お前らと俺は似とって、似てへん
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午前練習だけだったから、一三時には片付けも終わり、後は着替えて帰るだけって時に「治ー」と別に仲良おない男が俺の名前呼んだから仕方なく足を止めた。

「何?……斎藤」
「めっちゃ機嫌悪いやん」

なんて、笑っとるコイツ見るとイラってくるねん。「お前ら今から練習なん?」と斎藤と同じクラスのツムが話に加わってきよった。


「俺ら今日、一日中練習やねん」
「おぉー、ご苦労さんやな」
「そっちは、明日練習試合やろ?頑張りい」
「おぅ、俺が最高なトスあげたるんやから勝てるわ」
「うわぁ、出た、侑のそのよう分からん自信ん」

二人で話しとんなら、俺帰ってええかな?とその場に珍しくまだ残ってた角名と目が合い抜けてもバレへんよな?と視線で訴えたら頷いた。よし、着替えて帰ろ…と部室に足を進みかけた時「直っ!」と呼ぶその声に俺は足を止めた。

「どこ行ってるの!バスケ部いつも向こうの体育館じゃん!」
「あぁ〜悪い。弁当は?」
「はい!私、休憩中だからもう戻るから……っ!あ、治くん達、バレーの練習終わり?」


斎藤に、いつもゆりがお昼に持ってきて居るランチバックを渡してから俺らが居ることに気づいた。弁当本当に作っとんだなぁ。俺と斎藤が手に持っているバックを見とったら「あぁ、そうや」と斎藤が声を上げて、また俺の名前を呼んだ。

「治に用事あったんやったわ」
「何?」
「治、ユキちゃんとヤッたやろ?」
「っ!」

ツムが「ぁあ゛ぁ?!」と声を上げて「何、侑が怒ってん?」と笑らう斎藤にツムが全て言いよった。

「ユキちゃんは、俺のファンやったのに、サムが勝手に横取りしてん!」
「そうなん?やるなぁ〜治」
「…で、それが何」
「俺、この前ユキちゃんと会った時“治とまたヤリたい“言っとで」
「ぁあ゛ぁ?!サム!お前、ユキちゃんに気に入られたからって調子のんなや?!」
「…乗っ取らんわ」
「はぁ?何それ、一回ヤればみんな俺のモンですぅ〜みないな顔しょって!」
「どんな顔や!」



ツムが忘れとった事を斎藤のせいで思い出せてしまった。最悪や。こいつ、絶対明日もこうやってずっと文句言ってくんで…ってか、なんで、このタイミングやね。ゆりだって居る前で言わんでも…角名も前に言っとたけど、女子いる前でなんて話しとるねん!「侑が負けたんかぁ〜おもしろなぁ」と笑っとる斎藤の顔面ぶっ殴ってやりたい。


「…二度合わんって言っといて」
「え?無理やけど?」
「は?」
「だって、ユキちゃん、校門でお前の事待っとんで?」
「「はぁぁ?!」」

おい、サム!とまたツムが怒鳴り始めた。こいつなんで、そんなこと知っとんね。「わ、私、帰えるね」とツムの怒鳴り声にビクビク震えるゆりをなんとかせないかんって思った。

「待って、ちゃうねん!ゆりっ「ゆりっ、」」

俺が止める前に、斎藤がゆりの腰に手を回して「今は行ったあかんやろ?」と頭を撫でた。


「二人の邪魔せんようにゆりは俺が責任を取って見守っておくからごゆっくりどうぞ〜」


ゆりの腰に回した手は離れる事なく、バスケ部の使う体育館へ向かっていく時、一瞬斎藤が振り返り「ざぁまーみろ」と口角を上げて、人を馬鹿にした目を見せよった。


あぁ、アイツが全て仕組んだのか。最悪や。



着替え最中ツムはずっと煩くて、校門には本当に女が居った。「ごめん、俺、お前に興味ないねん」とだけで告げて家に帰った。明日練習試合あるから朝には行けへん。早く終われば夕方に行ける…まず、明日ゆりがバイトかどうかもしらん。連絡先もしらん。いやや。ずっとこんなモヤモヤしとったら耐えられん。

