幼馴染みは存在していた


「幼馴染みって、あぁなの?」
「知らん」
「だよねー」

花籠さんの友人は、食べ終わったら教室に戻ると席を立ち、花籠さんはお手洗いに行くと二人で席を外してからすぐに角名が、口を開いた。

俺も少し驚いた。

幼馴染み…絵に描いたような幼馴染みだった。斎藤の親が、仕事で留守にしがちだから、家が隣の花籠さんの家に幼少期から行き来して、小学生高学年になった頃、花籠さんの親も仕事が忙しくなって、ほぼ二人で食事をしていた。なんや、それ。恋愛漫画やったら絶対にそのまま付き合って結婚するやつやん。

「……いいなぁ、斎藤」
「治、花籠さん好きなの?」
「卵焼き毎日食っとったって、羨ましいと思わん?」
「……治が、治で俺は少し安心して、がっかりした」
「は?何言っとん?」
「ごめん、何でもない」

あんな飯、毎日食えるなんて本当に羨ましいなぁ…あかん。こんな事、考えとったらお腹減りそう。五限目までは、後十分ある。よし、寝よう、と瞼を閉じた。

教室の雑音が、いい感じに耳に馴染んで、寝れると思った時「ゆりー」と叫ぶ事に思わずイラッとした。やっと、寝れそうやったのに、煩いなぁ。でも、俺を呼んだわけじゃないし、このまあ目を閉じてたら寝れるなっとその声の主を無視した。

「あれ〜アイツどこ行ったぁー?…なぁ、角名、ゆりしらん?」

角名の後ろが、花籠さんの席って知っているから自分のクラスでもないにずけずけと入ってきよった。俺は寝とるから、携帯弄ってた角名に声をかけたが「知らない」と返した。

「だよなぁ〜、まぁ、いいや」

その声の持ち主、花籠さんの幼馴染みの斎藤は、俺と角名の間を迷わず進み、花籠さんの席に座った。多分、角名も気づいたやろうな。斎藤から女モンの香水の匂いがする。そうゆう事シっとったって事やな。

「あぇ〜腹減ったぁー」と容赦なく花籠さんの鞄の中をゴソゴソと漁る音が聞こえた。

「あれ?ゆり、おにぎり無いじゃん。えー、他にはー…あ、ポッキー発見!」


まだ、空いていなかっただろう箱を開ける音がした。ポリポリッとその場で食べ始めてから花籠さんが戻ってきた時タイミングで瞼を開けた。煩すぎて寝れん。


花籠さんは、怒りもせずに小さなため息ひとつ零して「…直、授業遅れるよ、早よ行きぃ」と斎藤をクラスに戻そうとした。

「なぁ、お前、おにぎりは?」
「食べた」
「二つとも?太るで?」
「俺が一つ食った」

斎藤の分のおにぎりやったんか?なら、俺。今日もらったで謝るないかんなぁと、二人の会話に入り込んだ。

「腹減って、耐えられんくって、もらった。お前のと知らずにすまん」
「…治くん?!起きてたの?」
「煩くて寝れんかった」
「あっ、ごめんね?」
「別にええよ」

ポッキー食っとた斎藤の手が止まり、ふぅ〜ん、と冷めきった眼を一瞬見せてから「ゆりをデブにならんようにしてくれて、ありがとう」と前から知っとる人気者の斎藤の微笑みをみせた。

「花籠さん、別に太っ「ゆり、今日の夜、唐揚げな」…」
「八時までに来てよ?後、それ、あげるから早よ戻って」

よいしょっと立ち上がった斎藤が、花籠さんの頭をガシガシと力を込めて撫でるから、花籠さんの髪が少し乱れた。
そんな花籠さんの事ずっと目で追っとったら、斎藤が視界に入り込んできて、また「ありがとうなぁ?」と言われた。その斎藤の目は全然笑っていなかった。



そんな目で睨まれてもなにも思わん。「治、お前、今日ペナルティサボったやろ?」となんでもお見通しで、真っ直ぐ見てくる北さんの方がよっぽど、怖い。

少し手を抜いた事がバレて、最後の片付けはちゃんとやれよっと押し付けられた。
ツムや角名、銀は俺を待っててくれかった。さっさっと帰って行きよった。ツムはざまぁみろと言いたげな顔が頭から離れん。本当アイツムカつくわ。腹減ったではよ帰って飯食って寝よう。
駅まで五分やから、電車何分のあったかなっと考えて歩いていると、見慣れたスカートと、見慣れないパーカーを羽織ったクラスメイトを見つけた。

花籠さんや。

今日は、よく目に付く。
まともに会話したこと最近やらか?よく分からん。デカいトートバック持って、どうしたんやろ。

「花籠さん」
「あ、治くん、部活帰り?お疲れ様」
「…めっちゃ、ええ匂い!!」

俺の少し前を歩いていた花籠さんに近寄って声をかたら、花籠さんは少し驚いていた。けど、それとは比べものにならないぐらい俺が驚いた。
は?なにこの匂い。駅までの道は毎日通ってるから店とかだいたい覚えているけど、この旨そうな匂いどこから来るん?嗅ぎあてようと必死に鼻をスンスンっと動かしていると「っふ、ふふ」と花籠さんが笑った。あ、忘れとった。俺から声かけたんやった。

「あ、ごめん。なんか、めっちゃいい匂いしよって…揚げ物の匂い…」
「そんなに匂う?」
「腹減っとるオレにはめっちゃ匂う」
「…たぶん、コレかな?」

そう言って、手に持っていたトートバックのファスナーを開けるとぶわっと旨そうな匂いが広まった。「なにこれ、めっちゃ旨そうな」ヨダレが垂れそうなのはグゥと我慢した。

「良かったら、いる?」
「え?もらってええの?」
「うん、作ったけど、今日ご飯要らなくなったって、連絡入ったから」

…あぁ、斎藤か。
あいつ、こんな旨いもん食わずになにしとん?馬鹿やな。まぁ馬鹿なおかげでオレが貰えるから斎藤に感謝やな!…でも「どっかに持っていくんじゃ、ないの?」と手を出すのを必死に堪えた。

「バイト先におすそ分けいこうと思って」
「なら、そっちへ持っていき!俺、帰ったら飯あるからだい…グゥ〜…あっ!」
「ふっふふふ、お腹は正気だね」

道のど真ん中で、デカい腹の虫が鳴きよった。「治くんが、良かったら一緒に行かない?」と言われて、俺の答えは一つしか無かった。




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