食べ物のためのゼロ距離
3
規則正しい機械音を叩きつけて、枕元に昨晩置いた携帯を手探りで見つけ、明けきらない目を擦って時間を見る。
「あぁ〜っ眠ッ」
仰向けになって視界に広がるのは二段ベッドの板。上からまだ、いびき聞こえてくるって事は今日もツム寝とんだなぁ〜と、ドンっと板をひと蹴りして「朝やぞ、早起きぃ」と俺は優しいからツムに声をかけてやった。でも、それだけじゃ、アイツが起きない事も俺は知っとる。
ベッドから起き上がり、顔洗って、飯食って、部屋に戻ってきてもまだ、寝とる。着替え終わって、家を出る前に仕方ないから俺はツムにもう一回声をかけた。
「俺、先に行くからな?」
「〜っぅぅ〜…ぅー……」
「北さんに怒られても知らんでな」
「…ぅぅ〜……っアかん!!!」
「んじゃ、頑張りぃ」
起き上がったな、よし、エナメルバッグを肩にかけて部屋を出ようとしたら「お前、もっとはよ起こせや!」とツムに俺が怒られた。意味分からんわ、本当、こいつ。
「起こした」
「寝とるんやら、起きとらんやろ!アホか、お前!」
「ずっと寝てるアホに言われたくないなぁ、行ってきまーす」
「おいっ!まて!サム!俺を置いていくな!!」
あんなアホ待っとたら俺まで遅刻して怒られる。
ツムを起こさなかったら、起こさなかったで北さんに怒られるでとりあえず、起きたツムを確認したから俺は怒られる事はない。
まぁ、バレーに遅刻するって事ツムにはほぼ無い。だから、今日もギリギリ間に合っとった。今日は、俺のおかげでな。朝練も無事に終えて制服に着替えとる時。
「あーぁー!あかん!ネクタイ忘れた!」
「あらら」
「なぁ、サム「いやだ」っ!まだ何も言っとらん!」
「俺が怒られるやろ」
「一限だけ!一限だけでええねん!朝、学年主任が来るねん!なぁ?」
「知らん、わって!おい!何勝手に付けとんねん!」
「一限だけやろ、なぁ?」
朝練終わり、腹減ったから教室で早弁したいのに、俺のネクタイを勝手につけて、逃げ出したツムを追いかける気力もない。「もお、へへわ、勝手にせえ」と角名と教室へ向かった。
朝練終わりだから、もうだいたいの人は登校して後五分で鳴るチャイムを待っているだろう。
俺の席は、廊下側の一番後ろ、後ろの出入り口から近いから教室内で散らばって話しているクラスメイトを避けて自分の席に座らなくていい。
自分の席についたら、まずはカバンからおにぎりを取り出してかぶりついた。うん、うまい。けど、今日は一個しかないから、すぐ食べおわった。そのタイミングでチャイムが鳴り、散らばっていた生徒達が席に戻り、いつもならあんまり気にもしないけど、昨日の今日だから、目に入った。
花籠さん、まだ、来とらんのかぁ。
窓側の前から三番目が角名。その後ろが、花籠さん。やけど、その席だけ、空っぽだった。鞄もないし珍しいなぁ…嫌、まぁ、まだ同じくクラスになって二週間しか経ってないから、良く知らんけど、この時間に居なかった事は…たぶん…無かったと、おもう。
ガラッと前方の扉が開き担任が入って来た。
その時、俺のすぐ隣にある後ろの出入り口がカタッ、カタっスーッと静かに開き、ゆっくりと閉まった。
「何やってる?」
「シーっ!バレちゃうから!」
しゃがんで隠れている花籠さんは、必死に担任の隙を狙っている。
「珍しいなぁ、寝坊?」
「だから、しーっ!バレちゃうじゃ「花籠ーっ、そこに隠れとらんと早よ座れぇ」っっ、ぅ!はい!」
「どんまい」
担任にバレた花籠さんが、立ち上がった時「あ、お揃いやね!」と俺の胸元を指差した。あぁ、そうや、今ツムがネクタイ持って行っとたわ…と思い出して、花籠さんの胸元を見ると何も付いてなかった。
「忘れたん?」
「落としてきたん」
「どこに?」
「んー、家?」
と、首を傾げてフワッと笑う花籠さんから美味しそうな匂いが溢れ出てきて一瞬思考が止まった。「早よ座らんと遅刻にすんぞ!」担任の言葉に「いやです」と返して、足早に自分の席へと向かった。
あんまり話した事ないから良く知らんけど、花籠さんはいい人やと思う。でも、少しアホ。
面白いやつだから、角名も仲良くなっているんだなぁと、席でなんや喋っている二人を眺めながら思った。
一限目が終わって、二限目が移動教室でちょうどツムの教室の前通るから「それ、返せや」と俺のネクタイを奪いとった。
そんで、三限目は教室で授業。一回移動教室があるだけで、腹が減るのが早い。三限目、腹がいつ鳴り出すかソワソワしとった。
「角名ー、腹減った。なんか持ってない?」
「ない」
「今日、学食なん?」
「違う、持ってきてる」
「ほら、それ一口くれ」
「嫌だ」
後一時間我慢出来へん。どうしょう…あぁ、やば、腹鳴る…力尽きて、角名の机にへだり付いてたら「おにぎり、ならあるけどいる?」の声に、シュッと力が漲った!