今なら…店におるかもしれん!と立ち上がり、玄関で靴履いとったら、めっちゃ不機嫌なツムが「おい、どこいくねん」ときいてきよった。


「ツムには、関係ない」
「あ゛ぁ?もっかい、言ってみぃ!どうせ、ユキちゃん所やろ!!行かせんぞ 」
「行かんわ!」
「なら、どこ行くねん」
「ゆりン所や!」
「はぁ?!なんで、ゆりちゃんが出てくんねん……っは?」
「…もう、ええやろ!」
「お、おまえ、ゆりちゃん、好きなん?」
「だったらなんや!あほ!!」


そう言い捨てて、家を飛び出した。
まだ店が閉まる時間ではない。さっき斎藤との話で休憩中って言っとたから…もしかしたら、まだ居るかもしれん。無駄夢中で走って、勢いよく喫茶店の扉を開けた。


「いらっしゃいま‥治くん?そない急いでどうしたん?」
「はぁっ、はぁっ…ゆりっ…い、ますか…?」
「あぁ、今ちょうど買い出し頼んで出てしまったけど、十分ぐらいで帰ってくるんやないかな?座って待っときぃ」
「はぁっ、ありがとう…ございますっ…」


オーナーがカウンターにお水を置いてくれたからそこに腰を下ろした。「なにかあったん?」とグラスを拭きながら俺に声をかけたオーナーに「はい」と答えると「そっか」と優しく笑ってくれた。…何も聞いてこんのか?


「ゆりの標準語の意味知っとる?」
「…?…いえ、知らないです」
「ゆりのお母さんがなぁ、関東の人らしいねん。だから産まれた時からずっと標準語なんやって」
「…へぇ、そうなんですね」


あんま気にした事なかったわ。稲荷崎は様々な地方から推薦や一般入試とかで入ってきとるし、バレー部だって関西弁じゃないやつがおる。中学の時なら標準語珍しいなぁと思ったかもしれんけど、今はなにも思ってなかった。

「でも、それが理由で仲間外れにされた事あるんだって」
「…っ!」
「んで、それを助けたんが直哉くんなんやって」
「…かっこええな」
「やろ?ゆりの初恋なんやって」

どこまでも、物語に出てくるような幼馴染みの二人が羨ましいと思った

手を持っていたグラスをコットンと優しく食器棚へ戻して振り返ったオーナーの顔は悲しげに微笑んで
「でもなぁ、直哉くんが、変わってしまってん」と続けた。



「直哉くんは、今もずっとゆりが好きやねん。それと同時にゆりは絶対に俺から離れないって自信持っとんねん。だから、今あぁなってしまってん…でもなぁ、ゆりはそれが嫌なんだと思う」


自信に溢れとる奴の気持ちなんて分からん。わかりたくないけど、俺の身内にも居るからなんかツムの顔が出てきよった。…あ、そういえば、ゆり言っとなぁ“どちらかと言えば“治くん派って意味は、ツムが斎藤に少し似とるから俺を選んだんか…なるほど。

「嫌で、離れたいと思っても離れらないのは、直哉くん以上に好きだと思える人に出会ってなかったからやねん」
「…出会ってなかった?」

オーナーは、優しく微笑んで「治くんと居るゆりは俺の知る中で一番楽しいそうや」と言った瞬間カランっカランと入り口の扉が開いた。


「あれ?治くん、今日はよく会うね」


すると、オーナーがエプロンを外して「ゆり、ちょっと店番頼んでええ?」と厨房から裏へと姿を消した。

俺は斎藤ほど頭良くない。
俺は斎藤ほどゆりを知らん。
斎藤と居る時よりも俺と居たら笑ってくれるなら、俺と居ってほしい。




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