無料でおにぎりは付いた
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「今日、お前最悪やったなぁ〜」

隣でゲラゲラ笑うツムを殴る事も反論する事も出来なかった。「珍しいよね」なんて角名にまで心配されとる自分が情けない。

本当に最悪や。


朝練終わりのおにぎり忘れて、数学と古典の宿題忘れて、体育ボーッとしとったら顔面にサッカーボール当たるし、箸入れてくんの忘れるし、北さんに「部活中に考えとる?ちゃんと集中出来んのなら帰りぃ」と言われるし…ゆりとも喋れんかったし…

「明日の練習で、挽回せぇよ」
「…わかっとるわ!」


駅まで歩いてとる時にムキになって声がデカなってしまった。そんな、でかい俺の声を聞いたか知らんけど前の方に居たちびっ子連れてのお母さんが振り返った。うるさかったんやろうな…すみませんと、頭を下げとる「…治くん?」とその女性に呼ばれた。

ツム、角名はは?と言いながら俺を見とる。そりゃビビるよな。誰ってなるよな?俺も名前呼ばれるまで誰か分からんかった。


「「おーーさーーむーー」」

ちびっ子が元気よく俺に飛びついてきたのをみて、ツムと角名は開いた口がふさがらない状態でちょっと笑いそうになった。

「部活帰り?お疲れさまやな〜」
「はい。買い出しですか?俺持ちますよ」
「ええよ!ええよ!そんな、寄り道ばっかりさせるわけにはいかんから!」


デカイ買い物鞄を二つ持ちながら笑ってそう言った。ちびっ子居るのに大変じゃないんかなぁ…なんて、考えとったら、女性が俺にだけ聞こえるように耳元で「なぁ、ゆりなんかあったか知らん?」と眉を下げて聞いてきた。


「…どうかしたんですか」
「今日バイト前少し元気なかったんよ」
「俺、今日喋ってないんで分からないです」
「そっか、変なこと聞いてごめんな?」


じゃあ、気をつけて帰りぃとちびっ子二人と女性に手を振られたんで、控えめに手を振ったらツムに首絞められた。

「誰や!今の!」
「…知り合い?」
「そんな、わかっとるわ!どうゆう知り合いや!って聞いたんや!あほ!」


めんどくさ。誰でもええやん!そんな事よりは俺はゆりが元気ない方が気になっとんねん!少しは黙れよお前。多分これ説明しな明日の練習中もずっと聞いてきてもっとめんどくさくなるやろうなぁ…。あ、そうや。と「よーちゃん!」とツムに首絞められながら女性を呼ぶと子供と一緒に振り返った。


「どうしたぁ?」
「明日、朝、ゆり居る?」
「明日もおるよ」
「朝行きます」
「おぅ、待っとるわ〜」

また手を振って女性達は家へ歩き始めてた。俺も止まった足を駅に進めると「おい!」とツムがまた首絞めてきよった。

「何?」
「何?じゃないは、ボケ!説明しろ言っとんやろ!」
「したじゃん」
「どこがや!」
「お前、めんどくさい」
「何がや!アホ!」

そのままツムが駅までの道ずっと煩かった。家帰ったら帰ったら「俺も明日ゆりちゃんのバイト連れてけ」とうっさい。めんどくさいから「ウンウン」と聞き流した。けど、連れて行くか、あほ。練習前に寄るんやらから、練習時間ギリギリまで寝てるお前には無理や。



翌朝、ツムはいつも通り良お寝とった。



カランっカランっとゆりのバイト先の入り口を開けた。前は営業時間外でも入り口を開けただけでグワっと珈琲の香りがしとったが今日はこの前と比にならんぐらい香りが充満しとる。

「いっらっしゃいま…っ治くん!?」

オーナーと一緒の黒いエプロンにいつも下ろしている髪の毛を結っとって学校の時は違うゆりが俺に驚いて動きが止まった。


「どうしたん?部活は?」
「今日、九時から練習やねん。まだ時間あったから、一人でもええか?」
「もちろん!どこでも座っていいよ」


店内はおじいちゃんやおばあちゃんばっかりのイメージしとったら案外スーツ着た女性や、パソコン広げて仕事しとる男性とか、色んな人が居た。「ゆりちゃんの彼氏?」なんて聞くおばあちゃんに「違う違う!友達」と返すやりとりを見て、やっぱり俺この喫茶店が好きだと思った。


「おまたせしました。何にしますか?」

ゆりがお水とおしぼりを持ってきて、接客を始めた。

「治くん、珈琲飲める?」
「飲めるは飲める…」
「けど、好きではない?って感じだね」
「ん、珈琲以外でのおススメは?」



持っていたペンを顎に当てて悩み出し「んー、私はオレンジジュースが好きかな?」と紅茶とか言ってくるかと思ったら予想を超えた答えで、フッと笑うのを堪えて「じゃあ、それで」と頼むとペンを進めて、また止まった。

「モーニングどうする?」
「…モーニング?」
「うん、飲み物頼むと無料で、トーストかおにぎり選べるんだけど、どっちがいい?」
「っ!すご!」
「それがこの店の売りやねん」
「おにぎりで!」
「はぁーい…部活前に食べて大丈夫?」
「一個ぐらいなら平気や」


またペンを動かして、まっててねぇとゆりが厨房へ入って行く姿を眺めた。オーナーにオーダー通してまたどっかゆりが消えて、出てきて、お客さんきたらゆりが接客しての繰り返し見とるだけやのになんか頬が緩んでいんが自分でも良お分かる。

「おまたせしました〜!オレンジジュースとモーニングのおにぎりです」
「おぅ、ありがとう。漬物もあるやなぁ」
「うん!よーちゃんが作ったやつ」
「ほぉ〜ウンマっ!」
「でしょでしょ?」



やっぱりこの店にいるゆりは、テンションがいつもより高い気がする。「あ、俺昨日、よーちゃんに会ったでぇ」と言えば「どこで?」なんて会話が弾む。そんで、俺はよーちゃんが気にしとった事をゆりに聞いてみた。


「なんで、昨日元気なかったん?」
「っ!……気づいてたん?」
「いや、よーちゃんが言っとた」

あぁーと納得したゆりは、さっき高かったテンションがガクッと落ちて、ゆっくり静かに続けた。

「……昨日、直がずっと付きまとってきてたんだぁ」
「知っとる」
「アレで疲れちゃったんだ」


声がどんどん小さくなっていくゆりはどこか寂しそうに見えた。「…嫌いなん?」と俺が聞くと、ゆっくり首を横に振って「分からん」と答えた声が震えとった。ここで、このまま「好きなん?」と聞けたらよかった…でも、俺はその言葉が出て来んかった。

「あ、そう言えば、明日練習試合するやろ?相手強いの?」
「…おぅ!俺らの方が強いわ」
「わぁ〜かっこええ〜」
「思ってへんやろ、それ!心込めろや!」


また、ゆりはいつものようにふわっと微笑んで俺と会話をしてくれた。本当ならバイト中だからこんな話せないと思っとたけど、オーナーが気利かけせてくれたんやろうなぁ。


「そろそろ、部活行くわ」立ち上がった俺にゆりは「行ってらっしゃい」と微笑んんだ。あぁ、やばい。ええなぁ。男は単純な生き物やなぁとしみじみ感じた。昨日のミスが嘘みたいに今日は絶好調やった。



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