間取らせて、ごめんね?…ありがとう」
「うん」
「…部活、頑張ってね」
運に任せた私が悪い。泣くな…絶対に泣くな…無理にでも笑え。ぎこちなくてもいい、泣くな。必死に角名くんが目の前から消えなくなるまで……彼の姿が見えなかったと同時にその場に崩れ堕ちた。