「食う」
その声は、花籠さん。鞄の中から、ランチバックを取り出して、ラップに包まれていたおにぎりを「シャケだけど、大丈夫?」と俺の目の前に出してくれた。今、何か聞かれて気がする…けど、ラップめくって齧り付くのが先。
「うんまっ」
いや、旨いコレなんなん?俺が朝、教室で食べたおにぎりとは比べ物にならんほどフワフワしとって、程よい塩加減で…旨っ!ラップに包んであったからコンビニじゃないよな?…なら、残りは
「コレ、花籠さんが作ったん?!」
「そうだよ」
「めっちゃ旨っ」
「それは、良かったです」
「本当、旨い、ありがとうな」
これで、四限も乗り越えられる。
まぁ四限の間ずっと頭の中では、米の炊き方か?いや、絶妙な力加減?塩?と貰ったおにぎりの事考えとったらすぐに終わった。
よし、弁当食べよう…って、本来なら俺は自分の席ですぐに食べたい。けど、今の席は、扉の近くで、廊下通り過ぎて行く人や教室を出入りする人、声かけられるのもめんどくさい…弁当を持って、窓側の角名の席で食べようと席を立った時「ゆりッーーー」と見知らぬ女子が叫んで、花籠さんの所へ向かった。
「ゆりどうしょう。別れるかも」
「え、どうして?この前デートしたんじゃなかだたの?」
「した。でも、なぁ、きのー」
見知らぬ女子と話し込む花籠さんは、いつも一緒にお昼を食べているクラスメイトに「ごめん、今日はココで食べるね!」と席を立つ事はなかった。
俺、いつも、花籠さんの席借りてたからどこ座ろう…あ、角名の隣でいいか。座って飯食べ始めている間、俺と角名はペチャクチャ喋る事はない。だから、花籠さんと見知らぬ女子の会話がよう聞こえた。
「浮気は考えすぎじゃない?ちゃんと確かめなきゃ」
「確かめるの怖いから、ゆりがそれとなくきいてくれへん?」
「卒業してから連絡一回もしてないのに聞けんよ!」
「えー、あ、このゆりの卵焼き食べたい」
「はいはい、どうぞ」
「んーぅ、旨っ」
「直接、確かめてね?」
「うぅー卵焼き旨ぁ」
「ちゃんと聞くんだよ?」
いいなぁ、卵焼き食べたなってきた…今日の弁当には入ってないし「なぁ、角名」と声をかけたら「もう食べちゃったからない」と角名も会話が聞こえとったから俺の考えている事か分かったらしい。恐ろしい奴だなぁこいつ。
はぁ〜卵焼き食べたい。「ねぇ、花籠」と角名が声をかけた。
「何?」
「治が卵焼き食べたいって、まだある?」
「あぁあるよ!いいよ」
そう言って、花籠さんは花籠さんが使っていた箸で卵焼きを掴み、落ちないように反対の手を添えて「はい、どうぞ」と言った。
いやいや、これは、あの…貰っていいのか?角名の一瞬目を合わせた…え、いや、これで拒んで、卵焼き貰えなく鳴るのは嫌だ。じゃあ、選択は一つ。体を少し乗り出して、パクッと口の中へ迎え入れた。
「っ旨!」
「せやろう?ゆりの卵焼きは絶賛やねん!」
「褒めすぎ」
「いや、まじで、旨い」
見知らぬ女子生徒と意気投合してしまったが、本当に旨くて他に何も言えへんかった。
「なぁ?こんな旨いご飯を毎日食べている直哉本当に恨むわ〜」
見知らぬ女子生徒が、得意げになるのは…まぁ百歩譲って許そう…けど、直哉?…斎藤が、何で毎日食べれるん?「…毎日、作ってるの?」と角名か花籠さんに聞いた。
「んー、前に比べたら作る回数減ってるよ?」
「中学の頃は、お弁当毎日作ったもんねぇ〜」
「中学はね?今は、私バイトあって無理だから作ってないよ」
毎日こんな旨い飯作ってもらえてなんであんな性格悪うなるん?ありえへん。
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