夢では味わえない美味


昼休みになって五分経った。
そんだけで、食堂には人が大量に居った。「俺買ってくるから適当に座ってて」と角名に言われて空いていた席に座った。
その時、少し離れた場所からやったー!嬉しい!など聴こえてきた。何がや?と弁当箱の蓋を開けながら視線を向けると声をあげた奴の手には、今朝俺がもらって食えんかった菓子が見えた。見んかったら良かった。

「おぉー、居った!居った!」と今朝の記憶を鮮明に蘇らせる声を無視して、飯を食い始めた。

「おい、サム!無視すんなや!……今朝はすまんかった…これしか売ってなかってん」

そう言って、ツムは机の上にでかいメロンパンと、小さいシュークリームが何個か入っているモノを差し出した。「許したらいいんじゃない?」と学食買ってきた角名も、今はツムの味方か。


「…次は、無いかなな」
「おう!」

そのままツムと同じテーブルで飯を食い始めた。

遠くもないし近くもないゆりの席をもう一度見ると、斎藤が、ゆりの紙袋を取り上げとった。ゆりは、必死に取り返そうとピョンピョン飛び跳ねては、斎藤の胸板に触れとった。着地を失敗したゆりを斎藤が支えとるの見て思わずイラっときた。

さっきまで俺と居ったのに……まぁ、夢ン中だけどな。

「腹減ったあ〜」
「…今、弁当食べたよね?」
「足らんねん」
「お前、最近良お食うよなぁ〜成長期か?」
「あー、そうなんかなー?」

ツムに貰ったシュークリームの袋を開けて、二つ口ん中に放り込んだ。今日の午後練習には朝練で出来なかった事しょうやぁ〜や、次の練習試合の対策を始めた頃「治くん」と呼ばれた。

「話している最中にごめんね」とゆりが俺の前に現れた。さっきまで向こうに居ったやん、とゆりが座ってたテーブルに視線を送ると、ゆりの座っていた椅子に斎藤が座っとった。んで、ゆりが食べとったであろうとカレーを斎藤が食った。

「何?」

別にゆりにイラつく必要ないけど、ゆりに対して冷たい言葉やったと思う。

「コレ、今朝渡したやつ、まだ余ってるんだけど貰ってくれんかなって思ったんだけど…」

今朝貰って、食えんかった物だから喉から手が出るほど欲しい!嬉しくて表情筋が緩々してくるんのをグッと我慢して「…なんで、俺なん?」斎藤でええやろ。ゆりは、こんな捻くれた俺にふわっと微笑んで言った。

「治くんなら美味しく食べてくれそうだから」
「…なんや、それ」
「ダメかな?」

首を傾げて聞かれてダメ!なんて言えるやつおらんやろう。「仕方ないでもらったるわ」と手を出すと「うわー、うれしいーありがとうー」と心のこもってへん言葉になんか違和感……横目でチラッと隣を見ると角名と目があった。滅多に、表情を変えない角名が口角を上げて「よかったね」と言われて全て察した。お前が頼んだか?

「…俺、かっこ悪いやん」
「治くんはかっこいいよ?っふふ」
「笑っとんやん」
「かわええなぁと思って…っふふ、今度は食べられんようにしてね?」
「…おぅ、ありがとう」

んじゃって、踵を返そうとするゆりを見て、あぁ会話終わってしまうなぁ…また、斎藤ン所行ってしまうなぁ…行かせたくないと思った。「…コレ、食う?」とツムに貰った小さいシュークリームを一つ掴んでゆりに聞いたら、ゆりの周りに華が飛び上がっているかのように目を輝かせて「…いいの?」と確認してきた。

なんや、その顔。あかん、笑いそう。ちびっ子達と変わらんほど無邪気な笑みを浮かべているゆりに「ええよ」とゆりの口元へ近づけた。


「ぇえっ?自分で食べれるよ?」
「卵焼き時、自分だってこうしたやろ?」
「するのと、されるのは違うじゃん!」
「文句言うなら、やらんぞ」
「あぁ!まって、ほしいです!」


どんだけ、ほしいねん。「っん、ぁ〜」と小さい口の中にシュークリームを入れた時、ゆりの唇に一瞬指が触れた。あぁ、夢やない。夢だったら分からんかった体温と感触。…ええなぁ。そんな俺の気持ちなんて知らんゆりは、シュークリームを食べて満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。シュークリームだけで、喜ばれてもなぁ。


「…好きなん?」
「ウン、大好き」
「…っ…そうか」
「うん!じゃあ、またね」

今度こそ、斎藤の元へ戻ってしまうけど、もうええわ。なんで、俺の心臓さっきからドキッとドキッ言っとんねん?今の大好きはシュークリームや。俺が自分の聞きたやろ?いや、おかしいねん。きゅんって何なってんね?あぁ、やばい。


「サム、お前、相手がゆりちゃんじゃなかったら大騒ぎなっとったぞ!!」


俺はまだ、自分中で整理出来てないのに、ツムが声をあげた。正直、お前らが居るって事すら忘れとったわ。って、何?ゆりじゃなかったら大騒ぎってどうゆう事やねん。


「なんで?」
「お前みたいに本能のまま生きとった奴がいきなり、彼女作り出したら、そりゃあ、みんなビックリするねん!でも、ゆりちゃんならそんな心配せんけどな」
「なんで?」
「そりゃ、ゆりちゃんには斎藤おるからやろ」
「なんで?」
「斎藤良お言っとんで、ゆりは俺のモノやからって」
「なんで?」
「っ!お前さっきから、なんで?なんで?しか言っとらんやんけ!!壊れたおもちゃか!はよ、ネジ付け直せ!!」


確かに俺は、腹減ったら食う。眠ったら寝る。ヤリたくなったらヤる。誰かを特別と想った事はないなぁ。だから、ツムの言っとる事は正しい。正しいねんけど、ゆりのは間違ってへんか?

この前、ゆりは、斎藤と付き合ってへんって言っとた。向こうの片思いかって聞いたらそれないって否定しとった。だから、ツムの言っとる事は間違っとる…そう、思いたかった。

けど、次の日、俺とゆりに浮いた話が上がる事はなかった。それだけやない。俺はその日、一度もゆりと話せなかったし目も合わせれんかった。

それもこれも、全部、斎藤のせいや。



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